第41話 ウードの街
あの後、その日の授業を終えて寮に戻った降助はルークから受け取った紙を読んでいた。
「ふむふむ…1ヶ月後に霧の森か…持ち物は…装備と…武器ね。ま、これは色々あるし大丈夫として…問題は…」
「コウスケ、入るよ。」
「あ、丁度いいところに来た!」
「何かあったのかい?」
「ほら、1ヶ月後に校外学習で霧の森に行くでしょ?」
「そうだね。」
「ダンジョンって冒険者じゃなくても入れるのかなーって。」
「ああ、それね。ダンジョンは原則ギルドカードを持った冒険者じゃないと入れないからカードを発行するんだよ。だから持ち物のところに100キーカって書いてあるでしょ。」
「あー…」
「もう持ってる人は自分のギルドカードを持っていけばいいみたいだけど…まあ大体は発行してもらうかな。武術科を卒業した人って大体冒険者になってそのままカードを使うし、仮に兵士とかになっても使う人は使うしそうじゃないならそのまま失効するだけだし…」
「……」
「ってコウスケ?」
「……………」
「おーい、コウスケ?」
「はいなんでしょう」
「…どうしたの?何だか顔色が悪いけど。」
「いや、ナンデモナイデス」
「本当に大丈夫?」
「ダイジョウブダヨ」(マズい…俺…シルバーランク…だったよな…どうやって誤魔化すか……うわ〜…休みた〜……ん?待てよ…?休む…そうか!)
「あ、ちょっと顔色戻ったね。じゃ、大丈夫そうだし僕は夕食の買い物に行ってくるよ。」
「いってらっしゃい。」(そうだよ!休めば良いんだ!体調不良でもなんでも装って休んじゃえば…!そうとなれば早速ハクさんの知識の出番だ!確か…腹痛を起こす薬の作り方は……)
それから月日はあっという間に流れ、校外学習当日を迎える。
「ふむ…後は…カイトとコウスケだけか。遅いな……」
「遅れました…!」
「む。もう少し遅かったら置いて行くところだったぞ。…待て、コウスケはどうした?」
「彼はお腹痛いみたいで休むって…」
「腹痛程度で欠席とはいい度胸だな。引きずってくるから待っていろ。」
(ごめんコウスケ無理だった!)
「アイツマジかよ……」
一方で自室に篭っている降助は…
「作戦通り…!腹痛を引き起こす薬を飲んで休む作戦は完璧!後はこの薬を打ち消す薬を飲んで…と。ふう。これでゆっくり過ごせる。」
などとのんびりしていると鍵が開けられる音と共に誰かが入ってくる。
「え?なんで鍵の音…ああ、カイトが忘れ物でもしたのか―」
そう言いきる前に部屋のドアが開き、ルークが入ってくる。
「せ…先生…?」
「…ふむ。見たところさほど大した腹痛じゃなさそうだな。荷物はこれか?今すぐ着替えて出発するぞ。」
「へっ…?いや、俺、腹痛で休むって…」
「腹痛程度で私の授業を休めると思ったか?よほどの状態であれば医務室に放り込んで薬でもやるところだがそれほどでもないなら行くぞ。」
「そっ…そんな…!」
「さっさと着替える!!」
「は、はいぃ!!」
結局、どうする事もできなかった降助は着替えさせられ、荷物を持ってルークと共にカイト達と合流した。
「全員揃ったな。では行くぞ。」
「うぅ…」
「大丈夫かい…?」
「カイトぉ…」
「ごめんよ。でも欠席する旨を伝えたら即引きずってくるって言って……」
「うぐ…」
「へっ…サボろうとするからこうなるんだよ。」
「うるさいなぁ…」(最悪だ…無理矢理引っ張り出されて行く羽目になったし…しかも荷物の中にバッチリギルドカードもウインドヒルで貰ったドラゴンの装備も入ってるし…今日は厄日か……)
ルークと武術科の生徒達は学園を出て街の中を歩いていき、大きな建物の中に入る。
「あれ?建物の中に入るの?馬車に乗るなら外じゃない?」
「馬鹿かテメェは。これだけの人数だぞ、こっから出てる馬車の数が足りねぇわ。」
「む。お前に馬鹿って言われると5割増しでイラっとくるな。」
「なんだよそれ…」
「お前達にはこれから飛空艇に乗ってもらう。飛空艇酔いするやつは酔い止めをやるから言え。」
「飛空艇…!?」
「まぁ知らないのも無理はないよ。大きい国とかじゃないと運航していないからね。それで考えると学園都市であるここが運航してるって結構珍しい事なんじゃないかな。」
「ほぇー……」
全員が乗り込むと、飛空艇が動き出し、徐々に上昇していく。
「おお…!まさにファンタジー…!」
「ここからウードまでは半日程度で着く。それまでゆっくりしていろ。言っておくが、くれぐれも柵から手や顔を出すなよ。落ちて死にたくなければな。」
「そういえば飛空艇は大きな国とかじゃないと運航してないって言ってたけど、ウードってそんなに大きい国でもなければただの街だったような…?」
「厳密には飛空艇が乗り降りできるようなスペースがあるだけで、ちゃんとした建物は無いから運航はしてないって感じらしいよ。」
「ああ、そういう事。」
「それじゃあ、暇だし景色でも眺めていようかな。」
「俺もそうするか。」
そうしてのんびりと過ごしているうちにウードに到着し、飛空艇を降りる。
「今日は霧の森までの道を確認したりギルドカードの発行をして、明日から本格的な授業を始める。では、霧の森の入り口まで向かうぞ。」
それからしばらく歩いて行き、森の前へやって来る。
「ここが霧の森だ。明日の授業はここに集合だ。遅れないように来い。もし遅れたら…ウードの街の外周を5周してもらう。では、ギルドカードの発行に行く。既に持っている者はギルドの外で待機していろ。」
再び街に戻り、生徒達は100キーカを払い、書類に必要事項を記入していく。
「あれ、コウスケは発行しないのかい?」
「い、一応持ってるから大丈夫だよ。」
「へぇ〜そうなんだ。ところで何ランクなんだい?」
「えーっと…す、ストーンランクだよ。」
「ウッドランクの1個上だね。じゃあ結構依頼とかやったのかい?」
「そ、そうだなぁ〜…他にもウインドヒルの近くのダンジョン探索もしたし……」
「あ、そういえばあそこ、新しい階層が発見されたらしいね。なんでも大洞窟になってて、水光石の鉱床が見つかったり、ラージゴーレムがいたり…」
「へ、へぇ〜そうなんだ〜!す、凄いな〜!」(大洞窟を見つけたのも俺だしラージゴーレム倒した上にピッケルまでゲットしたんだよなー…俺……)
「さっきから聞いてたけどよ…コイツがストーンランクだと思うか?オレはアイアンランクでもおかしくないと思うけどな。」
「ははは…まさか…」(それの1個飛ばしてシルバーランクなんだよなぁ…!)
「ああっ!お前はあの時の…!」
ふと男の声がしたのでその方向を向くと、後ろにまとめられた茶髪に気持ち程度の贅肉と、どこかで見た事があるような男が立っていた。
「…知り合いかい?」
「オレは知らねぇぞ。」
「多分俺だと思う。どっかで見た覚えがあるんだよね。えーっと…なんだったかな…確か…3文字くらいの名前で…小さい『ッ』が入ってて…『ト』で終わる……」
「ボウズ、忘れたとは言わせねぇからな!」
「えっと、"主に旅人、時折悪人"がモットーの盗賊の…ラットだっけ?」
「全部違うわ!!"主に悪人、時折通りすがりの旅人"がモットーのアウトロー、ケットだ!!」
「彼…なんなんだい?」
「スタトからウインドヒルに行く途中で会った盗賊だよ。」
「いきなり盗賊に出会うなんて災難だねぇ…」
「だーかーらー!盗賊じゃなくてアウトロー!!覚えろや!」
「…それで何の用だよ?」
「いや、別に用とか無いけどよ…見つけたからつい声出ちゃったっていうか…」
「はぁ…」
「あっ!そういえばあの時ビンタされて腫れたの、1週間は治らなかったんだからな!!ずっとヒリヒリして痛かったんだぞ!!」
「そんなにビンタしたのかい?」
「まぁ…往復ビンタを少々…」
「あれが少々だと思うなよ!?結構ガッツリ―」
「いたぞ!あそこだ!追え!」
「逃がすな!捕えろ!」
「ヤベッ!じゃあまたなボウズ共!いつかビンタの借りを返してやるからな!!」
憲兵に見つかったケットはさっさと逃げてしまい、呆然としている3人の下へ憲兵がやってくる。
「君達、何かされてないかい?」
「あ、いえ、特に…」
「なら良かった。あの男は今指名手配中でね。これを渡しておくから見かけたら教えてくれ。では。」
そう言って憲兵は手配書を渡すとケットを探しにどこかへ行ってしまった。
「へー、アイツ、指名手配されてんのか。」
「賞金は……50000キーカ…!?」
「そこそこの賞金首じゃん…」
「捕まえとけば良かったな。」
思わぬ再会がありつつも、ギルドカードの発行を終えた一行は宿へ向かい、明日に備えて夕食を食べた後、眠りについた。…1人を除いて。
「さーて、それじゃあ早速始めますかね…」
降助は両手でゆっくりと魔法陣を構築していき、作っては書き換えてを繰り返す事数分。
「ここを…こうして…」
「ん…コウスケ?」
「ぴゃっ!?な、何…?」
「独特の悲鳴だねぇ…じゃなくて…寝ないのかい…?」
「あ、ああ…もうすぐ寝るよ。大丈夫大丈夫。」
「そっか…ふあぁ…僕は…もう寝るからね……」
「おう。おやすみ。」(び、ビビったー…心臓に悪いって……)
気を取り直して魔法陣を構築していき、遂に完成させる。
「できた…!アイテムボックスみたいな魔法!……ちゃんとした名前が欲しいな……容量は無限だし…内部の時間は停止してるし…んー…」
頭を悩ませる事数分、ようやく名前が決まる。
「よし、ディメンションチェストでいいか。これが俺の…オリジナル魔法…!手元だけじゃなくて…好きなところに出し入れ口を作れる…!自分で言うのもなんだけど便利だなーこれ。…好きなところに出し入れ口を作れる…?という事は…?」
降助はディメンションチェストで手元と寮の自室を繋げる。
「できたできた…!それじゃあマジックポーチの中身をディメンションチェストに移して……と。いやー本当に便利すぎでしょ。」
苦労して自作した魔法に満足した降助は、そのままベッドで横になり、眠る事にした。




