第61話 襲撃 2
降助がルムザと戦っている頃、街では…
「ほいほいさっさと。」
「ぐあっ!」「ぎゃっ!」「こ、こいつ、強…うわあっ!!」
「うん。長く冒険者から離れてたけど勘は鈍ってないようで何より。」
「こいつ…まさか流氷のシグルドか!?」「な、なんだと!?」「そんな化け物がなんでこんなところに…!」
「どうしたのかな?かかってこないなら…こっちから行くぞ。」
「ヒッ…!」
シグルドが魔王軍の配下達を流れるように切り裂いていく一方、街の反対側では…
「ふん!はっ!」
「ぐわっ!」「ぶっ!」「おげぇっ!」「ぶげっ!」
「つまらん!魔王軍とは雑魚の集まりなのか!」
「な…なにを〜っ!」「相手は1人だ!囲めっ!囲め!」
「無駄な事だ…《サンダーレイン》!」
魔物に雷の雨が直撃し、あっという間に消し炭になる。
「ふう…ひと通り片付いてしまったな。さて、コウスケを探して手伝うとするか。」
更に場所は変わり、街の門付近ではクーア達3人が兵士達と共に魔王軍の配下と戦っていた。
「オラッ!」
「クー姐、しゃがんで!」
「おう!」
クーアとトーカは息の合ったコンビネーションで配下を次々と倒していく。
「1匹ずつ落ち着いて対処しろ!なんとしても門を守り抜くぞ!」「「「はっ!」」」
「やれ!人間を殺せ!」「虐殺だ!」「ゲヒャヒャーッ!」
「う、うわあっ!」
「《シールド》!《ホーリーボール》!」
「ギャッ!」
「あ、ありがとう嬢ちゃん。助かったよ…」
「怪我はありませんか?」
「ああ、大丈夫だ。」
「まだまだ敵は攻めてきます。お気をつけて!」
「トーカ、アレいこうぜアレ!」
「アレだね、分かった!」
2人は背中合わせになり、剣を構える。
「「《ブレイドストーム》!!」」
「ぐわあぁ!」「ぎゃあぁ!」「うわあぁ!」
2人を中心に放たれる斬撃の嵐は敵を斬り刻み、屍の山に変えていく。
「っしゃ!決まったな!」
「私達の連携技!見たか!!」
「凄いです!」
「へへっ。だろ?」
「次、来るよ!」
「チッ…数が多いな…!」
「それだけここを重要視しているんでしょうか…」
「とにかく、どんどん倒すよ!」
「おう!」
クーア達やヴニィル、シグルドが次々と魔物を倒していくが、魔物達は四方八方から攻め込み、いつの間にかシューヴァルト学園の正門前までやって来ていた。
「ここだ!」「徹底的に破壊しろ!」「女子供も皆殺しだ!」
「もうここまで来やがったか…!ミレナ、後方から魔法で援護しろ!カイト!テメェはオレと一緒に前線だ!他のやつらもついてきやがれ!」
「分かった!」
「了解!」
ガーヴ達は正門前の魔物達との交戦を始める。
「《フレイムスラッシュ》!」
「《クイックスラッシュ》!」
「煌めく氷の玉は触れるものを凍させる。《アイスボール》!」
「ぐわぁっ!」「ギアッ!」
「よし、このまま押し切るぞ!!」
「うん!」
ガーヴが剣を構え直した瞬間、校舎から何かが激突したような音が鳴る。
「何かが激突した?」
「…ちょっと見てきていいか?」
「分かった。こっちはなんとかなるから大丈夫!」
「任せた!」
その数分後。突如、正門の魔物達の上からガーヴが降ってくる。
「ぬおっ!」「どっから現れやがった!?」
「チッ…コウスケのヤツ、適当に飛ばしやがったな…!」
「え…今どこから出てきたの?」
「コウスケの魔法だ。気にすんな。それより戦況はどうなってんだ?」
「だいぶ減った。あとはそこにいるやつらだけ!」
「おっしゃ分かった。《フレイムラッシュ》!!」
ガーヴ達が正門で戦う中、降助は街中を高速で飛び回るルムザを追跡していた。
(流石に高速移動続きは疲れた…攻撃を受けるリスクは上がるけど仕方ない…!)
ルムザはハンミョウとハエへの変化をやめ、トンボの羽とクロカタゾウムシの鎧を纏う。
(スピードが落ちた!でもまたあの鎧か…破れなくはないけど面倒ではあるな…)
ルムザは前方に広場を見つけるとニタリと笑い、腕をムカデに変化させて通行人を何人か捕まえる。
「こっちを見なよ!君がこれ以上追ってくるならこいつらを殺し―」
「《乱飛斬》」
ルムザが言いきる前に斬撃を飛ばし、人質を避けてムカデになった腕を斬り落とす。
「人質も意味無いか…なら!!」
ルムザは大きく息を吸い込み、降助に狙いを定める。
(何かくる!!)
「焼け死ね!」
ルムザから吐き出されたガスは一直線に降助を狙って飛んでくるが、即座にバリアを展開し、防ぎながら追跡を続ける。
(今のガスは……成程、ミイデラゴミムシか!)
「ああもう…これも効かないのか…!化け物め……仕方ない…!」
ルムザは懐から魔法陣が書かれた石を取り出し、口に近づける。
「あー、あー、ラムザだけど。聞こえてるかな?残念だけどここで撤収。予想以上の相手が出たから撤退するよ。生きてるなら街の北から離脱して。」
言い終えるとクロカタゾウムシの鎧を解除し、素早く上昇して離脱する。
「くっ…逃げられた…!」
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「さて…生き残ったのは……あれ、これしかいないの?」
「は、はい…その、予想外の攻撃を受けまして…」
「そっちも?何があったのさ。」
「流氷のシグルドです。」
「あちゃー……それは仕方ない、といえば仕方ないかな…とりあえずジミル様に報告しないと。」
ルムザは懐からさっきとは別の魔法陣が刻まれた石を取り出す。
「ジミル様、ルムザです。」
『ルムザか。首尾はどうなった?』
「そうですね。結論から言うと失敗です。想定外の抵抗により、大した被害も出さないまま撤退を余儀なくされました。」
『…何があった?』
「流氷のシグルドです。」
『成程な。我も出会った事は無いが噂は聞いた事がある。まさか、プラチナランクの冒険者がそんなところに居るとはな…だが、お前が居るならたとえシグルドが居たとしても大した被害も出せないなどという事は無いと思っていたが…』
「そうですね…出発前、ジミル様は新たな戦力が生まれるのを防ぐ為と言っていましたが…既に相当なものが育ってしまっていたようです。」
『ほう?』
「恥ずかしい話ですけど…たった1人の青年にずっと足止めされて何もできませんでしたよ。」
『あのジミルがそこまでとは…一体何者だ?』
「さあ…容姿は白髪が混じった黒髪に青い瞳で、体つきは華奢でした。」
『ふむ…』
「こっちが超スピードで飛び回るとあっちはスピードステップと縮地だけで追いかけてきますし、鎧を纏っても彼の攻撃だけは鎧ごと斬ってきました。他にもワープみたいな感じで突然現れたり、バインドチェーンにファイアボールを纏わせたりとかなり器用な事もしてました。僕はこの先、彼が大きな障害になり得ると感じています。」
『そうか。とにかく、ご苦労だった。帰ってゆっくり休むといい。』
「そうさせてもらいます。」
一方で街では、降助が皆と合流するべく道を引き返そうとしたがその瞬間、勢い良く何かが地面に激突し、土埃を巻き上げる。
「な、なんだ…!?」
やがて土埃が晴れると、そこには少女とその後ろに男が立っていた。




