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第47話 試験

降助達が校外学習から帰ってきて数日。試験の日が段々と近付いてきていた。


「はぁ…あと1週間くらいで試験だね……」

「そうだね。」

「…なんだか、随分と余裕そうだね?」

「まあ、こういうのは慣れてるし。」

「そうなんだ。…じゃあさ、勉強教えてくれないかい?」

「それくらいなら全然良いよ。」

「ありがとう!じゃあ放課後に寮に帰ったらお願いするよ。」


そしてあっという間に1日の授業が終わり、降助はカイトの部屋で勉強を教えていた。


「この計算はどうやるんだい?」

「この式はこっから計算して、こっちは後でやるから…こうなるね。」

「成る程……コウスケって教え方が上手いんだね。」

「そう?」

「うん。とても分かりやすいよ。リヒルト先生にも引けを取らないんじゃないかな?」

「それは買い被りすぎだよ…流石に本職には勝てないって。」

「そうかなぁ…あ、計算はこれで終わりだから次は歴史の勉強を手伝ってくれないかな?まだ人の名前と政策の内容が完璧じゃないからさ。」

「オッケー。」


そんなやり取りもしつつ、更に時間が過ぎていき、遂に試験当日を迎える。


「…こうやってテストを受けるのも何年振りかなぁ…懐かしい……」

「それでは試験を始めます。…開始!」


リヒルトの合図と共に生徒達は一斉に筆記用具を持ち、解答用紙に答えを書いていく。


(…凄い簡単だ……まあ、異世界で2次関数とか三角比が出てきてもそれはそれで困るけど…でも、括弧(かっこ)がある計算とか図形問題はあるんだ…本当に異世界は不思議だ……)


そんな事を考えながら順調に解き進めていき、計算のテストが終わる。


「そこまでです。筆記用具を置いてください。」

「よし、全部埋まった…」

「ふう…コウスケのおかげで楽に解けたよ。ありがとう。」

「どういたしまして。じゃ、他のテストもこの調子でやってくか!」

「だね。」


その後も順調にテストを解いていき、全ての座学のテストが終わる。


「やっぱり、結構楽勝だったな。強いて言えば若干文法が心配だけど…ま、そこまでじゃないしいいか。」

「座学のテストは終わったし、後は明日の武術科と魔法科の試験だけだね。」

「そっか…そっちもあるよね。」

「僕は武術科だけだけど…君は魔法科もあるから大変じゃないかい?」

「んー…大丈夫だと思うけど。」

「…確かに、よくよく考えたら大丈夫かも。だってコウスケだもんね。」

「何なのその謎の信頼感は…」


そして翌日、武術科の試験が訓練場で始まろうとしていた。


「今回の試験は模擬戦だ。この砂時計の砂が全て落ちるまでの間、私と1対1で戦う。武器はどれを使っても構わない。私の武器もお前達の武器も刃引きしてあるから心配は不要だ。では、準備ができた者から武器を持って声をかけろ。」


その後、武器を選んだ生徒が次々とルークに挑んでいく。


(ふむ…だいたい3分くらいか…余裕でいけるな。)「そろそろ俺もいこうかな…」

「僕が先にいってもいいかい?」

「ん?ああ、別に大丈夫だけど。」

「ありがとう。」


カイトは髪を後ろにまとめてポニーテールを作ると片手剣を手に取り、ルークの下に行く。


「ほう。次はカイトか。」

「よろしくお願いします。」

「うむ。では…構えろ。」

「…」


ルークとカイトの打ち合いが始まり、訓練場に剣がぶつかる音が響く。


「くっ…!」(攻撃が重い…!1回打ち合うごとに体力を持っていかれる…!)


カイトとルークの打ち合いを見守る降助の下にガーヴがやってくる。


「次はお前が行くのか?」

「まあ、そのつもりだけど。」

「相手は元ルリブス王国騎士団団長だ。お前でも一筋縄じゃいかないんじゃねぇか?」

「え、ルーク先生って王国騎士団団長なんだ。」

「おま……ま、田舎モンだし知らねぇか。いや…やっぱり流石にそれは……」

「?」

「とにかく、オレでも厳しめの相手だ。せいぜい頑張れよ。」

「あ、うん。」


そんなやりとりをしていると、3分が経ったらしく、息を切らしたカイトがやってくる。


「大丈夫…?」

「う、うん…なんとか……はぁ…はぁ…も、もうちょっと長かったら危なかったかも…」

「そっか…あ、次は俺の番だ。行ってくるよ。」

「うん…頑張って…!」


降助はカイトを座らせ、片手剣を取ってルークの前に立つ。


「次はコウスケか。準備はいいか?」

「はい。」

「では…始めるぞ!」


そうしてルークと降助の打ち合いが始まる。


(…そういえば試験の合格条件ってなんだろう…3分間耐える…とか?後は…一本取る、か…?でも今までの人は皆取れてないし…もしそれだったら皆不合格だよなぁ…となるとやっぱ3分間打ち合って耐えればいいのかな…?なら楽勝だな!)

「はぁっ!」

「おっと…」

「…ッ」(なんだこれは…まるで手応えがない…!確かに打ち合っている筈なのに…まるで空を薙いでいるような感覚…まさか…全て受け流しているというのか…!?打ち合っている手応えすら感じさせない程に…!)


そのままルークの攻撃は受け流され続け、3分が経った。


「……時間だな。ここまでだ。」

「ありがとうございました。」(ふう…これで合格、かな?)

(一体どういう事だ…?何故、私の攻撃が全てあれほどの精度で受け流された…?コウスケ・カライト…お前は一体何者なのだ…?)


降助は片手剣を片付け、カイトの下へ戻ってくる。


「す、凄かったよコウスケ!全部あんなに綺麗に受け流せるなんて…!僕は受け止めるだけで手一杯だったのに…本当にコウスケって凄いんだね!」

「受け流すだけならあんまり力は使わないし、大した事じゃないよ。」

「…面倒ごとを避けたいと言うわりに目立つ事すんだな。」

「うぐ…それはそうだけど…まず試験には合格しないとだし…」

「まあいい。オレは行くからな。」


ガーヴは片手剣を取りルークと試験を始め、ややルーク優勢で試験を終えた。その後も残りの生徒達がどんどん試験を受けていき、武術科の試験が終わる。そして降助とガーヴはミレナと合流し、魔法科の試験を受けに教室にやって来ていた。


「魔法科の試験って何やるんだろ。」

「室内だし、少なくとも魔法を撃つって事はないんじゃないかなぁ。」

「だな。コイツがここで魔法を撃ったら教室どころか校舎が吹き飛びそうだぜ。」

「あはははっ!もう、ガーヴったらいつの間にそんな冗談言えるようになったの?そんなわけないじゃない!言っちゃ悪いけど…Cクラスにそんな魔法使える人がいる筈ないじゃない。私でも教室を吹き飛ばすほどの魔法は使えないし。」

「そういえばミレナは見てなかったか…」

「?…見てないって、何を?」

「いやあ、気にしなくていいんじゃない?ほら、もうすぐ試験始まるし…」

「えぇ?なにそれ…2人とも変なの。」


それから席に座って待っていると、箱を抱えたショーウがやってくる。


「それでは魔法科の試験を始めますね。今回はヒールを使った試験を行います。魔法陣をしっかりと構築できているかと構築する速さ、詠唱をしっかり唱えられているか、それと実際の効果が採点基準になります。」

「実際の効果…というと……」

「はい。今回は…これを使います。」


そう言ってショーウは持ってきた箱から腕を取り出す。


「これはマジックパペットの腕ですね。これに私がナイフで傷をつけるので、そこにヒールを使ってください。」

「あ、あれの全身のやつ館にあったなー。懐かしい…」

「マジかよ……」

「えっ!?コウスケ君あれの全身持ってるの!?」


ガーヴは呆れ、ミレナは驚くが、試験直前なので必死に声量を抑えて降助に質問する。


「え、まあ…あるけど…それが何か?」

「いや…マジックパペットって相当値が張る物よ!?ま、まさかとは思うけど訓練用に自律稼働機能が付いてたりしないわよね?」

(あっこれは誤魔化さないとヤバいやつだ…!)「い、いや〜流石にそれはなかったよ〜…そ、それにだいぶ古いやつだったしもう使えなさそうだったな〜……」

「そ、そう…それにしてもマジックパペットを持ってるなんて……貴族の人達ですら全身は持ってない人が多いのに…」

「ひえ〜…そんな貴重な物だったのか…」(そういえば治ったとはいえ首を刎ねた事あるんだけど…それ言ったら大変な事になりそうだし黙っとこ。)

「やれやれ…オマエは隠し事が多いんだな。」

「ま、まあ……」

「あっ、もう試験が始まるよ!」


ミレナがそう言いきると同時に試験が始まり、ショーウの前に少しずつ人が並び始める。


「AクラスからEクラスまで一斉にやってるし、早めに並んだ方がいいかも。」

「じゃあ並んどくか。」


3人は席を立ち、降助、ガーヴ、ミレナの順で列に並んだ。それから待つ事数分後、降助の順番が回ってくる。


「次はコウスケさんですね。では始めま―っくしゅん!」


ショーウがくしゃみをすると、その勢いでマジックパペットの手首が取れかかるほどの傷ができる。


「あっやっちゃった…!ど、どうしよう…!」

「…このままやりますよ。」

「えっ…?」

(加減…加減…)「傷ついた者にささやかな癒しを。《ヒール》」


魔法陣を構築し、詠唱をしてヒールを発動させると、切断面がくっついていき、ほぼ新品状態まで直る。


(やっば…ちょっと力みすぎたかな…完治させちゃった…うーん…力の調整ってなかなか上手くいかない……)

「うそぉ……」

「まーたアイツやりやがった…」

「こ、コウスケ君…!?」

「えっと…と、取り敢えず終わりで良いですか…?」

「―あ、ああ、はい。良いですよ…じ、じゃあ次は…ガーヴさんですね。試験を始めますよー……」


その後、魔法科の試験を終えた3人は帰路に就いていた。


「ねえ、コウスケ君。さっきの試験だけど…」

「えっ…な、何…?」

「どうなってるの?あんな深い傷をあっという間に治しちゃうなんて…」

「そ…それは…その……」

「コイツは実力を隠してんだよ。剣術なんて先生の攻撃ずっと受け流してたんだぜ。」

「ちょっ…!バラさないでよ…!」

「えぇーっ!なにそれー!どういう事!?」

「面倒ごとが嫌ってのと力をひけらかす趣味はねーってさ。」

「まあ…そんなところかな…別に力自慢したくてここに通ってるわけじゃないし…」

「ふーん…でも面倒ごとが嫌っていっても…なんでCクラスにしたの?別にBクラスとかでも良いと思うけど…」

「まあ…そうだけど…なんというか…うーん…」

「まあ…なんにせよコウスケ君がそれでいいなら私はいいと思うけど。」

「オレにゃ分かんねぇ話だけどな。なんでイチイチそんな事考えてんだか。」

「あ、俺は寮だからこっちなんだ。じゃあね。」

「バイバーイ」

「じゃあな。」


そして休日を挟んで数日後。その日、教室では試験の結果が返され、ガッツポーズをする者や、頭を抱えている者などで賑わっていた。


「やあコウスケ。結果はどうだった?」

「上々の結果だね。全部90点台後半。」

「へぇ…!凄いね!僕は大体70点台だったよ。」

「ん、カイトもなかなかじゃん。」

「これで心置きなく夏休みを迎えられるね…!」

「そっか…夏休みか……何しよっかなー…」(そういえば…そろそろヴニィルを封印から出してもいい頃かも知れないな。うん。この機会に解放しておかないと忘れて永遠に閉じ込めそうだし……)

「あ、武術科と魔法科の試験結果も出るみたいだよ。」

「お、合格してるといいなぁ…」


そしてカイトに武術科の結果が渡され、降助にも武術科と魔法科の結果が渡される。


「ふう…ギリギリ合格…良かったー…実はちょっと心配だったんだよね。結構ギリギリだったから…コウスケはどうだった?」

「…どっちも満点だ……」

「えぇっ…!す、凄いね…!確か武術科の満点は平民部だと1、2人くらいしかいなくて、魔法科は10人ちょっとくらいだよ!」

「そ、そうなんだ〜…」(もうちょっと控えめにいっても良さそうだな…ま、それはまた次回ってことで。)


その日は短縮日課で、試験の結果が返された後はちょっとした授業をして終わりとなり、次の日の終業式に備えて2人は早めに寝たのだった。






第3章 学園生活編 -完-

凄いぬるっと終わっていきましたが、これにて第3章完となります。早速第4章を書いていきますのでこれからも応援よろしくお願いします。

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