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第43話 霧の森 2

「うーむ…どうしたものか…」

「おい」

「なんだ?人間。我は今考え事を―」

「何やってんのヴニィル」

「なっ…!こ、コウスケ…!?な、何故ここに!?」

「それはこっちの台詞だよ。何でここに居るの?」

「それは…その…だな…」

「とりあえずそこに正座。」

「はい……」


ヴニィルはジャイアントフォレストスコーピオンの死骸に囲まれながら正座し、降助に冷たい目で睨まれていた。


「あの人もコウスケの知り合いなのかな?」

「まあ…そうなんじゃねぇのか?」

「それにしてもあの量のジャイアントフォレストスコーピオンを一瞬で倒すなんて…何者なんだろうね?」

「分からねぇ…けど間違いなくヤバいヤツだな。」

「それを…」

「ああ…正座させて説教してるな。アイツ。」

「何言ってるかはちょっと聞こえないけど、凄く怒られているのは確かだね…」


気まずそうな顔をして正座するヴニィルの周りを行ったり来たりしながら降助が質問をする。


「質問その1。なんでここにいるの?留守番はどうしたの?」

「それは…だな…館に篭るのも飽きて…それで…体を動かしたくなってダンジョンにだな…」

「ふーん。それで?どうしてこのダンジョンにいるんの?ダンジョンなら他にもあると思うけど。」

「えっと…スタトや近くの町の付近にあるようなダンジョンでは準備運動にもならなくてだな…そういえば面白そうな森があったな、と思ってここに来たのだ。」

「成程ね。じゃあ質問その2。ここで何をしていたの?」

「その…奥の方で魔物を…狩っていてな…準備運動くらいにはなったか、と思ったところで魔物共が我から逃げ出してな…逃すものかと思って追いかけていたのだ。」

「ほほーう。それじゃ質問その3。他に人がいて巻き添えをくらってたらどうするつもりだったの?しかも今回は学生だよ?16歳の子供だぞ?女子供を襲おうとするドラゴン様には関係ないって?」

「ま、待て待て。女子供を襲おうとするのは違う。我…というか大半の知恵ある魔物はいちいちそんな事はしない。」

「初対面の時に子供()に向かって半殺しだのボコボコにだの言ってたあなたじゃあ説得力がないなぁ?」

「あれは…ああやって脅せば町の人間に知らせて少しは骨のある人間を連れてくるのでは、と思ったからであって…本当に女子供を襲う事は考えていなかったのだ。」

「あっそ…で、他の人が巻き添えをくらってたらどうするつもりだったの?俺が見た限りは怪我人はいないようだったから良かったけど。もしいたら?それにカイト曰くあのサソリには強い毒性があるみたいですが?人が死んでたらどうするつもりで??」

「うぐ…それは……わ、我が考えなしだった…すまぬ……」

「…まあ、今回は怪我人もなかったし、許すけどさ…怪我人が出て死人まで出たら謝罪じゃ済まされないからね。」

「あ、ああ…我も反省したし今日は大人しく館に戻って―」

「それじゃあ最後の質問。」

「な、何っ!?」

「実は俺…ジックさんに貰った魔導書で封印魔法っていうの勉強してさぁ…頑張ればヴニィルを館に封印できちゃうのよ。そこでなんだけどさ…大人しく館に封印されるかここで今すぐボコボコにされるか…どっちがいい?」

「ふ、封印だと…!?お主にボコボコにされるのも嫌だが封印されるのも嫌だぞ…!」

「よぉーく考えてみなさいヴニィルさんや。初めて会った時と同じか…それ以上に痛い目に遭うのと…館からは出られないけど痛くもないし普段通り過ごせるのと…どっちがいいかな?」

「うぐ…お、大人しく封印されます……」

「じゃあ帰ろっか。」


そう言って降助はディメンションチェストを館の中に繋げる。


「こ、これは…?」

「ジックさんから貰ったマジックポーチを解析して作り上げたオリジナル魔法。その名もディメンションチェスト!好きな位置に出し入れ口を出せるからワープみたいな事もできるんだよ。」

「お主…とんでもない事をさらっと言うが…転移の魔法など相当高位な魔法だぞ…?」

「いやいや、メインは収納であってワープはサブ、おまけみたいなもんだから。」

「いや、むしろ収納を主として転移もできる方がおかし―」

「いいから入った入った!」

「お、おい!押し込むでない…ぬおっ!」


降助はヴニィルをディメンションチェストに押し込んで入れ口を閉じる。


「ふぅ…これでよし……」


振り返るとカイトとガーヴが口をあんぐりと開けて呆然としていた。


「あ…」

「い、今のは…アイテムボックス…?」

「えっと…何かまずかったか…?」

「いや、アイテムボックスなら運がいいやつなら持ってる事もある、ってスキルだからな…まずいって事はねぇが…ま、珍しいっちゃ珍しいスキルだけどな。でも人なんて入ったか…?」

「さぁ…?アイテムボックスに人を入れた、なんて聞いた事ないけど…」

「と、とりあえず戻ろうか。一応全部片付いたし…ねっ…?」

「そ、そうだね。戻ろうか。」

「…そうだな。」


3人が霧の森の出口へ向かっていると、ギルドの職員を連れたルークがやってくる。


「お前達!大丈夫か!?」

「はい…なんとか。」

「そうか…逃げてきた生徒からジャイアントフォレストスコーピオンが出たと聞いてな。急いで来たのだが…とにかく、無事で良かった…む?コウスケ、服の肩の部分が破けているが…」

「ああ、これは…ちょっと怪我しただけです。ヒールで治したのでもう大丈夫です。」

「問題ないならいいが…とにかく、浅層に現れない筈の魔物が出るという異常事態が起きたからな。今日の授業は中止とし、明日以降も様子を見て最悪、バラシアン第一学園都市に戻る事も検討するから念頭に置いておくように。」

「分かりました。」

「はぁ…凄い疲れたよ…」

「今回はオレも流石にヘトヘトだな。帰って寝るか…」

「じゃあ俺も帰るか…」


4人が帰ろうとしていると、ギルドの職員が1人やってくる。


「あ、ルークさん。ちょっと彼をお借りしても?」

「む?構わないが……」

「ありがとうございます。コウスケ・カライトさん。少々お時間をいただけますか?」

「?はい、良いですけど…」

「ではウードに戻ったらついてきてください。」


降助はウードに戻った後、ギルド職員の後についていき、ギルドまでやってくる。そしてそのまま2階のギルドマスターの執務室に通される。そこには降助より若干年上程度の、黄色い髪にサイドテールの若い女性が椅子に座って降助を待っていた。


「ギルドマスター、コウスケさんをお連れしました。」

「はーい、ご苦労様っす。じゃ、早速そこに座ってほしいっす。」

「あ、はい。」

「アタシはチース。このウードのギルドマスターっす。ヒラールさんからお話は聞いてるっすよ〜。」

「それはどうも…」

「それで本題に入るんすけど…実は受けてくれる冒険者がいなくて溜まってる依頼がちょくちょくあるんすけど…その中でも最初に、とある依頼を受けてほしいんす。コウスケさんはストームドラゴンを倒す程の実力の持ち主って聞いてるっすからね。きっと楽勝な依頼の筈なんで是非受けてほしいんすよ。」

「そうなんですか。それで…どんな依頼なんですか?」

「霧の森の調査に行ってほしいっす。」

「…というと?」

「実は最近…奥のエリアにいる筈の魔物が外側のエリアに現れたりしてるっす。しかも、冒険者の報告によると地響きやブレスのような光に…しまいには黒っぽいドラゴンを見た、なんて話す人もいるんすよ。それを調査してほしいっす。」

「……」(それ絶対ヴニィルだー!!間違いなくヴニィルだー!!アイツ…ちょっと前からここで暴れてたのか…こりゃ追加で説教だな……)

「あの…コウスケさん?」

「えっと…多分それ…解決してます…」

「えっ…ま、マジっすか!?でもそれってどういう事っすか!?」

「かくかくしかじか…」


降助はヴニィルがドラゴンである事は伏せつつ、事情を説明した。


「成る程…コウスケさんの知り合いの方が暴れて、魔物が逃げようとして外のエリアに現れたと…」

「はい…どうもすみませんウチのアホが…」

「幸い、死者とかは出てないみたいだからいいっすよ。しかし、魔物も逃げ出すなんてよっぽど凄い人なんすねぇ…とにかく、事情も分かって解決したならそれでいいっす。じゃあ後は軽い依頼を受けてほしいっす。」

「っていうと…?」

「霧の森の深層、外周エリアに生息するヴェノムアナコンダを倒して持ってきてほしいっす。」

「倒すのは分かりましたけど…持ってくるっていうのは?」

「実はヴェノムアナコンダの革製品が貴族の間で流行ってるんすけど…最近討伐報告とか買取もなくって…市場に流通してないんすよ。それで早く討伐して皮をーってせっつかれてるんすよ。」

「ああ、そういう事なんですね。」

「だからどうかヴェノムアナコンダを倒して持ってきてほしいっす!」

「分かりました。ちゃちゃっと終わらせてきます。」

「流石コウスケさん。ヴェノムアナコンダをちゃちゃっと終わらせるだなんて頼もしいっす。それじゃ、お願いするっす。ジークさん達には良い感じに誤魔化して伝えておくから安心してほしいっす!」

「ありがとうございます。じゃ、行ってきます。」


降助はチースに一礼して部屋を出ると支度を整え、霧の森へ直行した。

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