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第57話 宣戦布告

降助達4人でのお祝いの食事の少し前、ルリブス王国内のとある村にて。


「ぐああぁぁ!!」

「た、助け…!」

「誰か…!た…助け…ぐあっ!」


助けを求める人々は次々と貫かれ、斬られ、裂かれていき、村が火に包まれていく中、村人達が容赦無く殺されていく光景は地獄と呼ぶに相応しい惨状だった。


「なんで…こんな事をするんだ…!もう、やめてくれ…!頼む…!もう……!」

「なんでこんな事を?もうやめてくれ?頼む?何を言ってるのかな君達は。」

「へ…?」

「僕が同じ事を言ってもやめなかったのはそっちのくせに。」


襲撃者は命乞いをする中年の男の前に立ち、ボロボロのローブのフードを脱いで、そよ風で揺れる灰色の髪の隙間から紫色の瞳で見下す。


「お…お前は…!」

「覚えてる?皆で揃って僕をいじめてたよね。化け物って罵って。石を投げて。拳で殴って。毒を盛って。冒険者まで雇って僕を殺そうとした。」

「ぐ……」

「酷いよね。僕から何かした事なんて1度も無いのに。」

「た…」

「た?」

「助けてください…!許してください…!」

「…ねえ、同じ事を2度言わせないでよ。」


ローブを着た男の右腕が変化し、サソリの尾になる。


「やめてって言ってもやめなかったのはそっちだから。僕も同じ事をするだけだよ。」

「や、やめ―ぐぁっ!!」


中年の男は尾に貫かれ、絶命する。


「さて…僕の実家は……変わってなければあそこかな。」


ローブの男は背中から蝶の羽を生やし、家の前までゆっくりと飛んだ後、羽をしまってドアをノックする。


「ただいまー父さん、母さん。帰ってきたよ。………返事は無し…か。」


ローブの男は腕をカマキリの鎌に変化させ、ドアを切り裂いて中に入り、辺りを見回す。すると、部屋の隅で縮こまって身を寄せ合う老齢の男と女を見つける。


「ヒッ…!」

「ちょっとちょっと。数年振りに再会した息子と会って第一声が悲鳴って…皆に傷つけられるのは慣れちゃったけど…それでも傷つくなぁ…」

「ル…ルムザ…!」


ルムザと呼ばれた男はニッと笑うと、2人にゆっくりと近づく。


「く、来るな…!この化け物め…!」

「あ…あたしはなんてもんを産んじまったんだ…!」

「まあ、2人にはちょっと同情するよ。ようやく授かって、頑張って産んだ息子がこんな力を持ってしまったばかりに、村で避けられたんだもんね。だからって虐待するのもどうかと思うけど。」

「お、お前は人間なんかじゃない…!化け物だ!悪魔だ!」

「うぅ…ううぅ…!あんたさえ…あんたさえいなければ…!」

「はあ…最後の最後まで罵倒なんだね。」

「さ、最後って…ま、待ってくれ…!い、命だけは…!」

「ああ、そう怯えないで。もう出ていくから。」


そう言ってルムザは再びニッと笑い、家を出ていく。


「た、助かったのか…?」

「ああ、よ、良かっ―」


その瞬間、超高温のガスが周りの炎を巻き込みながら家に流れ込み、2人は家諸共焼かれる。


「出ていくとは言ったけど殺さないとは言ってないよ。」


火に包まれ、家が次々と崩壊していく村を去ろうとした時、馬に乗った兵士の集団がやってくる。


「ああ、ようやく来たんだ。遅かったね。もうこの村は滅んじゃったよ。」

「くっ…貴様、何者だ!」

「…人に名前を訊きたいならまずそっちから名乗ったらどうかな?」

「なんだと、貴様…!」


剣を抜きかけた兵士を制止し、隊長らしき金髪の男が前に出る。


「私はルリブス王国第2騎士団団長、バルツ・ロー

・グレストだ。村が襲撃されたと聞き、ここに来た次第だ。」

「言ってみただけなんだけど…律儀に名乗るんだね。じゃあ僕も名乗ろうか。僕の名はルムザ・ヴァーグ!ルリブス王国に宣戦布告をするべく、この村を滅ぼして適当な伝言役が来るのを待っていた次第だよ!」

「…我が王国に宣戦布告だと?」

「その通り。我々…魔王軍からね。」

「魔王軍…!」「遂に動き出したのか…!」「まさか…!」


兵士達はざわめき始め、バルツも表情が険しくなる。


「という事でこれをご覧いただこうかな。」


ルムザは懐からオーブを取り出し、バルツ達に見せる。するとオーブが光りだし、1人のシルエットが映し出される。やがてシルエットは2本の漆黒の角と尖った耳を持ち、漆黒の長髪で縦長の瞳孔に真紅の瞳、色白い肌の魔族の男に変わる。


『我が名はジミル。新たな魔王である。…さて、早速だが、私はずっと前からこの世界を見てきた。人間もエルフもドワーフも獣人も…手を取り合っているように見えてくだらない小競り合いを起こし、差別し…同じ種族の間でさえもそれは多発している。実に醜い。更には我が同胞…世界各地で慎ましく暮らす魔族を迫害し、魔物を駆逐している……やはり、この世界は争いによって醜く、穢れている。よって、我々新生魔王軍は世界を滅ぼし、新たな世界を作る事とした。足掻きたいのならば足掻くといい。私は…全て滅ぼしてみせよう。』


そう言い終わるとジミルは消え、オーブの光も消える。


「あ、これは置いて帰るよ。魔力をちょっと流すだけでまた再生できるから、自分とこの国民なり他国のお偉方なりに見せたら良いんじゃないかな。じゃ、また会おうね。」

「待て!」「逃すな!!」「ここで捕えろ!」

「待て!迂闊に近寄るな!!」


ルムザは超高温のガスを噴射し、その勢いで飛んだ後、カブトムシの羽を生やして飛び去っていく。


「ぐああっ…!」「あ…熱いッ…!」

「くっ…すぐに水を持ってこい!患部を冷やすんだ!」

「は、はい!」

「私は生存者の捜索を行う!他に手の空いている者は手伝え!」(あの男…ルムザといったか……体を昆虫に変化させていたようだが……何かの魔法だろうか…?とにかく、たった1人でこれだけの被害をもたらしたのだ。警戒せねば……)


そして次の日。シューヴァルト学園では降助はAクラスの教室の前にやってきていた。


「えー、今回はこのクラスに新しい仲間がやって来ます。といっても、Cクラスから移ってくるので知っている人もいるかもしれませんが…では、入ってきてください。」

「失礼します。」


降助は教室に入り、リヒルトの隣まで歩く。


「Cクラスから来ました。コウスケ・カライトです。よろしくお願いします。」


簡単な自己紹介をしてお辞儀するが、あまり歓迎ムードではなく、どちらかというと「なんでCクラスのやつなんかがうちのクラスに?」といった感じだった。


「えーっと…ではコウスケ君はひとまずガーヴ君の隣にお願いします。」

「はい。」(うわ〜…歓迎されてない感じが凄いな〜…あ、ミレナは嬉しそうだな。ガーヴは…「マジで来やがった…」みたいな顔してる…)

「今日からよろしくね、コウスケ君。」

「あ、うん。よろしく。」

「ほら、ガーヴも挨拶。」

「…よろしくな。」

「うん。よろしく。」


降助は2人と少し喋っただけだが、クラスからの視線は痛くなっていく。特にミレナと会話した瞬間、男女両方の視線が痛かった。そして案の定、昼休みになって降助は早速男子生徒に絡まれていた。


「えーっと…皆さん何のご用で…?」

「お前さ、どんなコネ使ったか知らねぇけどさ、CクラスからAクラスになれたからって調子乗ってんじゃねぇぞ?」

「つーかさ、いきなりミレナちゃんと会話してるとか生意気じゃね?」

「それな。マジムカついてきたわ。」

「お前みたいな落ちこぼれがミレナちゃんと話してるとかなんかの間違いだろ。」

「マジでガーヴさんとミレナちゃんの間に入んじゃねぇぞ?殺すぞ?」

(嫉妬が凄いな……というかなんか1人推しカプにしてる人居なかった??)「えーっと…落ちこぼれ…?俺、一応Cクラスだったんですけどそんなにですか…?」

「は?Bクラスならまだしも、Cとかほぼ落ちこぼれだろ。」

「つーかさ、Cクラス風情がイキんなよ?」

「そうだよ。Cクラスが2人の間に挟まんじゃねぇよ。マジ殺すよ?」

(さっきから強火がいて話が入ってこない…)「と、とりあえずそろそろ授業始まるんで戻っていいですかね…?」

「は?何勝手に帰ろうとしてんの??」

「話はまだ終わってねぇんだけど?」

「やっぱ生意気じゃん。ちょっとシメようぜ。」

「はぁ…《ヒュプノスミスト》」

「ふあっ」「ふがっ」「うおっ」


降助の手から放たれた霧を吸い込んだ3人はその場に倒れ、寝息をたてながら眠ってしまう。


「…最初にガーヴに絡まれた時もこの魔法使っておけば良かったかな……」


その後、1日の授業が終わり、降助は途中で会ったカイトと共に寮に帰った。ちなみに、3人は下校時間まで誰にも発見される事なく、すやすやと眠っていたらしい。


「今日はどうだった?早速絡まれたりしてないかい?」

「えーっと…男子3人が昼休みにシメようとしてきたのと…そのちょっと前に女子4人がネチネチ言ってきたのと…あとはカイトに会う直前にも男子が1人か。」

「はは。早速人気者だねぇ。」

「まあね。おかげさまで楽しくやっていけそうだよ。」

「それは本心かい?皮肉かい?」

「それ訊く?…まあ、どっちも、かな。いや、強いて言えば皮肉寄り…かな?」

「そっか。」


降助とカイトが談笑していると、ドアをノックする音と共に、シグルドが入ってくる。


「ども。コウスケ君借りるよ。」

「えっ…あっ…はい!」

「いやノックと同時に入ってきたら意味無いじゃないですか!!」

「ごめんごめん。でも急用なんだ。」

「わ、分かりました……」


その後、降助は昨日と同じように執務室でシグルドと向かい合ってソファに座る。


「昨日の夜、ルリブス王国にある村が滅ぼされた。」

「ほっ…滅ぼされた!?襲撃されたとかじゃなくてですか!?」

「そう。滅ぼされた。たった1人の男によって跡形もなく。」

「跡形もなく…」

「幸い、小さな子供は無事だったけど…大人は女と老人含め皆殺し。子供達は生き残った、というよりはあえて見逃されてのかもね。ま、どんな意図があろうと虐殺は許されない。」

「…それで、その男は一体何者なんですか?」

「…男の名前はルムザ・ヴァーグ。魔王軍だ。」

「魔王軍…って事は…!」


シグルドは頷いた。


「ついでに魔王も判明した。魔王ジミル。第2騎士団団長が受け取ったメッセージによると世界を滅ぼして新しい世界を作ろうとしているらしい。」

「世界を…滅ぼす…」

「既に動きもいくつか見られている。近いうちに、戦争が始まるかもしれない。」

「ッ…!」


降助の額から冷や汗が垂れた。

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