第45話 チースからの依頼 2
宿に戻って夕食を食べ終えた降助は、次の日に備えて早めに眠っていた。
「……」
ふと暗闇の中、遠くの方に人影のようなものが見える。人数は2人だけでもやがかかっており、距離が離れていたのもあって詳しい外観が分からなかった。そんな夢を見たかと思うと、既に日が昇り、朝になっていた。
「…変な夢だったな……」
「どうかしたのかい?」
「いや、なんでもない。そういえば、今日の授業はどうなるの?」
「ああ、それなんだけどね、先生がここのギルドマスターに確認を取って、問題無しって分かったから再開するらしいよ。」
「そっか。じゃ、支度しようか。」
「だね。」
それから朝食を食べて霧の森へ向かい、昨日と同じように中へ入っていく。
「そういえばコウスケ、剣変えたのかい?」
「ん?ああ。安物で刃こぼれとかしてたからね。買い替えたんだよ。」
「へぇ…確かに、前のとは格段に違って見えるね。」
「魔力をよく通すんだってさ。」
「へぇ…じゃあ結構したんじゃない?」
「まぁ…それなりかな…?」
そんな事を話しているうちに、浅層の外周と内周の中間地点に到着する。
「じゃ、いこう。」
「うん。」
今回は2人ともゴブリン討伐が指定されており、前回と同様に協力して取り組む事にした。
「ギッ!?」
「《クイックスラッシュ》!」
「《ウインドスラッシュ》」
「ギアッ!?」
「ギャッ!?」
「おお…この剣、確かに魔法の流れがいい感じがするな。」
「あとひと息…このままいこう!」
「おう!」
その後も順調にゴブリンを討伐していき、この日の授業は特にハプニングもなく終了する。宿へ戻った生徒達は調理場で、1日目に採ってきたルタトの実でタルトを作っていた。
「1日目で採ったこの実、何に使うのかと思ったらタルトを作るためだったんだ。」
「そういえば、ルタトの実ってタルトにすると凄く美味しいらしくて、名前の起源もそこからきてるらしいよ。あ、これ切ったから乗せておいて。」
「ん。」
順調にタルトを作っていき、数十分ほどで完成する。
「美味しそうだね。」
「じゃ、早速食べるか。」
降助がタルトを食べようとした瞬間、食堂にギルド職員がやってくる。
「すいません、コウスケさんはいますか?」
「あ、はい。」
「少し来ていただいてもいいですか?」
「分かりました。」(ちぇ…折角タルト食べようとしてたのに…まあいいや。ディメンションチェストに入れて後で食べよ。)
誰にも見つからないようにコッソリとタルトをしまい、ギルド職員と共にギルドに行き、ギルドマスターの部屋に通される。
「昨日に引き続き今日もすみませんっす。まだちょっとコウスケさんにお願いしたい依頼がいくつかあるからやってほしいんす。」
「まぁ…いいですけど…」
「じゃあ早速なんすけど…霧の森中層の内周に生えるヴァンパイアツリーを討伐して持ってきてほしいんす。」
「前回と同じように討伐して持ってくるんですね。それで、ヴァンパイアツリーっていうのは?」
「ヴァンパイアツリーは生き物の血を養分に育つ木…というか魔物っす。その習性は恐ろしいんすけど、沢山の血を吸って育ったヴァンパイアツリーの木材は深紅の木材になるんす。これがまた色んな層に人気なんすよ。他にも、血を吸った生物と同じ血の色になるのを利用して、青だったりいろんな色の木材になったりと、塗装要らずの万能とも呼べる木なんすよ。」
「そうなんですか。」
「ただ…倒しても持って帰るのが大変だからって最近は買取の数も少なくて…これもまた建築関係の方々から早く市場に流してくれってせっつかれてるんすよ…」
「大変ですね…」(ダンジョンで魔物を倒してもゲームとかみたくドロップ品に変わったりしないからな…確かに大変そう…そういえば世の中の冒険者ってどうしてるんだろう?アイテムボックスを持ってる人もそんなにいないわけだし…)
「そんなわけで、アイテムボックスを持ってるコウスケさんに頼みたいんすけど…受けてくれるっすか?」
「はい。いいですよ。」
「ありがとうございますっす!じゃあ早速お願いするっす!」
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「ってなわけで中層の内周まで来たけど…どれがヴァンパイアツリーか分からないな…」
森の中を歩き回っていると、突然足に何かが巻きつき、片足が動かなくなる。
「何か巻きついてきた!?これは…木の根?まさか、これがヴァンパイアツリーか!」
降助は素早く剣を抜いて根を斬ると、斬られた根がビチビチとうねり、近くにあった木が苦しむように震える。
「うわああぁぁキモキモキモッ!!すっごいビチビチしてる!!《ウインドスラッシュ》!」
木は根本から斬り落とされ、うんともすんともいわなくなる。
「うお…断面赤っ……これがヴァンパイアツリーか…とりあえずディメンションチェストにしまって…と。」
1本目のヴァンパイアツリーをディメンションチェストに押し込んだ後、スキルを使ってヴァンパイアツリーを見つけては遠くから飛斬で斬り落とすのを繰り返し、6本ほど回収してギルドに戻った。
「はぁ…木の根があんなにビチビチ跳ねるとは思わなかった…」
「あ、おかえりなさいっす!どうだったっすか?」
「あ、チースさん。とりあえず6本くらい持ってきました。」
「お疲れ様っす。早速出してもらえるっすか?」
「はい。」
ディメンションチェストからヴァンパイアツリーを引っ張り出し、倉庫に並べていく。
「おぉ…あまり木材には精通してないんすけど…それでも分かるくらい良い色合いっすね…なんというか…吸い込まれるような深紅で…はぁ〜…」
降助はうっとりとヴァンパイアツリーを眺めるチースに、若干心配になった。
「えっ…ヴァンパイアツリーの木材って曰く付きの品とかじゃないですよね…?」
「ああ、大丈夫っすよ。多分詳しい人達が見たら皆同じかそれ以上の反応すると思うっす。とにかく、ここまでの色合いだとかなりの高値がつく筈っす。今回も報酬は色を付けて渡させてもらうっす。」
その後、報酬として75000キーカを受け取った降助はタルトを食べながら宿へ戻ってきていた。
「ん〜…タルトうまっ…カスタードの甘さとルタトの実の甘さがよく合うし、実のちょっとシャリっとした食感もいい…」
「あ、帰ってきたんだね。おかえり。」
「うん。ただいま。」
「昨日からギルドに呼ばれて手伝いをしてるみたいだけど大丈夫かい?」
「ん?全然平気だけど。」
「そっか。もしよかったら次は僕も手伝わせてくれないかな?」
「え?」
「ほら、人手は多い方が早く終わるだろうし。昨日と今日とでずっと1人でやってたから大変じゃないかい?」
「いや、大丈夫だよ。本当に簡単なものだし、いつもすぐ終わってるから―」
「面白そうだな。オレも混ぜろよ。」
「あ、ガーヴ君。」
「マジか…」
「最近姿が見えねぇ時があると思ったら…そんな事してたんだな、オマエ。」
「まあ…頼まれごとされててね。」
「丁度いいんじゃないかい?ガーヴ君も入れて3人でいけば早く終わるよ。」
「そうだぜ。コイツの言う通り、3人で行こうや。」
(はぁ…どうせ言っても聞かないだろうし、しょうがないか…)「…一応明日ギルドマスターに確認してからね。」
「うん。僕はそれでいいよ。」
「明日が楽しみだな。」
「俺は憂鬱だよ…」
そして次の日、授業を終えた降助はギルドマスターの下へやって来ていた。
「今日も来てくれてありがとうっす。早速依頼を―」
「その前に1ついいですか?」
「?」
「実は…かくかくしかじか…」
降助はカイトとガーヴの事を相談するが、チースの反応はあまり良いものではなかった。
「今までの依頼ならまぁ…許可しようと思えばできたと思うっすけど…今回は流石に駄目っす。これはコウスケさんだけで受けた方がいいっす。」
「そんなに危険な依頼なんですか?」
「今回はアルラウネの討伐っす。アルラウネはその見た目と蜜の香りで生き物を惑わせ、誘き寄せて捕らえ、養分にするっす。コウスケさんの実力なら問題なく討伐できると思うっすけど…正直言ってそのお2人がどうなのかは分からない以上、許可しかねるっす。」
「成る程…じゃあ、よく言っておきます。」
「それじゃあ頼んだっすよ!」
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「で、なんでお前がいるんだよ。」
「あぁ?なんか文句あるかよ?」
「文句しかないよ!君、俺の話聞いてた!?」
時は遡って数時間前…
「―というわけで今回は駄目だって。」
「ほーん…アルラウネの討伐ねぇ…」
「そっか…じゃあ僕はやめておくよ。手伝いたい気持ちは山々だけど、足手まといにもなりたくないからね。」
「そうしてくれると助かるよ。ガーヴもそれでいいよね?」
「ケッ…お前は大丈夫でオレが駄目な理由がよくわかんねぇぜ。」
「じゃ、俺は行くからな。」
そうして霧の森へやって来た降助だったが、いつの間にかついてきていたガーヴが無理矢理同行してきたのであった。
「あの時返事してねぇからな。つまり来ないとは言ってなかったわけだ。」
「はぁ…ここまで来た以上は仕方ないけど…自己責任で頼むからね。」
「分かってる。それに、オレには対策があるからな。」
「ほーん…そこまで言うなら見せてもらおうか。」
「おう。見てろよ?」
そう意気込むガーヴと共に森を進んでいると、ゴブリンを養分にしようと蔦を絡ませ、引きずるアルラウネを発見する。
「あれがアルラウネか…デカい花から女の人が生えてる……しかし、ちょっと目のやり場に困―」
「《ファイアボール》!《ファイアボール》!《ファイアボール》!」
「キャアアアッ!」
突然のファイアボール3連撃になす術もなく、アルラウネはゴブリンもろとも焼き尽くされる。
「こうすれば問題ねぇだろ?オレは色仕掛けなんかには引っかからねぇし、後は蜜の香りを嗅がされる前に仕留めりゃいいだけだ。」
「それはそうだけどさ…」(う…見た目も断末魔も人間寄りだからちょっとメンタルに来る…)
「で、アルラウネは倒したわけだが…もう帰んのか?」
「いや、最近数が増えてきたから最低でも5体は倒してほしいって言われてる。」
「ほーん…しっかし、そんな依頼をCクラスの生徒に依頼するギルドはどうなってるんだろうなぁ?」
「こっち見ないでよ…とにかく、さっさと終わらせて帰るよ。」
「…なぁ、コウスケ。」
「…分かってる。囲まれた。」
「コイツら、随分と仲間意識が強いみたいだなぁ?」
周りを見ると、4体のアルラウネが降助とガーヴを囲んで狙っていた。
「さて…正面からやるとなると、蜜以外に蔦にも注意しないとだな…」
「オレとオマエ、2体ずつでいいよな?」
「なんなら1対4でも勝てる自信があるよ。」
「へっ…そいつは…どうだかなぁ!!」
「はっ!」
降助とガーヴを仕留めようと伸びる蔦を斬り捨てていくが、次から次へと蔦が襲いかかり、思うように本体に攻撃できない。
「あぁー!鬱陶しい!!《ファイアスラッシュ》ッ!!」
炎を纏った斬撃で一気に蔦を斬られたアルラウネ達はたじろぐが、すぐに蜜の香りを出して対応する。
「香りごと焼き尽くしてやるよ!《ファイアボール》!《フレイムカッター》!」
「キャアアッ!」
「キャアア!」
「じゃ…俺も終わらせるか…!」
降助は少し距離を取って剣をしまい、ディメンションチェストから双斧を取り出す。
「《ローリングスラッシュ》!二連撃!!」
降助が投げた斧は蔦を斬り裂きながら直進し、アルラウネの首を刎ね、ブーメランのように戻ってくる。
「っと。これで片付いた。」
「随分と器用な事するんだなぁ?」
「…まあな。」
「テメェ…職業何にしたんだ?ギルドに登録する時に仮でもなんでも職業は選んだ筈だろ?」
「一応は魔法剣士だよ。」
「オレと同じだな。ま、斧も使える魔法剣士なんざ見た事ないけどよ。」
「ははっ…」(他に両手剣も槍も弓も使えるけど…)
無事にアルラウネを討伐した2人は、証拠の為に刎ねた首を持っていったがチースに軽く引かれた他、勝手についてきたガーヴに軽い説教があったのだった。
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