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賢者に育てられた異世界転生児は最強となる  作者: 斬り捨て大根
第4章 少女とひと夏の冒険編
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第54話 調査

コルダのギルドマスター、ケーシンの話を聞いた降助は神の足跡へ1人でやって来ていた。


-数十分前-


「ええっ!オレ達留守番なのかよ!」

「なんでー!」

「ケーシンさんの話からして、外部の人間はあまり歓迎されてなさそうだからな。大人数で行くと尚更警戒されてやりづらくなる筈だ。だからここは俺1人で行く。」

「ま、我は構わん。では我は宿を探して3人で待っているとしよう。」

「そうしてほしい。お金は渡しとくから、良い感じの宿があったら部屋取っといて。」

「うむ。」

「ちぇー。」

「まあ…しょうがないっか。」

「じゃ、良い子に留守番してるんだぞー」


- - - - - - - - - -


「この先が神の足跡か……」

「何してるんですか!」


降助が先に進もうと一歩踏み出した瞬間、後ろから声をかけられる。振り返るとそこには修道服で身を包んだ少女が立っており、若干怒っているような顔つきで降助を睨み、降助の前に立って両手を広げ、行く手を塞ぐ。


「えーっと…俺は神の足跡の調査に来たんだよ。ほら、通行許可証もあるし…」

「許可証があろうとも、神の足跡は立ち入り禁止です。即刻立ち去ってください!」

「いやでもグランドマスターとここのギルドマスターからの依頼だし…」

「ケーシンさんと…グランドマスターからですか!?」

「うん。だから通してほしいんだけど…」

「そ、それでも駄目なものは駄目です!立ち入り禁止と言われていますし、よそ者に神の足跡を荒らされたくありません!規則は規則なのでお帰りください!!」

「そう言われても…俺はただ困っている人を助けたいだけでここを荒らすつもりはないよ。」

「なんと言おうと駄目です!規則ですから!」

「じゃあこのままで良いの?」

「そ…それは……」

「ケーシンさんは皆の拠り所が遠い存在になってしまったって悲しんでいた。それはきっと君にとっても、他の人にとっても同じ筈だよ。」

「そうですけど…で…でも…!」

「じゃあ分かった。俺を見張っててよ。」

「え?」

「俺が何をするのか、その目で見ててほしい。信じなくてもいい、任せることはできないと感じたら言ってくれて良いし、そうしたら俺は2度とここには近づかない。だから、まずは俺に任せてここを通してくれないかな?」

「……っ。」

「君だって、俺がここに入るよりずっと皆が困ったままの方が良くないと思うんじゃない?」

「……分かりました。任せられないと感じたら言います。その時はちゃんと―」

「うん。すぐに立ち去って2度と近づかない。」

「じゃあ…行きましょう。」

「ありがとう。君の名前は?」

「私はベルです。ウィナス教の…シスターをしています。」

「ベルか。俺の名前はコウスケ・カライト。よろしく、ベル。」

「よろしくお願いします。」


そして2人は辺まで歩いていく。が、事態は思ったより深刻だった。


「何…これ…!」

「…ケーシンさんから聞いたのよりだいぶ酷いな…!」


湖は怪しい妖気のせいで昼にも関わらず暗く、水面が荒立つ音が聞こえ、草木も黒く変色していた。


「そんな…神の足跡が…!」

「《索敵》」


降助はスキルを使い、周囲に敵意を持った生物が居ないか確認する。


「今のは?」

「周囲に敵性反応がないかを探知するスキルだよ。反応は……うん、完全に囲まれてる。やられたな……」

「えぇっ!?」

「危ないから俺の後ろにいて。」

「わ、私も戦えます!サポートくらいはさせてください!」

「…分かった。無理はしないで。」

「はい!」

(しかし参ったな…この妖気のせいで魔力がよく見えない…いつもより警戒を強めないと…!)


降助はディメンションチェストから2本の槍を取り出して構える。すると、草むらの影から魔物が飛び出してくる。


「なんだこいつら…!」

「き、気持ち悪い…!」


飛び出した魔物達は魚から人間の手足が生えていたり、人と魚の中間のような奇妙な外見だったりと、おぞましく、歪な見た目をしていた。


「もしかして…魚がいなくなったのは…!」

「まあ…十中八九この某ゾンビゲームのクリーチャーみたいなのにされたんだろうね。」

「ゾンビ…ゲーム?クリー…チャー?」

「ああ、そこは気にしないで。つまり全部魔物にされたってこと。取り敢えずさっさと倒すか!」


降助は魔物との距離を詰め、次々と槍で串刺しにしていく。


「《スピアストーム》!」

「聖なる玉は触れるものを清める。《ホーリーボール》!」


その後も次々と倒していき、遂に全滅させる。


「ふう…なかなかメンタルにくるやつらだったけど…なんとか倒せた……ベル、大丈―」


振り返ると、ベルが苦しそうな表情で倒れていた。


「ベル!?大丈夫か!?…《看破》!」


【ベル】

種族:エルフ

年齢:14歳

性別:女

魔法:ホーリーボール シールド ヒール

スキル:無し

状態:賢者の種 魔力中毒


「賢者の種…!?まさかベルも生まれ変わり…!いや、それより…魔力中毒…確か…魔力が濃い場所に留まり続けるとなるんだったよな…確か症状もほぼ一酸化炭素中毒と同じようなもの……ってなるとマズいな…!いつまでもここにいさせるわけには…!《ディメンションチェスト》!」


ベルを抱えてディメンションチェストに避難させる。


「これでよし…俺は状態異常無効があるから大丈夫として…早く原因を突き止めないとだな。《索敵》」


降助は再び索敵を使い、反応を探る。


「……これは……反応が湖の中の方にある……これは厄介そうだな……」


降助はシールドで簡単な足場を作りつつ、湖の上を歩いていく。


「さて…この辺だけど……妖気が濃くなっててよく見えないな……」


その場にしゃがみ込み、水中を凝視するが何も見えず、周囲も数メートル程の範囲しか見えない。


「どうしたもんかな……っと!!」


突如下から現れた巨大な口を飛び退いて躱し、即座に戦闘態勢に入る。


「《看破》!」


【タイラントフィッシュ・変異】

魔法:無し

スキル:ポリューションブレス

状態:改造変異


「タイラントフィッシュ…変異に…改造変異…?とにかくヤバそうだな…!」


タイラントフィッシュは水上に背中を出すと、無数の触手を出してうねらせながら捕食しようと突進してくるが、降助は横に転がって避ける。


「うわっ!…っと。はあっ!!」


突進を避けた後、距離を詰めて槍で突くが、突き刺さらずに沈み込み、そのまま跳ね返される。


「うわっ…!表面が滅茶苦茶ぐにぐにしてる…!ってことは生半可な攻撃は全部効かなさそうだな…なら…アレを使ってみるか…!」


タイラントフィッシュは無数の触手で突き刺そうとしてくるが降助は全て躱してグラウンドカッターで切断していく。


「薄々勘付いてたけど…グラウンドカッターで触手を切断するのが関の山か…!ならやっぱりこいつだな!」


タイラントフィッシュの真正面に陣取った降助は両手杖を構え、先端に魔力を集中させていく。


「よーく狙って…溜めて……絞って…!」


先端に出来た巨大な魔力の塊は段々と凝縮されていき、バスケットボール程の大きさからテニスボールサイズ、ビー玉サイズとどんどん小さくなっていく。その一方でタイラントフィッシュは再び生やした触手を伸ばしつつ、降助に突進していく。


「《ストライクビーム》!!」


実は降助が初めて自作した魔法はディメンションチェストではなく、ストライクビームである。幼い頃に思いつきで作った魔力を撃ち出すだけのシンプルな魔法だが、それ故に威力や範囲の調整がとても容易い。そして、降助の撃ち出した極細のストライクビームはタイラントフィッシュの眉間を撃ち抜いた。


「…昔たまたま見てた神経締めの動画が活躍するなんて……」


タイラントフィッシュは暫くピクピクと痙攣した後、動かなくなる。


「しかし…改造変異……一体誰がそんな事を……もしかして…魔王軍、なのか…?」


- - - - - - - - - -


「ん……ここは……?」

「お、気が付いたみてぇだな。」

「この子も賢者の生まれ変わりなんだっけ?」

「そう言っていたな。」

「えっと…あなた達は…?」

「オレはクーア。よろしくな。」

「私はトーカ。よろしく!」

「我はヴニィルだ。よろしく。」

「あ、私はベルです…それでここは?」

「コルダにある宿だよ。確か…何だったか…?」

「清き安らぎ亭じゃなかったっけ?」

「あ、そうそうそれ。」

「そうですか…それで…コウスケさんは?」

「あ、起きた?」

「丁度帰ってきたようだな。」

「ケーシンさんに報告しつつちょっと街で買い物してたんだ。魔力中毒は時間経過で多少良くなるけど薬を飲むのが1番だから、材料を買ったんだよ。すぐ作るから待ってて。」


そう言って降助は数分程で魔力中毒の薬を作り、ベルに手渡す。


「どうかな?」

「…はい。だいぶ楽になりました。ありがとうございます。」

「それで…皆自己紹介は済んだ感じ?」

「うむ。コウスケが帰ってくる前にしたぞ。」

「そっか。じゃあ改めて。俺の名前はコウスケ・カライト。」

「はい、それは知ってますけど……」

「…ジーク・レイブで伝わるかな?」

「っ…!ど、どうしてその名前を…!」

「それ、俺の他の名前なんだよ。」

「ほ、他の名前…?」

「取り敢えずちゃんと説明しよっか…」


それから降助は諸々の事情を説明し、ベルも自身の記憶などについて話した。


「そっか…ベルは覚えてたのは俺の名前くらいか…」

「はい。多分、前世の私が1番最初に死んだのも関係しているのかもしれません。」

「なんにせよ、ここで会えて良かったよ。それで…俺達はギルド本部まで帰ろうと思ってるんだけどベルはどうする?」

「…私も連れて行ってください!」

「…いいの?ベルは見た感じシスターだし…教会から何かないの?」

「ちゃんと挨拶だけしておけば大丈夫です。そんなに厳しい戒律はないので。」

「そっか。じゃあ明日以降に挨拶して行こうか。今日のところは安静にしてて。」

「はい。」


そして数日後、ベルが居た教会の牧師に挨拶を済ませ、降助達はギルド本部へ向けて空の旅をしていた。その一方で…


「おい!実験場に居た僕の試作品が居なくなってるじゃないか!!それに妖気は消えて木々は元の緑色を取り戻し、湖の水は澄み渡っている!君は一体何をしていたんだ!!」

「落ち着いてください。私も信者達にはギルドなどに依頼を出さないようにしていた筈なのですがね。いつの間にか依頼が出されていたようで。」

「言い訳はいらないよ!!ロトウィーナスの教皇にしてウィナス教の教祖ともあろうロット様がこのザマだなんて!」


男が騒ぎ立てる中、ロットと呼ばれたエルフの男はため息をつく。


「はぁ…そもそも、私にそこまで言われる筋合いは無いと思うのですがね。あくまで私は貴方が神の足跡を実験場にしたいと言ったから貸し出したまで。全ての責任はその時点で貴方にある筈では?今回の事態は貴方の管理不足…という他無いような気もしますが。」

「うるさいうるさい!僕は正論は嫌いだよ!!」

「正論だとは認めるんですね…」

「ふん。まあいい。最近素晴らしい素体が手に入ったんだ。帰って改造なりなんなり楽しむとするよ。じゃ。」

「はい。お気を付けて。」


男は笑みを浮かべながら出口へ歩いていく。


「…しかし試作品とはいえ僕が改造を施したタイラントフィッシュをどうやって倒したんだ…?少なくともそこらの冒険者じゃない…実力は確かな人物だろう。まあいいさ。今後も僕の邪魔をするようならその時に叩き潰すまでさ…!くっくっく…!」


そんな男を眺めるロット。


(私も彼の実験場となった神の足跡には1度行きましたが…あのような環境であの魔物達を倒すとは…今後、我々の脅威とならなければ良いのですが。)


彼らの目的はなんなのか、それを降助達が知る日は来るのだろうか。少なくとも、今ではなさそうであった。

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