第56話 新学期
「おーい師匠?起きてるかー?」
呼びかけても返事がなかった為、クーアはそのまま部屋に入ることにする。降助はベッドの上で熟睡しており、自分で目覚める気配は無かった。
「おーい師匠、起きろよ。もう朝だぞー?」
「うーん…あと5分……」
「今日始業式なんだろ?早く行かないとなんじゃないのか?」
「むにゃ……ふあぁっ!?い、今何時!?」
「うわっ!びっくりした…もう朝だぞ師匠。学校間に合うのか?」
「やっべ!急がなきゃ!」
慌てて起きた降助は素早く着替えを済ませ、ベルが焼いたトーストを咥えてディメンションチェストで寮の適当な物陰と繋げる。
「はぁ…はぁ…は、はひはっははは…?」
「あ、おはようコウスケ。そんなところで何してるんだい?」
「わああぁぁっ!?」
突然声をかけられ、驚いて咥えていたトーストを落としそうになるが、なんとか落とさずに食べきる。
「な、なんでここに…?」
「なんでって…いつもこの道を通るからだけど…僕も驚いたよ。いつの間に帰ってきてたんだい?」
「まあ…ついさっき。」
「ふーん。あ、もうすぐ始業式が始まるから急がなきゃ!」
「うわ、もうそんな時間か!」
2人は駆け足で講堂に向かい、途中でガーヴとミレナと合流する。
「や。久しぶり。」
「久しぶりだな。」
「うっそ…コウスケ君どうやって帰ってきたの!?ここからスタトって馬車でも飛空艇でも間に合わない距離なのに…」
「まあ、色々ありまして。」
「何それ……」
「コイツに関しちゃそういうのは気にするだけ無駄だ。ほっとけ。」
「そうだね。僕もそういうものとして受け入れているよ。」
「えぇ…?」
4人は講堂に到着し、席に座る。それから数分後、若干眠たそうな顔のシグルドがやってくる。
「ふあぁ……こほん。はい、皆さんおはようございます。長かった夏休み、皆に何かあったりしないかと心配でしたが全員揃って始業式を始められて学園長は嬉しく思います。それになにやら…この中に冒険者ランクがプラチナになった生徒がいるとか…いやはや、めでたいですねぇ。」
シグルドの一言で講堂が一気にざわつき始める。そして降助は一瞬、シグルドと目線が合ったような気がした。
「プラチナランク…!?マジかよ…!」
「そんな人が居るんだねぇ…」
「やっぱり貴族部の人かなぁ…?」
「ま、可能性があるならそうだろうな。プラチナランクなんざ、そうそうなれるランクじゃねぇしよ。」
「……」(な…なんで学園長に知られてるの!?一体どこから…思い当たるのは…グランドマスターだな…でもどうしてグランドマスターはシグルド学園長にそんな事を…?)
「ま、それはそうと冬休みまでの数ヶ月間、頑張って勉強してくださいね。それでは解散!」
突然の爆弾発言に生徒達は未だざわめいていたが、始業式は解散となったので、徐々に人が減り始める。
「僕はちょっとトイレに行ってくるから先に帰ってていいよ。」
「分かった。」
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(シグルド学園長…一体何が目的なんだろう……)
「やあコウスケ君、ちょっとお時間いただけるかな?」
「うわぁっ!?し、シグルド学園長!?」
「そんなに驚かなくても…ま、いきなり話しかけたのは俺だしそりゃそうか。」
「えっと…何の用ですか…?」
「まあまあちょっと執務室でお茶でもしようよ。」
「は、はぁ…?」
断る事もできず、あれよあれよという間に執務室に連れ込まれた降助はソファに座らされる。
「それでその…学園長が俺に何の用でしょうか…?」
「んー…そうだな…まずはプラチナランクおめでとう。グランドマスターから聞いたよ。」
「…グランドマスターとお知り合いなんですね。」
「まあね。俺も元プラチナランクの冒険者だったのさ。」
「え…?」
シグルドはプラチナランクのギルドカードを机に置き、降助はそれを手に取って眺める。
「ほ…本当にプラチナランクだ…!」
「ま、今は失効してるからそれはただの飾りになっちゃったけど……っと。雑談はこれくらいにして本題に入るか。」
途端にシグルドは神妙な顔付きになり、降助もピシッと姿勢を正して話を聞く。
「コウスケ君、君を平民部Aクラスに転入させる。」
「……え?」
「という事で明日から君はAクラスで授業を受ける事になるからよろしくね。」
「きゅ、急に言われても困りますよ―」
「あとそれから…」
(ま、まだあるの!?)
「魔王軍対策連合に入ってもらう。」
「魔王軍…対策連合…?」
「そう。最近、征服戦線時代の魔王軍の残党に動きが見られている。そこで、各国は連合を作り、各地から腕利の冒険者を集めている。」
「それで…学園長は俺を指名したいんですか?」
「そう。俺だけじゃなくてグランドマスターからも推薦されている。必要なんだ。魔王軍の仕業と思われる改造されたタイラントフィッシュを討伐し、プラチナランクとなった君の力がね。」
「……」
「まあ…こうやって勧誘はしているがさっき、入ってもらうって言ってるし、実際はほぼ強制なんだ。これは人の上に立つ者の責任だよ。ノブレス・オブリージュってやつかな。」
「ノブレス・オブリージュですか…」
「そう。その力で弱者を、人々を守る責任がある。君も、そのつもりで力をつけたんじゃないのかい?」
(……そうだ。シグルド学園長の言う通り、俺がこれだけの力を望んだのは誰かを守るため…助けたいと思った人を助ける為…自分もやられないようにする為だ。今こそ、この力を使わなくてどうする…!)「はい。是非、やらせてください。」
「ありがとう。その返事が聞けて嬉しいよ。じゃ、話はここまで。お疲れ様。寮に帰ってゆっくり休んで。」
「はい。失礼します。」
「さぁ〜てここの棚に隠しておいたクッキーを……あれ!?無い!!嘘だろ!?完璧に隠しておいた筈のクッキーが消えてる!?」
部屋を出て扉を閉めた瞬間、何かが聞こえたような気がしたが降助は気にせず寮に戻る事にした。
「引き受けたは良いけど…魔王軍対策連合で何をすれば良いんだろう…ま、今は置いとくか……」
「あ、コウスケ。やっと帰ってきたんだね。トイレに行ってた筈の僕が先に帰ってきちゃったから驚いたよ。どこか寄り道でもしてたのかい?」
「まあそんなところ。あ、あと俺明日から平民部Aクラスになるんだってさ。」
「へぇ〜そっか。平民部Aクラスに………本当かい!?」
「うわあビックリした……そ、そうだよ。シグルド学園長直々に通達されてさ。」
「そっか…Aクラスに…やっぱり凄いねぇ、君は。」
「いきなりすぎて実感湧かないけどね……」
「…じゃあ今日はお祝いに外に食べに行かないかい?僕に奢らせてよ。」
「えっ…いいの?」
「うん。お祝いだからさ。お金はあるし気にしないでいいよ。」
「じゃあ…お言葉に甘えようかな。」
「うん。じゃあ夜に準備して行こうか!」
「うん。」
そして夜になり…
「で、何で2人が居るの?」
「折角だし、皆でお祝いしようかなって。」
「私、コウスケ君がいきなりAクラスになるって聞いてビックリしちゃったよ!本当に明日からAクラスなの?」
「まあ、そうらしいよ。」
「へぇ…凄いなぁ…!」
「で、ガーヴさんからは何かないの?」
「ああ?別に何もねぇよ。」
「えぇー?お祝いなのにー?」
「なんだコイツ図々しいな…!そんなに何か欲しいなら決闘するか?」
「なんでそうなるの!?」
「えーっと…そうだな、アレだ!Aクラスになるた為の試練だ!」
「そんなのせずとも勝手にAクラスになるんだけど…あ、そういえばなんで実力を隠してCクラスでやってるのか、ようやく理由が見つかったんだよ。今更過ぎるけど……」
「へえ?確か前は面倒事が嫌だとか腰抜けみてぇな事言ってよな?変わったのか?」
「まあ、そんな感じ。それで理由はズバリ、普通の学園生活を送りたいから!」
「……は?」
「目立ち過ぎる事もなく、落ちこぼれる事もなく…悠々自適な学園ライフ…それに、久し振りの学校だからね…失った青春を取り戻すっていうか…なんというか…。」
「…最後はよく分かんねぇが…何にせよアホみてぇな理由なのは確かだな。」
「まあ、それに明日からAクラスだから最早意味無いけど!!」
「だな!!」
「「はははははは!!!」」
「あのガーヴとコウスケ君が一緒に笑い合ってる…」
「取り敢えずお店行こうか…予約の時間来ちゃうし…」
その後、4人はちょっぴり豪華な食事でお祝いをして楽しんだ。




