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第39話 授業 1

教室から猛ダッシュで寮まで帰ってきた降助は一息ついて部屋に入る。


「ただいま〜」

「おかえり。帰りは大丈夫だったかい?」

「まあソッコーで帰ってきたし大丈夫じゃないかな。」

「しかしコウスケも大変だね。でもこのままじゃ絡まれ続けると思うけど…どうするつもりなんだい?」

「んー…いつか話はしたいと思うけどね…納得するか分からないし…そもそも聞いてもらえるか分かんないし…正直反射的に逃げてる節があるというか…」

「ふーん…ま、早めに解決した方が良いと僕は思うよ。」

「それもそうだね。あーやだやだ…折角面倒事に巻き込まれないように力を隠してるのに絡まれるなんて…」


降助がぽつりと呟きながら頭を掻く。


「ん?何か言ったかい?」

「いや、なんでもない。それよりもちょっと遅いけど昼飯食べようよ。」

「あ、それなら僕が作ってもいいかな?昨日夜ご飯を作ってもらったお礼というか…僕の得意料理をコウスケにも食べてほしいんだ。」

「そういう事なら任せようかな。」

「ありがとう。じゃあ早速作るからちょっと待ってて。」


少しするとカイトが魚料理をテーブルに並べる。


「小麦の粉をまぶした魚の切り身を焼いたものだよ。口に合うといいな。」

「おお…」(つまりはムニエルか。美味しそうだな…)

「「いただきます」」


降助は箸で皮から身を取って少しずつ食べていく。


「どうかな?」

「ん、美味しいね。丁度いい焼き加減だよ。」(昨日はミネストローネだったから使わなかったけど…この世界にも箸があったのは驚いたな…やっぱ絶対日本人の転生者居ただろ……)

「喜んでもらえて嬉しいよ。それにしても…ハシ…だっけ?使うの上手いね。」

「まあ…昔からずっと使ってるから。」

「そっか…僕はどうも上手く使えないんだよね…細々としたものをつまむのが大変だし…」

「確かに豆とか難しいけど。」


そんなやりとりをしつつ少し遅めの昼食を食べ終えた降助は部屋に篭っていた。


「さて…やるか。」


机の上に魔導書とマジックポーチを広げる。


「ポーチは便利だけど嵩張(かさば)るっちゃ嵩張るし、咄嗟に物を出せた方がもっと便利そうだしなー…ってわけでアイテムボックス的な魔法ができないか試行錯誤してるけど…」


結果はイマイチであり、ポーチに付与された収納魔法は解明できたものの望むような形に転用できずにいた。その後も魔導書と睨めっこし、ポーチをいじくり回していたがあっという間に時間は過ぎ、日が沈んで夕食の時間を迎える。


「「―ごちそうさまでした。」」

「ふう……そういえばずっと部屋に篭ってたみたいだけど何してたんだい?」

「んー…まあちょっと。魔法の勉強…的な?」

「魔法の勉強か……部屋を吹き飛ばしたりはしないよね?」

「攻撃魔法じゃないから大丈夫だよ。」

「そっか。それは良かったよ。」

「…何かあったの?」

「昔ね。家の近くに魔法を研究しているお兄さんが居たんだけど部屋を吹き飛ばして大騒ぎになっていたんだよ。」

「へ、へぇ…それは大変だったね……」

「さ、明日もあるし僕はシャワーを浴びて寝るよ。」

「ごゆっくり〜。」


カイトはシャワーを浴びに行き、出てくると入れ替わりで降助もシャワーを浴びて自室に戻る。


「また寝坊しかけたらマズいし、適当なところで切り上げて寝るか…」


降助は再び魔導書と睨めっこしながらポーチをいじくり回す。


「ん……んあぁ…いつの間にか寝てたのか…今何時だ…?」


ふと壁にかけられた時計を見ると時刻は7時を指していた。


「とりあえず、寝坊じゃないな。う…体がバキバキだな…」


軽く体を伸ばして自室を出る。丁度起きていたようでカイトもダイニングで朝食のパンを食べていた。


「やあ、おはようコウスケ。今日はちゃんと起きたみたいだね。」

「まあね。」


あくびをしながら寝癖を手で軽く直し、卵を割って目玉焼きを作る。


「…こんなもんかな。」


焼き上がった目玉焼きをパンに乗せ、塩胡椒をパラパラとかける。


「へぇ…目玉焼きをパンに乗せるんだね。」

「これぞ、朝食オブ朝食。いただきまーす。あむっ…うん、美味しい…」


朝食を食べ終えた2人は制服に着替え、荷物を持って校舎へ向かう。


「今日からいよいよ授業だね。まずは座学でその後が武術科らしいよ。」

「成程……あっ、マズッ…」


降助は何かに気付くと咄嗟に物陰に隠れ、カイトも取り敢えず一緒に隠れる。


「?どうか…ああ、彼か…」

「まさか待ち伏せされてるなんて…!」

「どうするんだい?あの位置だと迂回する方法もなさそうだけど…」

「…仕方ない。偽りの姿を我が身に纏う。《マーカイド》」


降助はマーカイドを唱え、髪色と人相を変える。


「君…そんな魔法使えたのかい?」

「まあね。ほら、効果が切れる前に行くよ。」(まあ1日ずっと使ってもこれくらいなら魔力は尽きないけど…)


変装した降助はカイトと共にガーヴの横を通り過ぎようとする。


「おい、テメェ。」

(ヤベッ…バレたか…!?)

「…何かな?」

「いつも一緒にいるコウスケはどうした。」

(俺の名前覚えられてる…)

「彼は―」

(頼む…上手く誤魔化してくれっ…!)

「調子が悪いみたいでトイレに篭っているんだ。」

「…そうか。」

(ほっ…なんとか誤魔化せたな…)

「じゃあ僕はこれで―」

「待て。そっちの隣にいるやつはなんだ?」

(うっ…マジか…ノータッチでいけると思ったのに…)

「ただのクラスメイトだよ。交友関係は広い方がいいからね。仲良くなる第一歩として一緒に登校してきただけだよ。」

「…あっそ。ならもう用はねぇよ。さっさと行け。」

(ヨッシャアアアッ!!ナイスカイト!!)


2人はそのまま教室に向かい、降助は教室に入る直前でマーカイドを解く。


「ふぅ…助かったよ、カイト。」

「お安い御用だよ。でも、自分で早めに解決するんだよ?」

「…善処する。」


その後はリヒルトがやって来て出欠確認を行い、遂に授業が始まる。


(1時間目は言語か。何やるんだろ…ちょっと楽しみだな。)

「1時間目は言語ですね。1年生の1学期ではこの大陸で広く使われる共通言語、バラシアン語についてやっていきます。」


それから50分ほど授業が行われ、休み時間を迎える。


(結構分かりやすい授業だったな。やっぱ教えるの上手い人って本当に上手いんだな……)

「次は武術だね。聞いたところによると1対1の模擬戦をやるとかなんとか。」

「模擬戦か…」(最近やってなかったからな…何かと戦ったかで言えば数ヶ月前だけど対人は何年やってなかったかな…スタトを出る前にヴニィルとやったくらいだから…ざっくり3年くらい前だ。)


そんな事を考えながら訓練場へ向かう。幸いなことに降助のいるCクラスとガーヴのいるAクラスは時間割が違ったので、鉢合わせる事なく校庭の近くを歩いていく。


「ねぇ…なんかもう校庭走らされてる人いない?」

「初日から忘れるなんて災難だね…あの人達、今にも死にそうな顔してるよ…」

「可哀想に…」


死に物狂いで校庭を走る生徒を尻目に、訓練場に着いた2人は着替えて装備を着け、列に並ぶ。


「全員揃ったようだな。昨日あれほど忠告したというのに、早速忘れ物をした馬鹿どもが現れて嘆かわしい限りだが…ともかく、授業を始める。まずは準備運動からやっていくぞ。」


体を軽くほぐしていき、授業の準備を済ませる。


「今日の授業は1対1の模擬戦をやっていくぞ。ペアを組んで各自取り組め。」

「早速模擬戦やるんだね。」

「まあ、試験でゴブリンがいる山に行ったからね。ある程度戦闘ができる前提だからじゃないかな。」

「…そういう事か。じゃ、早速やろっか。」

「だね。」


2人は剣を構えて向き合う。暫く見つめ合った後、先に攻勢に出たのは降助だった。


「ふっ!」

「はっ!」

「結構…やるな…!」

「コウスケこそ…!」


暫く打ち合いが続き、ふとカイトが攻勢に出る。


「《クイックスラッシュ》!」

「うおっ…!」

「凄いね…!これを捌けるなんて…!」

「そっちが攻めるなら…こっちからも!《飛斬(模擬戦用威力控えめバージョン)》!」

「―っ!?」


不意に放たれた攻撃に対応し切れず、カイトは飛斬をくらって尻もちをつく。


「ごめん、大丈夫?」

「あ…あぁ、うん…大丈夫だよ……」


降助はカイトに手を差し伸べるが、ふと周りがざわついている事に気がつく。


「…?」

「ね、ねぇ…コウスケ…今のは…飛斬なのかい…?」

「ひ、飛斬だと何かあるの…?」(これは…嫌な予感が……)

「飛斬というと縮地と並んで習得が難しいとされる戦闘系スキルだよ。貴族部Aクラスで才能がある人なら習得できるかも…くらいのスキルなんだ。」

「へ、へぇ〜そうなんだ〜!」(や、やらかしたー…!最初に覚えたスキルだしポンポン使ってたから割と一般的なスキルかと思ってたけど…マジかよ…!)


内心焦っている降助の下にルークがやってくる。


「おい。今のはまさか―」

(ヤバい…先生まで来た…!えーっと…言い訳は…)「い、今のは突風ですよ〜!それがタイミングよく合わさってそれっぽく見えただけですきっと!」

「……」

「……」

「……」(いける…か……?)

「…ま、そういう事にしておこう。確かに今日は少し風が強い日だからな。俺は戻るから模擬戦を続けるように。」(常識的に考えて平民部Cクラスの人間が使える筈がない。それに飛斬はあらゆるものを両断する。人がくらえば並大抵の防具では装備ごと真っ二つになるだろう。カイトは無傷のようだったし…本当に突風がタイミングよく吹いただけか。)


ルークは他の生徒達を見に行き、降助とカイトは模擬戦の続きをする事にした。


「君…さっき飛斬って言ってたよね…?」

「いや、言ってない。くしゃみしただけだよ。」

「随分と個性的なくしゃみだね…?」

「そうそう、『ひしゃんっ!』てね!」

「……」

「……」

「体調には気を付けてね。」

「うん、ありがとう。」(なんとか誤魔化せたよね…?そういえば縮地も習得が難しいとか言ってたよな…うっかり使わないように気を付けないと…)


なんとか誤魔化せた(?)降助は模擬戦を続け、その日の武術科の授業は終わるのだった。

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