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賢者に育てられた異世界転生児は最強となる  作者: 斬り捨て大根
第4章 少女とひと夏の冒険編
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第48話 帰省

終業式前日の夜。降助はまた夢を見ていた。もやは今までよりもずっと近くに来ており、更に鮮明に見えていた。とはいっても顔や服装がはっきり見えたわけではなく、一方には角が生えている事と、どちらもしっかりした体つきである事が分かった程度だった。そしてそれ以上の進展はないまま朝を迎える。


「今日で終業式…遂に夏休みだ…!」

「今日は講堂に集合だってさ。早速準備して行こうか。」

「分かった。」


朝食を済ませた2人は途中でガーヴとミレナと出会い、4人で講堂へ向かう。


「今日で1学期も終わりね。」

「なんかあっという間に過ぎてったねー…」

「そうだねぇ…」

「…」

「そういえば夏休みは何をするんだい?僕は気が向いたら実家に帰ろうかなって思ってるよ。」

「私は…うーん…特に何するか決めてないや。」

「オレも特に何かする予定はねぇな。」

「コウスケは何か予定はあるかい?」

「とりあえずスタトに帰るよ。」

「えぇっ!?コウスケ君ってスタト出身なの!?」

「そういえばミレナは聞いてなかったな。」

「いやー僕もびっくりしたよ…もうちょっと近いところに住んでたと思ってたからさ…」

「す…スタトに帰るって…馬車は?どんなに急いでも片道だけで夏休みの殆どが過ぎてると思うんだけど……」

「まあ大丈夫。なんとかなるよ。」

「そうだな。コイツならなんとかなるだろ。」

「だね。」

「えぇ…?何なの?その謎の信頼は……」


そんなやり取りをしていると、あっという間に講堂に着き、4人は席に座る。それから暫くすると生徒全員が集まり、シグルドがやって来る。


「えー、まずは皆さんおはようございます。今日で1学期が終わり、ひと月とちょっとの夏休みが始まりますが…くれぐれも!やらかしたりしないように。学園長は生徒が捕まって牢屋に入れられた、なんて事は聞きたくないので本当に、その辺注意してください。それから実家に帰る時に馬車を使う生徒は運行状況をよく確認して、始業式にはちゃんと帰って来れるようにしてください。それと!夏休みの宿題も多分たんまり出てる筈なのでしっかりやるように!では以上!夏休みを楽しめよ!!じゃあ俺は帰って隠しておいたプリンを食ってくる!解散!!」


そう言ってシグルドは講堂を飛び出てプリンを食べに向かうが、既に秘書に見つかっており没収されていたのはまた別の話。


「あの人も変わんねぇな。」

「なんかこの流れ入学式でも見たよね。」

「だね。」

「とりあえず…解散って言ってたし行こっか。」


4人は講堂を出て解散し、降助とカイトは寮の自室に戻っていた。


「コウスケはもう明日には出るのかい?」

「いや、もうちょっとここにいる。さっさと行っちゃうのもあれかなって。あとお土産も買いたいし。」

「お土産?」

「ヴニィル……霧の森の時のあいつね。そいつにお土産でもあげようかなーと。それと、後はスタトの人達にも何か買っておこうかなって。」

「そっか。ならおすすめのお店がいくつかあるから明日見に行かないかい?」

「お、それいいね。じゃあお願い!」



そして次の日。降助とカイトは早速お土産を探しに街に来ていた。


「そういえば…お土産っていっても何にするんだい?食べ物とか工芸品とか…色々あるけど…」

「まあ…お菓子とかでいいんじゃないかな。」

「じゃああっちの通りにいいお店があるから行こうか。」


2人は少し歩いて焼き菓子の店に入っていく。


「焼き菓子なら日持ちもするしいいんじゃないかな。」

「だね。うーん…いろいろあるな…」

「あ、これとかいいんじゃないかい?いろんな味のクッキーの詰め合わせだって。」

「お、じゃあこれにしとこうかな。すいません、これください。」


会計を済ませた2人はレストランで昼食をとり、寮に帰る。


「あの後他にもいろいろ買ったな…」

「クッキーと…燻製いろいろ…まあ、基本的に食べ物だね。」

「お土産も買ったし…明日には行こうかな。」

「そっか…寂しくなるね。」

「まあ…そうだね。1ヶ月のお別れだ。」

「何して過ごそうかなぁ…」


その後、夕食を食べて眠った2人だったが、降助はまた夢を見ていた。もやは以前よりずっと近く、手が届きそうな距離まで来ていた。だがそれ以上の事はなく、朝がやってくる。


(はー…そろそろ違う夢が見たい…本当に…大事そうな夢である事は薄々勘付いてるけど……)「はあ…支度するか。」


私服に着替えた降助は荷物をまとめ、出発の準備をする。


「もう行くんだね。」

「ああ。じゃ、また夏休み明けに。」

「うん。気をつけて。」


寮を出た降助はガーヴとミレナを探して街を歩いていた。数分ほど歩いたところでテラス席でお茶を飲んでいる2人を見つける。


「よっ。」

「あ、コウスケ君。もう帰るの?」

「うん。だから一応挨拶しておこうかなって。」

「そっか。気をつけてね。」

「…」

「ほら、ガーヴからもなんか言いなよ。」

「…またな。」

「うん。また。」


そして2人との挨拶を済ませた降助は裏路地に入っていく。


「馬車乗り場…あっちじゃないけど大丈夫かな?」

「さあな。」


- - - - - - - - - -


「よし…誰も見てないな…《ディメンションチェスト》」


降助はディメンションチェストで現在地とスタトの街から少し離れた街道を繋げ、中を通っていく。


「はい、到着と。マジで便利だなーこの魔法。」


街道を歩いていき、スタトの町の入り口まで来ると、見覚えのある男が立っていた。


「お久しぶりです。レスターさん。」

「む?君は……ダイヤ・オリハルコか?」

「はい。」

「おお…!すっかり大きくなったな…!仕事で手が離せないタイミングで君がバラシアン第一学園都市に行ったと聞いた時は見送れず残念だったが、こうして会えるとは…いやはや、本当に大きくなったな…!」

「ははは…そういえば、俺がいない間に何か変わった事はありましたか?」

「変わった事…というとあれだな。最近、スタトにもギルドができたんだ。」

「へぇ〜…そうなんですか!」

「うむ。丁度君がこの町を発った後にギルドの建設が始まってな。少し前に終わって冒険者も集まり始めたところだ。だから活気も以前よりは増しているだろう。」

「そうなんですね。」

「何はともあれ、ここまでの長旅は疲れただろう。今日はゆっくり休んでいくといい。」

「はい。あ、これお土産の焼き菓子です。よかったらどうぞ。」

「おお、これはありがたい。焼き菓子か…妻と子供が喜ぶな。」

「それならよかったです。」


スタトに入った降助はレストランで食事をした後、雑貨屋に来ていた。


(そういえばレストランにリアさんがいなかったけど…どうしたんだろ…後で探してみようかな。)「こんにちはー」

「おういらっしゃ……もしかしてミコトか!?」

「はい。お久しぶりです、アリウスさん。」

「本当に久しぶりだな…!元気にしてたか?」

「はい。元気にやってます。」

「そうかそうか…ほんの数ヶ月会わなかっただけだが…随分大きくなったように感じるな…」

「そうですか?」

「ああ。俺はそう思う。」

「そうなんですね…あ、これ、お土産です。」

「これは…サラミか!ありがてぇ!丁度酒のつまみが欲しいと思ってたんだよ!ホントにありがとな!」

「喜んでもらえたなら嬉しいです。…そういえばリアさんがレストランにいなかったんですけど知りませんか?」

「ん?ああ、彼女ならギルドの酒場で働き始めたって聞いたな。」

「そうなんですね。じゃあ早速行ってみます。」

「おう。またいつでも来いよ。」


雑貨屋を後にした降助は、スタトに新しくできたギルドにやってくる。


「おお…新築なだけあってピカピカだ…っと。確かリアさんは酒場で働いてるって―」

「あー!ミコト君ー!」

「うわっ!?」


いきなりリアに飛びつかれ、よろけるがなんとか耐える。


「っとと…お、お久しぶりですリアさん…」

「本当に久しぶりー!会いたかった…!何食べる?トースト?トースト食べる?」

「はい…食べます…食べますから離れてください……」


ようやく解放された降助は席に座り、リアのトーストを食べようとする…が、リアが両手で頬杖をつきながら見てくる。


「あの…まじまじと見つめられると食べづらいんですけど…」

「いや〜久しぶりだな〜ミコト君…本当に久しぶり…」

「リアさんちゃんと仕事してます?」

「それは勿論です!仕事には真面目に、熱心に取り組んでいます!」

「そうですか……ご馳走様でした。」


あっという間にトーストを平らげた降助は、リアにお土産のお菓子を渡した。


「ほあ…!いいんですか!?」

「はい。お土産です。」

「わーありがとー!!」


またリアに飛びつかれそうになるが素早く回避してギルドを後にし、館へと向かう。


「ヴニィルは元気してるかなー」


そして館に到着した降助はマジックプリズンを解除し、中に入る。


「おーいヴニィルー?生きてるー?」


何回か呼びかけるが応答がない。


「…まさか抜け出した…?いや、マジックプリズンが破られた形跡はなかったし……取り敢えず部屋を虱潰しに探してくか…」


そうしていくつかの部屋を探し、ジックの部屋に入ったところで、暗い部屋の隅で縮こまっているヴニィルを発見する。


「えっどうした」

「おお…帰ったかコウスケ……コウスケ!?か、帰ってきたのか!?」

「う、うん。帰ってきたし何回か呼びかけたんだけど……」

「コウスケえぇー!!」

「危なっ!」


リアのように飛びついてくるヴニィルを躱すと、そのままヴニィルが棚に突っ込んでいった。そして棚に突き刺さったままヴニィルが話し始める。


「我は…本当に暇だったのだ…外出もできず…眠って過ごそうにもなかなか寝付けないまま時は過ぎ…あの洞窟に引きこもるしかなかった日々を思い出し、何度発狂しかけたか…も、もう閉じ込められるのは懲り懲りだ…もう…嫌なのだ……」

(思ったよりも効いている……よっぽどの事をやらかさない限りはこのお仕置きは控えておくか…)「ま、まあ…今日からもう解放されるんだし、羽目外し過ぎなければこうならないから。ね?」

「うむ…そうだな…うむ…!」

「ほら、お土産もあるよ。ステーキ用のどデカい肉!今日の夜はこれ食べよう!」

「おお!肉か!我は肉は大好物だ!!うむ…!これは今日の夕食が楽しみになってきたぞ!」

「うん。楽しみにしてて。」


そして日が沈み、夕食の時間になったので、降助は肉を焼き始める。


「すぅ〜はぁ〜……肉の焼ける良い匂いだ…」

「すぐ焼けるから座って待ってて〜」

「うむ!」

「……よし、焼けたな。後は…アルミホイルが無いからな…代用できそうなもので包んで少し放置。」


ステーキを数分ほど放置し、包みを取って食べやすい大きさに切っていき、皿に盛り付けてソースをかける。


「できたよー」

「おぉ!待っていたぞ!!」

「んじゃ…」

「「いただきます」」

「はむっ…ふむ…むぐむぐ…美味い!焼いた肉を食べた事は数回あるがここまで美味いものは初めてだ!どうやったのだ!?」

「あ、それね。肉を焼いたらすぐ切って食べるんじゃなくて、包んで保温して数分放置するんだ。そうすると余熱で肉汁が閉じ込められてよりジューシーになるんだよ。本当はアルミホイルがあれば良かったけど無かったから、適当にあるもので代用したんだけど上手くいってよかった―」

「はむっ…うむ…止まらんぞ…!はむっ…むぐっ…美味いッ…!このソースもよく合うな…!」

「聞いちゃいないな…自分から訊いたくせに……」


ヴニィルはあっという間にステーキを平らげると、満足そうな顔で2階へ行った。降助もステーキを食べ終え、洗い物を済ませて風呂に入り、さっさと眠る事にした。……その日、降助はいつもの夢を見ることはなかった。

遂に第4章が始まります。引き続き、応援よろしくお願いします。

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