第44話 チースからの依頼 1
「とりあえず深層には着いたし、とりあえず…《索敵》」
降助は周囲の魔物の気配を探る。
「んー…あの辺っぽいな。行くか。」
気配を辿って奥に進むと、開けた場所にヴェノムアナコンダがとぐろを巻いて眠っていた。
「うわ…デカっ…10mくらいはあるだろ……えーっと、皮が欲しいって言ってたし、傷をつけないように頭に一発だけ入れて仕留めるのが良さそうだな。えーっと槍は…あ。そういえばストームドラゴンと戦った時につっかえ棒にしたりして壊れたんだった…どうしようかな…とりま《ディメンションチェスト》。」
何か使えるものはないか中を探していると、ウインドヒルのダンジョンでラージゴーレムを倒した時に手に入れたピッケルを見つける。
「お、これを思いっきり突き刺せばいけそうだな。早速使って…ってヴニィル?まだこの中にいたの?」
ディメンションチェストの中にいたヴニィルは少し困惑したような顔で立っていた。
「おーい、ヴニィル?どうしたの?そんな変な顔して…」
何回か呼びかけるが応答がない。
「?おーい?……どっかおかしくなってんのかな…《看破》」
【ヴニィル】
種族:ドラゴン
年齢:1016歳
性別:男
魔法:ファイアボール ファイアレイン etc…
スキル:ドラゴンブレス 人化 etc…
状態:仮死(時間停止)
「うおっ…看破で分かる内容が変わった…前までは情報が淡々と脳に流れてくる感じだったのがステータスパネルみたいにまとまった感じで脳内に出てくるようになった…相変わらず可視化されないけどだいぶ分かりやすいな…って、ん!?状態:仮死!?しかも時間停止って…ディメンションチェストって生物にも影響を及ぼすのか!?…この空間にも使えるかな…《鑑定》」
【亜空間】
無限の面積を持ち、この空間に存在するものは時間が流れなくなる。生物が3秒以上この空間内に留まると全ての生命活動が時間停止の影響を受けて停止し、仮死状態になる。空間から出れば元に戻る。
「知らぬ間に鑑定も進化してる…って生物が3秒以上留まると仮死状態になる!?俺ガッツリ3秒以上留まってるけど!?か、《看破》!」
【神来社降助】
種族:人間
年齢:16歳
性別:男
魔法:全属性初級魔法 ヒール シールド etc…
スキル:飛斬 乱飛斬 炎乱飛斬 etc…
状態:状態異常無効 成長率倍増
「状態異常無効に成長率倍増?いつの間にこんなのが…って、もしかしてジャイアントフォレストスコーピオンの毒が効かなかったのも、この空間で全然平気でいられるのもこれのおかげかな…?それと成長率倍増…もしかして俺がこんなに強くなれたのってこれがあったからなのかな…ま、とりあえずヴニィルを外に出してやるか。」
ディメンションチェストの出口を館に繋げてヴニィルを外に出すと、何事もなかったかのようにヴニィルが動き出す。
「我は一体何を…?確かコウスケに詰め込まれて3秒ほどしてから記憶が無いが…」
「…ごめん。」
「…?何故謝るのだ?」
「いや、気にしないで…それより、ヴニィルは暫く館に封印ね。」
「そ、そうだったな。それで、我はどれくらい封印されるのだ?」
「んー…1ヶ月以内には解放しようかな…?」
「ぬ…長くて1ヶ月も封印されるのか……だが、今まで洞窟に引き篭もっていた年月と比べれば一瞬だしな。大人しくするとしよう。」
「んじゃ、万物を封ずる牢で自らの行いを省み、悔いるがいい。《マジックプリズン》」
「詠唱込みで発動とは本気だな…」
「当たり前でしょ。これは罰なんだから。って、そういえばヴニィルが暴れたせいで冒険者からギルドに報告されてちょっと大変そうになってたんだからね?これの罰も追加して1ヶ月以内じゃなくて最低1ヶ月の封印にします。」
「なっ…なんだと…!」
「よーく反省するように。」
「う…うむ……」
「じゃ、俺は戻るから。」
そう言って降助はディメンションチェストを通って"霧の森"へ戻ってくるが…
「ふう…って、あ。」
運悪くヴェノムアナコンダが目を覚ましており、降助は完全に獲物として狙われていた。
「マジか…寝てる間に仕留めたかったんだけどな……うおっと!」
ヴェノムアナコンダの噛みつき攻撃を躱した降助は、ピッケルを構える。
「ヴェノムっていうからには毒があるんだろうけど…状態異常無効だから効かないんだよなぁ…丸呑みされたり巻きつかれて締め上げられたらどうなるか分かんないけど…とりあえずやるか!《スピードステップ》!」
降助は素早い動きで翻弄していき、隙を窺う。
「そこだっ!」
降助の素早い動きに追いつけず、疲れて隙を見せたところを、脳天にピッケルを突き刺して仕留める。暫くの間はのたうち回っていたが、やがてピクピクと震えるだけになり、遂に動かなくなる。
「よし、結構楽に倒せたな。それじゃ、コイツをディメンションチェストに放り込んで…と。さて、帰りますか。」
ウードの町に戻り、ギルドに向かっているとカイトと出会う。
「あ、コウスケ。先生からコウスケはギルドの手伝いをしてるって聞いたんだけど何してたの?」
「まあちょっと魔物を倒してきた。」
「へぇ〜、何を倒したんだい?」
「ゴブリンとか…かな。」
「そっか。それにしてもなんでコウスケだけ呼ばれてギルドの手伝いをしてるんだろうね?」
「さ、さぁね?」
「とりあえず僕は宿に戻るよ。コウスケも早く手伝いを終わらせてゆっくりしようよ。」
「ああ。分かった。」
カイトと別れた降助はギルドの隣にある解体作業用の建物でチースを待っていた。暫くすると、解体作業をする数人の男性職員と共にチースがやってくる。
「お待たせしたっすー。それで、ヴェノムアナコンダは倒せたんすね?」
「はい。ここに出しちゃいますね。」
「え?ここに出すって―」
降助はディメンションチェストからヴェノムアナコンダを取り出し、作業用の台の上に乗せる。
「こ、コウスケさんってアイテムボックス持ちだったんすね…!」
「ええ、まあ…はい。」
「しっかしこりゃあデケェな。」
「ああ。俺も解体作業を生業にしてそこそこだがここまでデカいヴェノムアナコンダは見た事がないな。」
「こりゃあ腕が鳴るな。」
「それじゃあ皆さんは解体作業をしてくださいっす!じゃ、コウスケさんは向こうで報酬のお話するっすよ。」
「あ、はい。」
降助が部屋の隅の椅子に座って待っていると、チースが貨幣を乗せたトレイを持ってやってくる。
「まず基本報酬が15000キーカ、ヴェノムアナコンダまるっと全部買い取りで11万キーカで合計12万5000キーカっすね。」
「じゅ…じゅうにまんごせん……」
「傷が殆ど無い完璧な状態なんで1万キーカほど色を付けてあるっす。これが10000キーカ貨幣と1000キーカ貨幣っす。12枚と5枚っすね。確認してほしいっす。」
「……はい、ちゃんとあります。そういえば、10000キーカ貨幣なんてあったんですね。」
「そうっすね。ちょっと前から流通し始めたんすよ。いやー、これならお金も嵩張らなくていいっすね。」
「そうですね。」
「ひとまず、今日のところはこれで大丈夫っす。後は宿でゆっくりしてほしいっす。」
「分かりました。じゃあ、俺はこれで。」
そうしてギルドを後にした降助はウードの街の武器屋に来ていた。
(斧も槍も壊れて剣も刃こぼれしてきたからな…11万キーカも入っちゃったし何か良い武器でも買うか。ぶっちゃけ、ウインドヒルで貰った10万キーカも残ってるしな…)
店内を眺めていると奥から店主らしき中年くらいのドワーフの男がやってくる。
「おう、ボウズ。ウチになんか用か?」
「ああ、はい。武器がいくつか壊れたのと剣も刃こぼれしてきちゃったので新調しようかと。」
「ほう。しかしボウズ…随分と良い装備してんな。」
「分かるんですか?」
「ああ。俺ぁ武器専門だが素材にゃあ詳しい。その胸当てもアームガードもストームドラゴンのだろ。結構値段が張るものだが…よく買えたな。」
「いやあ…買ったというか貰ったものですけど…」
「ふむ。そうなのか。そんな高いものを譲って貰えるとはボウズ、運が良かったな。」
「まあ、色々ありましたから。」
「そうか。ま、深く詮索する事はしないが…壊れた武器を新調するっつってたな。一応武器を見せてみろ。直せるもんもあるかもしれねぇ。」
「あ、それなら…」
降助はディメンションチェストから槍、斧を取り出し、鞘から剣も出して見せる。
「ボウズ、アイテムボックス持ちか。珍しいな…」
「やっぱり珍しいですか…」
「そりゃあ、ポンポンあっていいスキルじゃねぇしな。それよりもだ。こりゃあなんだ…?剣の刃こぼれはともかく、槍は歪んでるし欠けてるし何故かちょっと焦げてるしで…斧に関しちゃ見る影もねぇじゃねぇか。何があった?」
「ちょっと無茶をしたというか…なんというか…」
「まあいい。見たところ、どれも安物っぽいしな。ま、安物だろうとそうじゃなかろうと、ここまで壊れてたら買い替えた方が早いな。古い武器は処分していいか?」
「あ、はい。お願いします。」
「そんじゃ、武器を探していくわけだが…ボウズ、職業はなんなんだ?槍に斧に剣…戦士か?」
「一応は魔法剣士ですね…」
「それは本気で言ってるのか…?」
「はい…」
「そ、そうか…なら剣も買い替えたらどうだ。この剣は魔力をよく通す素材が使われててな。それのおかげで刃こぼれもしにくい。」
「じゃあそれにします。」
「ふむ。後は斧と槍だな。まず…槍はこれがオススメだ。ちょっと短いが軽くて取り回しが良い。後は…これだな。こっちの槍よりも長いから間合いは取りやすいな。」
「うーん…どっちも買おうかな。」
「ほう…随分太っ腹だな。そんで最後に斧だが…これだな。小さい2個で1セットの双斧だ。両手斧とはまた違った戦い方ができる。」
「成る程…それも買います。」
「毎度あり。片手剣、槍、双斧で合計は55000キーカだ。」
「55000キーカちょうどです。」
「ふむ。10000キーカが5枚と1000キーカが5枚。ちょうどだな。じゃ、また何かあったらウチに来い。」
「はい。その時は是非。」
買い物を済ませて武器を新調した降助は宿に向かうのだった。




