第6話 世界の歴史
あれから早1年数ヶ月。季節は冬になり、すっかり寒くなっていた。辺りにはたくさんの雪が積もり、太陽の光を反射して輝いていた。降助は窓に手を当てて寄りかかりながら外を眺める。
「さむいですね」
「そうじゃな。年寄りはみーんな冷え性じゃからな。この季節は冷えていかんのう……」
(ふう。ようやく喋れるようになったしちゃんと立てるようになった……と言ってもまだ上手く呂律が回ってない時もあるし掴まってないとたま〜にふらつくし……こればっかりはしょうがないか……)
「…時間が経つのは早いですね。この子がこの館に来てからあっという間に1年が過ぎて雪が降る季節になってしまいました。」
「そうじゃな……まだ最初の秋くらいの気持ちで居たんじゃがなー……」
「しかしあの子の成長も早いのう。もう喋ってしっかり立つ事もできる。俺があれくらいの歳の時は喋って掴まり立ちするのがやっとじゃったぞ。」
「最近の子供は凄いですね……」
(子供への認識が俺基準になっていく……本当は17歳なんだけど……)
「それに歯もある程度生え始めたしの。そろそろ固形物の料理も作れる頃じゃろ。腕が鳴るのう!!」
「きたいしてます」
「おぬしの料理はミコトのお墨付きみたいじゃの。」
「りゅうどうしょくのころからおすみつきです」
「それはとても嬉しいのう……!」
「しかし本当に賢い子ですね……教えていない筈の言葉の意味も分かっている……」
「確かにそうじゃな。これは……」
「やっぱりかの?実はワシもそう思っておっての…」
「ボウもそう思うかの?実は俺もそう思うんじゃよ…」
「そう……かもの……」
「ふむ……」
「えっ……」(も、もしかして転生しているのがバレ―)
「「「「「「この子は天才じゃ!!!」」」」」」
「ソウデスボクハテンサイデスヨー」(うーんこの……)
「せっかくの才能を無駄にしてはいけませんしジークさえよければお勉強を始めてみませんか?」
「べんきょうですか?」
「はい。私の書斎にあるあなた向けの本をいくつか選んでおきますのでそれを使って勉強をするのです。」
「なるほど……」(元々勉強は好きだし、この世界についても早めに学んでおきたいと思ってたからな。丁度いいかも!)
「そうじゃ、もし興味があれば儂は薬学を教えるぞい。といっても簡単なものじゃが覚えておくとなんだかんだ便利じゃ。」
「あとはワシは料理を教えてやれるの。調理はまだ危ないから駄目じゃが作り方を教えていくくらいならいいぞい。」
「あ…ならわしは魔法を……」
「駄目じゃ。この子の魔力量がどのくらいかも分かっとらんし戦うのはまだまだ全然早いぞい。」
「そ、そうじゃよな……はぁ……」
「そういえばコウさんとボウさんはなにをおしえてくれるんですか?」
「俺らも教えられるのは戦いの事くらいじゃ。いずれ時が来たら、の。」
「そうじゃな。」
「そうですか……」
「それでいかかですか?勉強を始めてみるのは?」
「そればぜひ!べんきょうしたいです!」
「いい返事です。では早速私の書斎に行きましょう。」
降助は壁に手を添えながら慎重に歩いていき、アインの書斎に向かう。
「まずは何から勉強しましょうか……長年趣味で集めていましたが…こうなると本が多すぎるのも考えものですね……」
「すごいほんのりょうだ……」
「こういう時は何か興味のある分野から始めてみるのが良いでしょう。何か気になる分野はありますか?歴史に言語、計算……よりどりみどりですよ」
「うーん……じゃあれきしがいいです!」(言語は今のところ問題無さそうだし計算もできるし。歴史でいいよな。)
「歴史ですね。えーっと確かこっちの棚のこの辺りに…ありました。これですね。」
アインは本棚から本を何冊か取り出すと降助を椅子に座らせて机に本を置く。
「これが歴史書です。一緒に読みますか?」
「はい!」
「ではまずこの本から。」
アインは降助の向かいに座り、本のページをめくって指差ししながら読み聞かせていく。
「まずはこの世界の始まり。5千年前、神々がこの世界を創ったとされる創世紀。長い歴史の中で様々な要因で地殻変動が起こったので原型が残った場所はもう殆どありませんがこの大陸や他の大陸が創られた時代です。未だ動植物は存在せず、ただ海と大陸のみが存在したと言われています。」
「なるほど……」(5千年前……日本だと縄文時代だった頃かな…そう考えるとこの世界って意外と最近……まあ人からしたらどっちも滅茶苦茶に長い時間だけど……)
「説によってはこの創世紀より前にも時代が存在したとするものもあります。」
「そうせいきよりもまえ……どんなのですか?」
「読みは同じですが書き方が違う創星紀といって神々によって夜空で輝く星々が創られた時代、この世界の基の基が創られた時代とされています。大半は創世紀を最初としていますが最近はこの創星紀を最初とする説も広まってきています。」
「そうなんですね……つぎのじだいはなんですか?」
「創世紀の次は新生紀。これは3千年前頃と言われていて、創世紀の最後の方に現れた原初生物が人型に進化した時代とされています。それまで小動物や猿の様なものだった生き物達が徐々に人に近づき、一定以上の知能を持ち始めた時代です。このあたりはまだ魔族やエルフ、ドワーフのような区分は無かったとも言われています。」
「そうなんですね……」(旧石器時代とかそこら辺かなぁ……類人猿とか原始人とか…あー…そこら辺ちゃんと覚えてなかったな……)
「そして2千年前、古代の魔物と古代の人族達が争った原魔紀。当時は魔法も数万人に1人が使えたかどうか、というくらい普及していなかったので激しい戦いだったとされています。そしてこの頃から種族の違いが現れ始めたと言われています。」
「そんなじだいもあったんですね……」
「そして次が千年前、およそ平和とされている時代が長く続いた泰平紀。実際のところ争いは起こりましたが頻発したわけでも大規模な戦争になったわけでもないので泰平紀とされています。この頃には種族の違いははっきりし、それぞれの国も複数できていました。」
「そのくらいにはまほうはひろまったんですか?」
「はい。今より多少少ないですが原魔紀よりは格段に増えました。といってもまだまだ簡素で初歩的な魔法が多かった時代のようですが。」
「ほえ〜なるほど……」
「そして3百年前の大征服戦線紀と百年前の征服戦線紀。どちらも世界征服を目論んだ魔族の軍団と他種族の連合軍が争った近代の戦乱の時代です。私は大征服戦線紀以前の生まれで戦線を知っていますがあれはとても悲惨なものでした。」
「…そうなんですか。」
「はい。魔族も他の種族も…多くの命が犠牲になりました。……と。戦争の話は置いておきましょう。今はあまり触れる必要はありません。そして最後が現在である新平紀。征服戦線も終わり、平和な世の中となりました。」
「えーっと…ひぃ、ふぅ、みぃ……7つのじだいがあってそうせいきをふくめると8つなんですね。」
「はい。創世紀や創星紀は神々の逸話などが絡むので詳しく学ぼうとすると大変ですが新生紀あたりはシンプルで―ごほっ!げほっ!」
「だ、だいじょうぶですか!?」
突如咳き込み、蹲るアインに降助が駆け寄る。
「い、いえ……大丈……げほっ!げほっ!」
「す、すぐにハクさんをつれてきます!」
降助は早く動けない体に四苦八苦しながら1階に居るハクを呼びに部屋を飛び出した。