第46話 久しぶりの学園
降助はまた夢を見ていた。黒い人型のもやは以前よりも近付きつつあるが、未だにそれが何者なのかは分からなかった。
「…またこの夢か。」
「あ、起きたんだね、コウスケ。今日はシューヴァルト学園に帰る日だよ。ほら、荷物をまとめるよ。」
「うん。」(しかし昨日は大変だったな…蔦とか花びらで討伐した証拠になるのかな?って思って首を持ってったらドン引きされたし…ガーヴの事もだいぶお叱りを受けたし…)
ちなみに報酬は2人で山分けとなり、18000キーカとなった。寝巻きから制服に着替えた降助はいつも通り、ミサンガと首飾りを付ける。
「そういえばそれ、ずっと付けてるけど大切な物なのかい?」
「うん。大事な人達から貰ったんだ。本当に…大切な物だよ。」
「そっか…って、よく見たらその首飾り、エルフ族のじゃないかい?」
「そうだけど…」
「凄いなぁ…!コウスケってエルフ族の知り合いがいたんだね!」
「やっぱり珍しい事なの?」
「まあね。エルフ族って基本自分の住処の森を出てこないし。」
「ふーん。」
そんなこんなで支度を済ませると、ノックの音と共にルークがやって来る。
「準備はできているようだな。では外で待っていろ。忘れ物がないかしっかりと確認しておくように。」
「はい。大丈夫です。」
「うむ。では私は他の部屋を見てくる。」
2人は宿を出て他の生徒と共に待っていると、ガーヴがやって来る。
「よう。」
「…なんかこの3人が集まるのが基本になってきたね。」
「そうかもね。」
「まあ、オレも否定はしねぇ。」
「それにしても…この4日間、色んな事があったね。」
「初日はこの街でケットに再会したな…別に嬉しくもなんともないんだけど。」
「そうだ。オマエ、なんで腹痛なんかで休もうとしたんだよ?なんか理由でもあんのか?」
「まあ…色々あるというか…もう過ぎた事だし、なんともなかったからいいんだけど。」
「ほーん…」
「2日目は大変だったね…まさかあんな数のジャイアントフォレストスコーピオンと戦う事になるなんてね。」
「ああ。ありゃオレも駄目だと思った。」
「3日目は…特になんもなかったか。」
「まあ、平和が一番だし、それがいいんだけどね。」
「4日目はオレとコウスケでアルラウネを討伐しに行ったな。」
「ええっ!昨日はコウスケだけじゃなくてガーヴ君の姿も見えないと思ったら一緒に行ってたのかい!?」
「そうなんだよね…俺があれだけ言ったのに…おかげさまで2人仲良くお説教くらったよ……」
「別に何事もなく終わったからいいのによ、あーだこーだとギルドマスターがくどくどくどくど…しかも討伐の証拠の首を出したらまた騒ぎ出したんだぜ?」
「『アルラウネの首を持ってくるとかなんなんすか!?アンタ達サイコパスだったんすか!?いや、部位を指定しなかったアタシもアタシですけど、それでも首はないっすよ!』って言ってたよね。じゃあどこなんですかって訊いたら『めしべっす。』って言われたけど、めしべがどこか知らなかったし…」
「そんな事が……あ、話してるうちに先生が来たよ。もうすぐ出発するみたい。」
「お、じゃあ行くか。」
その後、飛空艇に乗ったルークと生徒達は、数日振りのシューヴァルト学園に帰って来たのだった。
「なんか…たったの3日、4日離れてただけでちょっと懐かしい感じになるな…」
「確かに。僕もそれ、分かるよ。」
「ま、分からなくもないな。」
「おーい!3人ともーおかえりー!」
「ん、ミレナか。」
「あれ?3人とも…なんか仲良くなった?」
「そうだね。確かに、仲良くなったかもしれない。」
「そうかなぁ?」
「どうだかな。」
「なってるよ〜、むこうで何かあった?」
「…まあ、アルラウネを倒したりはしたな。」
「えっ!?アルラウネ!?」
「しーっ!しーっ!!」
「あっ…ごめん……コウスケ君、何かあるの?」
「…これは俺とガーヴだけの秘密っていうか…大っぴらにする話じゃないっていうか…」
「そ、そうなんだ…それよりガーヴ、アルラウネに惑わされたりしてないよね??」
「あぁ?なんでんな事訊くんだよ。」
「別になんでもいいでしょ!で、どうなの?」
「はっ、オレがアルラウネ如きに惑わされるわけねーだろ。」
「ふーん…そう。ならいいけど。」
(おやおやぁ…?)
(これはこれは…)
カイトと降助は若干にやけた顔で2人を見る。
「なんだよオマエら、2人揃って気持ち悪ぃ顔で見てきやがって…」
「いやぁ…別に?」
「なんでもないよ??」
「なんなんだよ…?」
「青春、だねぇ…」
「そうだねぇ…」
「本当になんだよ……」
困惑するガーヴとちょっぴり頬を赤らめ、ほっとしているミレナを見ながら2人はニヤニヤしていたが、ルークに早く帰るようせっつかれ、降助とカイトは寮に、ガーヴとミレナはそれぞれの家に帰っていった。
「ふう…この部屋も久し振りだな。」
「だね。それで…帰ってきて早速だけど、夜ご飯どうしようか?」
「確かに…特に食材も無いし…どこかに食べに行くのもアリだけど…」
「じゃあそうしよっか。」
「そうと決まれば早速行こう。」(チースさんからの依頼を3つもやって懐も余裕はあるしいいよね。)
2人は街の適当なレストランで夕食を済ませ、帰宅して風呂に入った後、眠りにつく。そして降助はまた夢を見ていた。もやは以前よりも近付いており、おおよその身長が分かるようになり、性別も推測できるくらいにはなっていたが、やはり誰なのかは分からなかった。そして夜が明けて朝を迎え、降助は起きて寝巻きから部屋着に着替える。
(ここ最近、ずっとあの夢を見るな…ようやく俺より小さいくらいの女の子って事は分かったけど…まだまだ誰なのか全然分からない。悪夢ってわけじゃなさそうだからいいけど…そろそろ他の夢も見たいな。)
「おはようコウスケ。」
「おはよう。」
「今日もいい天気だね。校外学習で今日が休みになったからゆっくりしたいところだけど…」
「…定期試験か…」
「うん。だから勉強しないとね…」
「そうだね……」
そんな会話をしつつ、朝食を食べ終えた2人は憂鬱な気分で自室に戻り、テスト勉強を始める。
「…しんみりした感じで言ったけどぶっちゃけ楽勝なんだよな。昔からアインさんの本で勉強とかしてたし…でも課題は提出しないとだし、進めとくか……」
それぞれの教科から出された課題を進め、降助とカイトは1日を終えた。




