第40話 授業 2
武術科の授業を終えた降助はカイトと別れ、魔法科の教室へ来ていた。
「席は…あの辺でいいか。」
教室の隅の方の席に座り、待つこと数分。いくつかの本を抱えたショーウが入ってくる。
「お待たせしました〜!それでは授業を始めますね。今日は魔法の基礎、魔法陣についての授業をしていきます。」
ショーウは黒板に魔法陣を書いていき、1つずつ丁寧に解説していく。
(ジックさんと修行してた時は実戦を意識した内容だけでこういう基礎的なところはあんまりやってなかったからな…改めてやってみると発見があるな。これならアイテムボックスみたいな魔法を作る研究も上手くいきそうだな。)
「―と、魔法陣に流れる魔力の量を調節する事で威力を変えられます。では問題です。」
そう言うとショーウは両手に魔法陣を作り出す。右手の魔法陣は薄い赤色に輝き、左手の魔法陣ははっきりとした赤色に輝いている。
「これはどちらもファイアボールの魔法陣なんですが、違いは分かりますか?」
(ふむ…左右で流れている魔力の量が違うな。右手の方が少ない…となると…)「流れる魔力量の違いですね。右手の方が量は少なく、威力が低い。左手の方が量が多く、威力も高い。」
「凄いですね!その通り、正解です。このように、流れた魔力の量は光の色の濃さで分かります。是非、目安にしてくださいね。肌感覚でやろうとするととんでもない事になるので…私も新人の時は舞い上がって肌感覚で魔力流したら暴発して、コツコツ貯めてた少ないお給料が吹き飛びましたし…今でも思い出すと悲しく…よよよ…。」
(へ、へぇ〜…今までなんとなく感覚でやってたけど気を付けよ……)
「ぐすん……あ…コ、コホン。私の昔話はさておき授業の続きをしましょう。」
それからは魔法陣を構築するコツなどの話が続き、授業が終わった。降助は荷物をまとめ、Cクラスに戻ろうとする。が…
「テメェ、ようやく見つけたぞ…!」
「げっ…」
「ちょっとガーヴ、そうやってすぐつっかかるのやめなよ!」
(次がAクラスの魔法科だったのか…!)
「今日は逃がさねぇぞ…!」
「もう…このバカ…」
のらりくらりと逃げられ続け、ようやく降助を見つけて完全にその気になっているガーヴに呆れたミレナは、考えるのをやめた。
「今日こそは相手してもらうからな!」
「ま…待って。やり合う前に話をしよう。」
「あぁん?会うとすぐ逃げるのに今日は話し合いと来たか…いいぜ。聞いてやるよ。」
「まず確認するけど…ガーヴが俺につっかかってくる理由は試験の時に手を抜いてたからって事だよね?」
「あぁそうだ。テメェはAクラス…最低でもBクラストップの実力は出る筈だ。」
「…そうと考える根拠は?」
「勘…と言われればそれまでだが…決め手っつうかこう考えるに至った発端はあの山での試験だ。あんな呑気な顔でゴールできる環境じゃねぇんだよあそこは。どう考えてもCクラスのヤツには無理だろうな。」
(えぇ…そうなのかな…ゴール時間にばかり気を取られてその辺あんまり考えてなかったな…まあ、ヘトヘトの状態になろうとしたら1日中あの山全力疾走してないと駄目そうだけど。)「…それで…なんで俺が手を抜いて本気でやらないのか分かんないから決闘してどんなものなのか確かめて納得のいく答えを得ようと。」
「まあ、そういう事だ。」
(世の中には変わった人がいるんだなぁ…)「はぁ…仕方ない…観念するしかないな。」
「って事は決闘すんだな!」
「違うよ!この戦闘狂め!!」
「プッ…戦闘狂って…」
「笑うなよ!!…って、違ぇならなんなんだよ。」
「俺は…面倒事に巻き込まれたくないだけだよ。だから手を抜いてるっていうか本気は出さない。力をひけらかす趣味もないからさ。師匠の知恵だよ。」
「師匠が誰かは知らねぇが…それが理由か?」
「そうだよ。」
「…納得できねぇな。」
「えぇー…」
「納得はできねぇが、理由を聞けただけ良しとしてやるよ。ただの弱虫みてぇなくだらねぇ理由だが。決闘も申し込み続けるのはやめてやる。だがオレはオマエを認めないからな。気を抜くんじゃねぇ―」
「ほらガーヴ!授業遅れるから!行くよ!!あ、コウスケ君、またね。」
「あ、うん。また…」
「おいコラ待て!話はまだ終わってねぇっ!!」
「何言ってんの!今のでほぼ終わってたでしょ!」
「いたたたっ!耳、耳引っ張んなって!もげる!!」
ガーヴとミレナと別れた降助は教室に戻った。
「やあコウスケ。さっきAクラスが魔法科の教室に向かうのが見えたけど大丈夫だったかい?」
「まぁ。決闘を挑まれ続けるのはなんとかなった。」
「おお、それはよかったね。」
「まだ絡まれそうではあるけど…一件落着…かな。」
「そっか。あ、次は座学だよ。計算だって。」
「ふむ、計算か…」(異世界の数学…どんなもんか見てみるか。)
早速授業が始まるが異世界の数学は元の世界ほど進んでおらず、とても簡単なものが続いた。
「―ケ。―スケ。コウスケ!」
「んあっ…な、なんだ…?」
「なんだ、じゃなくて。授業終わったよ?」
「へあっ!?ま、マジで…?」
「驚いたよ。そろそろ授業終わるなって思って隣見たら爆睡してたから…」
「そっか…」(正直中学生レベルのばっかで簡単すぎだなぁ…って思ってたら段々眠くなってたからな…まさか授業が終わるまで爆睡してたとは…)
「とりあえず、もうお昼ご飯の時間だし、食堂にでも行こうよ。」
「そっか、もうそんな時間なのか。じゃ、行くか。」
そうして2人は食堂にやって来る。中は平民部の生徒達で賑わっており、料理ができるのを待っている列がちらほらできている。
「結構広いね。」
「1〜4年の平民部生徒の大半がここで昼食を食べるみたいだからね。確かに、かなり広いよ。」
2人は早速列に並び、降助はパスタとサラダ、カイトはパンとスープ、サラダを選んで席を探す。
「あそこ空いてるし座るか。」
「そうだね。」
6人ほどが座れそうなテーブル席に座り、昼食を食べようとすると見慣れた2人組がやって来る。
「私達も相席していいかな?」
「勿論。」
「げっ…」
「テメェな…顔合わせる度に『げっ…』って言うのやめろよ。地味に傷つくんだぞ…!」
「へぇ〜ガーヴでも傷つく事とかあるんだ。」
「おいそれどういう意味だミレナ?」
「ふふっ。」
「ふふじゃねぇぞ?」
そんなやりとりをしている4人の下へ薄緑色の髪に前髪で右目を隠している不思議な雰囲気の男がやって来る。
「君達…ボクも相席していいかな?丁度いい席が空いてなくてね。」
「はぁ…って他に空いてる席ありますけど…」
「いや、ボクはどうしてもここがいいのさ。このどこまでも広がる青空と暖かく輝く太陽がよく見えるからね。」
「「「「は、はぁ…?」」」」
男の謎発言に4人が同じ反応をしたところで気を取り直して昼食を食べ始める。
「そういえば自己紹介が遅れたね。ボクはナーフ・カリーナ。平民部2年、Aクラスの魔法科さ。」
「あ、先輩なんですね。俺はコウスケ・カライトって言います。平民部1年Cクラスの武術科と魔法科掛け持ちです。」
「僕はカイト・リース。彼と同じ平民部1年Cクラス、武術科です。」
「私はミレナ・ベーラです。平民部1年Aクラス、魔法科です。で、こっちの彼が―」
「自己紹介ぐらいできる。平民部1年Aクラス、武術科と魔法科を掛け持ちしてるガーヴ・ヘッジだ。」
「コウスケにカイト、ミレナにガーヴ…いい名前だね。この出会いに、乾杯。」
「「「「は、はぁ……??」」」」
ぶどうジュースの入ったコップを出すナーフに困惑するが取り敢えず乾杯に応じる4人だった。
「ね、ねぇ…この人なんなの…?」
「知るかよ。オレに聞くな。」
「この人変わってるね。」
「お、おう。そうだな…」
「…?どうしたんだい?料理が冷めてしまうよ。冷めきった料理というのはゴブリンと同じくらい存在意義を失ったものだ。そうなってしまう前に食べないと。」
「あ、はい……」(なんだこの人…さっきからちょくちょくポエマーな感じ出してるし、何言ってるか分かんないし、さりげなくゴブリンを凄いディスってるし…)
謎発言を連発するナーフに困惑したまま4人は昼食を終え、食堂を出て教室に向かっていた。
「…ああっ!」
「なんだよ…いきなり大きな声出すんじゃねぇ!」
「いやごめん…さっきの…ナーフ・カリーナって人…」
「ああ、あのポエマーね。」
「終始何言ってるか分かんなかったぜ。」
「今思い出したんだけど…あの人…貴族だよ。」
「はぁっ!?き、貴族!?でもあの人、平民部って…」
「…詳しい理由は分からないけど、平民部に入ったらしいんだ。去年は貴族部だったみたいだけど…」
「本当に変なヤツなんだな。なんで貴族部に入ったのに2年でわざわざ平民部に入ったのか…ワケ分かんねぇ。」
「ガーヴ、また決闘申し込まないでよ?」
「う…うるせぇな!別にどうでもいいから申し込まねぇよ!」
そんなやり取りをしながら教室の近くまでやって来ると武術科教師のルークがおり、4人に気付くと声をかけてきた。
「ようやく見つけたぞ。」
「ルーク先生?何かあったんですか?」
「伝え忘れていた事があってな。武術科生徒であるお前達を探していた。」
「あ、それなら私は先に行って良いですか?私、魔法科なので…」
「そうだな。魔法科なら今は関係ない。行っていいぞ。」
「ありがとうございます。」
ミレナは一礼するとひと足先に教室に入っていく。
「では早速本題に入るが…平民部武術科が近々校外学習に行く事になっていてな。それを伝えに来た。」
「校外学習…?」(ここにきて急に滅茶苦茶懐かしいワードが出てきたな…)
「うむ。このバラシアン第一学園都市から少し離れたところにウードの街があるのは知っているか?」
(ウードの街…ウードの街…あぁ、あれか。)「はい。ここに来る途中で馬車の乗り換えの為に行ったことがあります。」
「そうか。ではその街の近くにダンジョンがある事は知っているか?」
「いえ、本当に乗り換えの為だけだったのでそこまでは…」
「ふむ。ウードの街の近くのダンジョン…"霧の森"というのだが…そこに行く。詳しい事はこの紙に書いてあるからよく目を通しておけ。」
「分かりました。」
そう言って3人はルークから紙を受け取り、用事を済ませたルークは訓練場へ向かっていった。
「へぇ…実戦訓練でダンジョンに行くんだね。」
「平民部武術科のA〜Eクラス全員が行くんだ。」
「ほーん。試験の時から魔物と戦ってねぇからな。丁度いい機会だぜ。」
「そういえばコウスケは馬車の乗り換えでウードに行ったって言ってたけど…どこからここに来たんだい?」
「ん?それならスタトだけど…」
「ええっ!?す、スタトから来たのかい!?」
「そ、そうだけど…なんか驚く要素あるかな…?」
「スタトっつったらド田舎だぞ!」
「もしかしてだけど…ウインドヒルに行ったりした?」
「うん…確か…去年の夏か…秋に入るくらい…?」
「おい、噂だとそのタイミングでタイフーンが来たって聞いたけどマジなのか?」
「えっ…あっ…ああ、まあ…来たけど……」(ま、まさかストームドラゴン倒したのがバレ―)
「よく無事だったね…!今回の被害は比較的少ない方だったらしいけど…それでもだよ…!」
「ケッ…ますますBクラスなんざ余裕でいけたんじゃねぇのかって思えてくるぜ。」
「た、たまたま…無事だったから…」(あ、危ねー…タイフーンの正体も知らなそうだし…もし俺がドラゴンを倒したって聞けば大騒ぎになるところだったな…)
「あ、次の授業始まりそうだし行こうか。」
「だね。」
「じゃあまたな。」
実はウインドヒルのギルドマスター、ヒラールが降助が学園に入学しようとしていると聞いて根回ししており、余計な騒ぎにならないよう、詳細を伏せていたのだったが、降助は知る由もないのだった。




