第4話 初めての夜
「それで…どうするんじゃ?」
「とにかく、もうこんな時間じゃし夕食を食べて明日、発表にするかの?」
「そうですね。熟考する時間はしっかり取らなくては。」
「じゃあワシは夕食を作ってくるから待っておれ。」
「この子は…とりあえず俺の膝じゃな。」
コウは降助をひょいっと抱え、膝の上に座らせる。
「あっずるいですぞ義兄上!」
「早い者勝ちじゃ!」
(ノリが完全に初孫ができたおじいちゃんなんだよな…まあその通りっちゃその通りなんだけけど…)
それから数十分後、トランがジックやハクと共にテーブルに料理を運んでくる。
「見たところ歯もまだ生えきってないようじゃし、流動食にしたんじゃが……食べてくれるといいのう。」
「さ、席について。いただきますよ。」
「今日はムニエルか。久しぶりに食べるのう。」
「良い鮭が手に入ったからの。腕によりをかけたぞい。」
「それでは……」
「「「「「「いただきます」」」」」」
「あ!」(いただきまーす)
「どれ、俺が食べさせてあげようかの。ほれ、あーん」
「あー……」(正直この歳であーんは恥ずかしいけど手も上手く使えそうにないし仕方ないか……あ、これおいしい)
「あっワシも!」
「私もやってみたいです!」
「あ……わしも……」
「儂にも!」
「ワシにもさせとくれ!」
(うわあ凄いグイグイ来るなぁ!)
それから交代で降助に食べさせていき、食後の風呂にはハクが付き添った。風呂から出た後、湯冷めしないよう、ボウが余っていた布で作った簡素な服を着る。
「じゃあ寝るとするかの。」
「この子は誰が見ておくんですか?」
「そうじゃのー…寝かしつけないといけないし夜泣きにも対応せんとならんからのう…」
「わしが……」
「却下じゃ。おぬし夜中に魔法の研究と称してぶつくさ言っておるじゃろ。変な事覚えたらどうするんじゃ。」
「あっ……バレとった……」
「では儂が見ておこう。連れ帰ってきた責任もあるしの。」
「ではそうしましょう。皆さん、おやすみなさい。」
それぞれ自分の部屋に戻っていき、降助もハクに抱えられて部屋に入っていく。
(ここがハクさんの部屋……)
抱えられた状態で見える範囲では様々な植物が紐で吊るされ、棚には瓶詰めにされたものが沢山並んでいた。
「あー……」
「おや、随分と興味があるようじゃの。少し見るかの?」
「あ!」
降助がこくんと頷くとハクは椅子に座り、膝に降助を乗せる。机にはすり鉢や薬研、薬包紙が置かれ、隅には古めの紙に書かれた沢山のメモがまとめられていた。
(見た感じ薬とかを作っているのか……メモの字は……読めないな。会話はあの時の神様がなんとかしてくれたのか分からないけど分かるみたいだし……文字はいずれ学んでいくしかないな。)
「儂は見ての通り、様々な薬草を採ってきては調合したりと薬の研究をしているんじゃ。そういえばおぬしを拾った時もその帰りだったの。そうじゃな…薬を作るところ、少し見るかの?」
「あ。」
再び降助が頷いて返事をするとハクは机の引き出しからいくつかの薬草を取り出し、薬研の中に入れていく。
「そうじゃ、危ないから材料を口に入れたり手を出したりしないようにの。まあおぬしはお利口さんのようじゃから大丈夫そうじゃがの。」
「あ〜…」(すげー…薬研でゴリゴリするところ初めて見た……)
ある程度細かくなったところで別の引き出しからキノコの様なものを取り出し、降助に見せる。
「あう!」(うわっ!)
「ほっほっほ。驚いたかの?こいつはキセイダケといっての。様々な生き物の死骸に寄生するキノコなんじゃ。これは虫に生えとるからムシキセイダケと呼ぶものじゃ。こいつは薬になるんじゃよ。」
「あ……」(前世における冬虫夏草、だな……あーびっくりした……虫は苦手なんだよなぁ……冬虫夏草とか尚更……)
それからハクは薬研やすり鉢で薬を作りながら薬草などの豆知識を降助に語っていく。
「これは一見ただの雑草に見えるが高い利尿作用があっての。これと合わせると―」
「すー……すー……」
「眠ってしまったか。では作業もこの辺にして儂も寝るとするかの。」
ハクは降助を起こさないように抱えてベッドにそっと寝かせる。
「おっといかんいかん。名前を考えないとじゃったな。さて……何にするかのう……」
ハクは椅子に座り直し、筆と新しい紙を取り出すとしばらくの間考え込み、やがて紙に名前を書き出した。