第51話 ヤーラマ山脈
「よーしじゃあ準備して行くか!」
「おう!」
「頑張ろー!」
「む、帰ってきたのか。…準備がどうこう言っているがどこかに行くのか?」
「うん。この包みを届けに冒険者ギルドの本部まで行ってくるから。多分そこそこ時間かかるから適当にやってて。」
「そこそこか…ギルド本部とやらはどこにあるのだ?」
「スタトから南西だってさ。ヤーラマ山脈の中。地図貰ったけど、まあまあかかりそうだから。」
「なら我も共に行こう。」
「なんで?」
「いやコウスケよ。よく考えるのだ。我はドラゴンだ。飛べるのだぞ?」
「…?」
「届け物は早い方が良いのだろう?ならば我がコウスケ達を背に乗せて飛べばすぐに着くではないか。」
「あ、成程。」
「そういう事だ。では我は外で待っているからな。」
そう言ってヴニィルは館を出ていく。
「じゃあ…準備するか。」
その後、準備を整えた降助達はドラゴンに戻ったヴニィルの背中に乗る。
「全員乗ったな?」
「うん。」
「大丈夫だぜ。」
「いつでも行けるよ!」
「では行くぞ!」
ヴニィルはゆっくりと上昇すると、方向を変えて南西へ向かう。
「こうしてのびのびと空を飛ぶのは久しいな…」
「あ、そっか。ずっと篭ってたもんね。」
「風を切る音…頬を撫でる風…本当に久しい…」
(…ヴニィルもこうやって感傷に浸る時があるんだ……)
「…少しスピードを早めるぞ。しっかり掴まるのだ。」
「おう。」
それから暫くして日が沈み始めたので、一旦地上に降りて休憩する事にし、焚き火を囲いながら串焼きを食べる。
「なあ、あとどれくらいで着きそうなんだ?」
「ヴニィルの速さと合わせて……明日か…遅くとも明後日には着きそうかな……」
「早っ!?いや、思ってた以上に早いな!?」
「ふっふっふ…我をそこらの鳥などと比べてもらっては困るな。我ならばこの程度、なんて事はない!むしろ何週間もかける方が難しい程だな!!」
「凄い…!」
「うむ!もっと褒めても良いのだぞ!」
「…さて、お喋りは一旦終えて…クーア、トーカ。武器を構えて。」
「んあ?」
「な、何?」
「…む。魔物か。」
「うん。」
降助が片手剣に手を添えて振り向いた瞬間、何かが飛びかかってくるが即座に反応して両断し、真っ二つになった何かが、焚き火の近くに落ちる。
「これは…!」
「グルルルル…」「ガウッ!」
「ふむ、マウンテンハントウルフか。数程度が取り柄の有象無象だが…森の中となると少々厄介だな。」
「いい機会だし、トーカとクーアに任せるか。」
「はぁ!?」
「ちょ、ちょっと待ってよ!私達ウッドランクだよ!?マウンテンハントウルフってアイアンランクレベルなんだけど!?」
「賢者の生まれ変わりならいけるいける。」
「何を根拠にそんな事をー!!」
「ほらほら、構えて!」
「こんちきしょー!」
クーアは両手剣を振り回すがマウンテンハントウルフ達は後ろに飛び退いて躱し、唸りながらクーアを睨む。
「ほらほら、剣に振り回されてるよー武器は剣だけじゃないんだ。腕とか足も上手く使うように……っと!」
「キャウンッ!」
降助は、アドバイスしている最中に飛びかかってきたマウンテンハントウルフを蹴り飛ばす。
「《飛斬》!《飛斬》!」
「ガッ」「バウッ」
「トーカは良い感じだな。油断せずその調子で倒していくんだ!」
「す、少しは手伝ってぇ!!」
「よし、コウスケ。どいつがリーダーか賭けをしようではないか。」
「おっ、いいよ。」
「我の見立てではあそこにいるやつだ。何やら偉そうな態度が滲み出ているように感じる。」
「んー…俺はあっちにいるやつかなー。顔についてる傷がいかにもって感じ。」
「ふーむ…だが立ち振る舞いに誰かの上に立つ者らしさは感じないな。」
「そんな事やってる場合かよ!!」
「これも修行だよ修行。」
「修行って言えば何でも許されると思ってねぇか!?」
「いやいや、実戦経験は大事だよ?ただただ武器を振り回してるだけじゃ戦闘勘は養われないからさ。」
「うぐっ…それもそうだな……」
「でも…ちょっと…数が多いって…!」
「…確かに…なんか多いな…」
「うむ…もしかするとここは奴らの縄張りだったかもしれんな。」
「仕方ない…やるか…!」
「うむ!《人化・部分解除》!」
降助は両手剣で、ヴニィルは部分的に人化を解除し、鋭い爪と尻尾で戦いに加勢する。
「いい、クーア!両手剣はこうやって使うんだよ!」
降助は左足を軸にし、剣を振ってマウンテンハントウルフを斬り、その勢いで右足で他のマウンテンハントウルフを蹴り飛ばす。
「剣に振り回されるならその勢いを利用する!そうすればこうやって滑らかに敵を倒せる!」
「成程…こうか!」
クーアは降助の動きを真似し、回転しながら一直線に薙ぎ払っていく。
「そうそう、飲み込みが早いね!」
「そりゃどーも!」
その後も順調にマウンテンハントウルフを倒していき、残り数頭ほどになる。
「グルルルル…!」「ヴウゥ…!」
「退く気配は…無さそうだね。」
「やれやれ…ここは我に任せろ。」
そう言ってヴニィルが一歩前に出ると、鋭い眼光でマウンテンハントウルフ達を威圧する。
「キャ…キャウン…」
「おぉ…アイツらが逃げてく!」
「ふっ…ようやく格の違いが分かったようだな。」
「しっかしヴニィル…見事に血塗れだね……」
「む…そういえばそうだな…」
ヴニィルはだいぶワイルドな戦い方をしていたらしく、腕や顔などに血がべったりと付いていた。
「…洗うか。」
「待て…洗うってコウスケ、何をする気だ?」
「《アクアボール》」
「ぷあっ!?」
「《アクアボール》《アクアボール》」
「や、やめ…ぷあっ……こ、コウス…はぷっ!」
「《アクアボール》」
「あばばばばばっ…」
降助は暫くアクアボールで水をかけ続け、ヴニィルがずぶ濡れになる。
「よし、落とせたな。それじゃ…《ウインドボール》《ファイアボール》」
「すげぇよ…コウスケ、攻撃魔法を服を洗うのと乾かすのに使ってるぞ……」
「い、痛くないの…?」
「うむ。いきなり水をぶっかけられ、温風を当てられて驚きはしたが痛くはない。本当に攻撃魔法なのか分からないな。」
「ま、威力調整は頑張ってるからね。ほら、もう乾いたんじゃない?」
「うむ。丁度いいな。では雑魚共も追い払ったし、眠るとするか。」
「そうしよっか。じゃ、《バリア》」
降助は焚き火を中心にバリアを張り、寝袋に入る。
「これでもし襲ってきても防げる筈だから。それじゃあおやすみ!」
「ふあぁ〜…今日は久しぶりに飛んだから疲れたな。我ももう眠るとするか……」
「オレらも寝るか…」
「だね。おやすみ、クー姐。」
「おう、おやすみ。」
その夜、降助はまた夢を見るが、未だに服装くらいしか分からないまま朝を迎えた。
(…前回よりは近づいてきてたし、もう少ししたら会えるのかな……)
「ふあぁ…朝か。」
「あ、おはようヴニィル。朝食作るから2人を起こしといて。」
「うむ。おい、クーア、トーカ。朝だ。起きろ。」
「う……ん……」
「眠い……まだ寝る……」
「やれやれ…2人とも朝には弱いようだな。」
その後、朝食ができたタイミングでクーアとトーカも目を覚まし、4人で朝食をとる。
「そういえば…昨日のオオカミの死骸はどうしたんだ?綺麗さっぱり無くなってるけど…」
「ああ、それならディメンションチェストにしまっといたよ。この後ギルド本部に行くわけだし、買い取りしてもらえるかなって。」
「ああ、成程な。」
「…よし、朝食は食べ終えたな?では行くぞ。」
ヴニィルは再びドラゴンの姿になり、降助達を乗せて飛び立つ。
「方向はこっちで合っているな?」
「うん。そのまま真っ直ぐで。」
それから暫くして、再び日が沈み、暗くなり始めた始めた頃にギルド本部が見え始める。
「あそこがギルド本部か…」
「どうする?空はそれなりに暗くなりつつあるが…」
「ここで降りて休憩してもいいけど…この距離だしこのまま行っちゃおっか。」
「分かった。」
そしてヴニィルはギルド本部から少し離れた場所に降り、4人は入り口まで歩いて向かう事にした。




