第55話 降助最大のやらかし
ロトウィーナス教皇国を発って数日。降助達はギルド本部に到着し、グランドマスターのユーラに報告をしていた。
「成る程…汚染された神の足跡に改造変異のタイラントフィッシュか…よく解決してくれたね。ありがとうコウスケ君。」
「はい。あ、それと彼女の冒険者登録とパーティー登録もお願いできますか?」
「ん?新しいメンバー?」
「はい。ベルです。よろしくお願いします。」
「ほへぇ〜オーガ、ドワーフときてエルフねぇ〜。賑やかでいいじゃん。じゃ、この紙に必要事項を書いてね。」
「はい。」
「あ、ヴニィルも登録しとくか?」
「む?いや、我は基本館に居るし、あまり街には入らんからな…」
「まぁ…それはそうかもだけど…」
「書けました。」
「はーいありがと。それではベルちゃんも無事、冒険者デビューアンドホープ加入!ぱちぱち〜!」
「「「「「……」」」」」
「も〜!ノリ悪いなぁ!…まあいいや。それと、はいこれ。」
ユーラは白く輝くギルドカードを降助に差し出す。
「何ですかこれ?」
「何って…プラチナランクのギルドカードだけど。」
「ああ〜プラチナランクのギルドカードですか〜!……ってはいぃ!?プラチナランク!?なんで!?」
「いや、出発前に言ったじゃん。プラチナランクに上げようかなって。」
「えっ…あれ、てっきり冗談かと…」
「はぁ…まずさ、さっき君が持ってきてくれたタイラントフィッシュだけどさ…あれ、元々ヤバい魔物だし改造もされててヤバさに拍車がかかってたんだよ?めっちゃブニブニしてて全然刃物通らないし…あれどうやって倒したの?なんか眉間にちっさい穴が空いてたけど…」
「あれは限界まで絞って威力を高めたストライクビームで倒しました。」
「…すとらいくびーむ??」
「小さい頃に思いつきで作った魔法です。魔力を撃ち出すだけですけど色々応用が利くんですよ。」
「ち、小さい頃…具体的に何歳くらい…?」
「えーっと…4、5歳くらいに魔法陣の構築自体は完成してたかな……」
「4、5歳…や、やっぱりプラチナランクにして正解だったよ!!」
「そ、そんなにですかぁ…!?」
「これを正解と言わずしてなんと言うのか」
「やり過ぎ…?」
「いーや、やり過ぎじゃないね!あ、それとクーアちゃんとトーカちゃんのランクもアイアンランクにしておいたから。これが新しいギルドカードね。」
「えっ!?オレ達も昇格すんのかよ!?」
「君達明らか強いもん。ウチの衛兵を一方的にボコボコにしただけでアイアンランクは堅いからね?」
「そ、そうなんだ…」
「それにしても…魔王軍が関わってる可能性があるとなると大変だね…」
「やっぱりマズいですか…」
「そりゃとーぜん。数百年前の征服戦線時代の傷跡がようやく癒えた今、また攻めてこられたら大変だからね。この情報は全国のギルドに共有させてもらうよ。あ、勿論君の名前は伏せておくよ。平穏な学園生活がご希望なんでしょ?」
「はい。ありがとうございます。」
「あ、そういえば…一応依頼は終わったけどこの後はどうするの?」
「スタトに帰って残りの夏休みをのんびり過ごす感じですかね…」
「そっか…ま、遊ぶ事と学ぶ事は子供の本分だからね。存分に楽しんでよ。」
「はい。それじゃあ失礼します。《ディメンションチェスト》」
「えっ…?えっ……??」
「あ、そういえばこれ、ワープゲートみたいに2つの場所を繋げられるんですよ。」
「ぷ、プラチナ以上のランク作っちゃおっかな……」
「いえ結構ですのでこれで失礼します!!」
降助はそそくさとディメンションチェストの中に入っていき、ヴニィル達も後に続いて入っていく。
「あ、3秒以内に出ないとヤバいから急いでね。」
「それを早く言えよ!!」
「わーっクー姐急いで!」
「わわっ!?」
「ぬおーっ!」
その後、誰一人仮死状態になる事なくスタトに帰ってくる。
「間に合ったみたいだね。」
「はぁ…ち、ちなみに間に合わなかったらどうなるんだ…?」
「時間停止の影響を受けて仮死状態になって外に出されるまで永遠にそのまま」
「ひいぃ〜っ!!」
「お、恐ろしい……」
「あ、レスターさんにも荷物届けたって報告しなきゃ。結局あのままロトウィーナスまで行っちゃったし。」
「そういえば元々はギルド本部に荷物を届けるって依頼だったもんな。」
そうしてスタトのギルドにやって来た降助達はレスターに一連の流れを報告する。ちなみに、冒険者ランクがプラチナランクに上げられた事は伏せた。
「―という事なんです。すいません、連絡が遅くなってしまって…」
「いや、問題無い。君達が無事に帰ってきてくれて何よりだ。」
「じゃあ俺はこれで。」
「うむ。夏休みが終わるまでゆっくりしていってくれ。」
降助達はギルドを後にし、館へ帰ってくるとクーア達3人を連れて修行場へやって来る。
「じゃ、残りは修行して過ごすか。」
「修行ですか?」
「おう。オレ達は師匠に弟子入りして修行してもらってるんだ。師匠、すっげー強いんだぜ?」
「師匠が負けるところなんて見た事ないし想像もつかないよ……」
(前世が師匠だった人達に師匠呼びされるってなんか不思議な感覚だなぁ……)「いやいや、俺でも負けた事はあるよ。数えるほどだけど。」
「ええっ!?うっそだぁ〜!」
「いや、ほんとほんと。ちびっ子の頃は山賊に手も足も出なかったんだよ。」
「山賊にボコられる師匠か…やっぱり想像できねぇや。」
「私も。」
「それで…なんで私も連れてこられたんですか?」
「一応、ベルもパーティーに入ったわけだし、魔法が使えるならそれを強くしておくに越したことはないかなって。」
「確かに…そういう事なら私も修行します!」
「よし、じゃあ早速始めるか!」
そう言って降助は本を2冊取り出す。
「クーアとトーカにはこれ。」
「なんだこれ?」
「師匠が遺してくれたスキルについて書かれた本だよ。こっちは写本ね。まずはスキルを知識として覚える。実際に身につけて扱うのはおいおいね。」
「成程……」
「私は何をすれば良いんですか?」
「ベルにはこれかな。」
そう言って降助はディメンションチェストから人形を取り出す。
「これでヒールとホーリーボールを鍛える。」
「成程。新しく何かを覚えるより今あるものを伸ばしていくんですね。」
「そういう事。ベルはガッツリ戦うタイプじゃないだろうし、まずはここからね。」
「はい!」
それからクーアとトーカは本を読み込み、ベルはホーリーボールで人形を攻撃してはヒールで癒すのを繰り返した。
「つ…疲れた……」
「お疲れ様。思ったより魔力量があるね。」
「まあ…エルフは魔法の得手不得手や年齢に関わらず魔力量は多い方の種族ですから。」
「そうなんだ…あ、クーアとトーカはどう?覚えられた?」
「ま、まあ…少しくらいは…?」
「私も同じかなぁ…」
「ま、ゆっくりやってこうか。」
「おう。」
「はーい!」
「頑張りましょう!」
そして時は流れ、夏休みも終わりが近づいていた。
「おーい師匠ー?今日は手合わせするんだろー?ししょー?」
「返事が無いね…」
「まだ寝てるんでしょうか?」
3人が降助の部屋に入ると、死んだ目でノートに高速でペンを走らせている降助が居た。
「し、師匠…?」
「あぁ…クーア達か。ごめんね。今日の修行は中止で…」
「ど、どうしたの…?」
「いやね…依頼であちこち行ったり修行に夢中になっててすっかり忘れてたけど…宿題大量に出てたんだよね。」
「あ…これは……」
「しかも明日が始業式なんだよね。」
「おぉっと……」
「ははは…今まで夏休みの宿題は計画的に終わらせてきた俺がこうなるなんてね……ははははは…!」
「き、今日はそっとしておきましょうか…」
「そう…だな……」
「たまには…ゆっくり過ごしたいもんね…!」
「ごめんね…ははははは…!」
その後、生気を感じられない笑い声と高速でノートに文字が書かれる音が数時間聞こえ続けたとか…
第4章 少女とひと夏の冒険編 -完-
4章の本編はこれで終わりですが、少し閑話を挟んでから5章に行こうと思います。




