第36話 入学式
シューヴァルト学園に到着した降助はクラスとそのメンバーが書かれた張り紙を確認する。
「えーっと…俺は平民部だから…あれか。平民部1年Cクラス……中間のクラスか。丁度良いな。」
自分のクラスを確認した降助は案内に従って講堂へ入っていく。
(ここで入学式やるのか…しかしだいぶ広い講堂だな…2階もある…ふむ、見た感じ2階は貴族部の席っぽいな。身なりがちょっと豪華だし。)
Cクラスの席で座って待っていると壇上に男がやって来る。短髪ブロンドヘアに顎髭を生やした男はコホン、と咳払いをすると演説を始める。
「えー、まずは諸君、入学おめでとう。君達は晴れて今日から本校の生徒というわけだ。…私はシューヴァルト学園の学園長を務めるシグルドという。気軽にシグルド学園長、とでも呼んでほしい。正直に言うと私は長ったらしい演説は嫌いでね。君達にも早く本校を見て回ってほしいし、君達だって長ったらしい演説は嫌いだろう?だから、簡潔に言おう。ようこそシューヴァルト学園へ!我々は諸君を歓迎する!学園生として通う4年間!存分に高め合い、学んでいってくれ!!以上!!俺は帰って寝る!!」
シグルドはそう言うとスタスタと歩いていき、講堂を後にする。
(さ…最後余計すぎるだろ…!)
と、全員が心の中で総ツッコミした。
「学園長。折角悪くない演説だったのに最後の最後で台無しです。」
「あれっ俺なんか言ったっけ…?」
「俺は帰って寝る、と言っていました。」
「やっべ…あまりにも自然に本音が出たもんだから自分でも気付かなかった…!」
「はぁ…貴方は学園長という立場がありますのでもう少しシャキッとしてください。」
「ど、努力するよ……」
締まらない演説を聞き終えた降助は教室に来ていた。
「席は…特に決まってないのか。じゃあここら辺に座るか。」
「あ、隣いいかい?」
「ん?ああ、良いけど…」
「ありがとう。よいしょ…っと。そうだ、自己紹介をしておこう。僕の名前はカイト・リース。武術科なんだ。よろしくね。」
銀髪ロングに紺色の瞳で穏やかそうな顔の青年、カイトはそう言って笑顔で右手を差し出してきたので降助も右手で握って握手をする。
「俺はコウスケ・カライト。武術科と魔法科の掛け持ちだよ。よろしく。」
「へぇ!掛け持ちなんだね!凄いやコウスケ…ちゃん?」
「…俺は男だよ。あと呼び捨てでいいよ。」
「そうなのかい!?僕てっきり…と、とにかく1年間よろしくね。コウスケ!」
(俺は一体いつになったら女と間違われなくなるのだろうか……)
そんなやりとりも交わしつつ暫く待っていると、教室に教師が入って来る。ボサボサの黒髪に丸い眼鏡をかけた穏やかそうな雰囲気の男だった。
「どうも皆さん、遅くなりました〜!ではまず自己紹介から。僕はリヒルト・ラーグマン。平民部の座学教師をしています。これからよろしくお願いします。それでは名前を呼んでいくので呼ばれたら返事をお願いしますね。まずは―」
リヒルトは順番に生徒の名前を呼んでいき、数分程度で全員の名前を呼び終える。
「今日は入学式だけなのでこれで解散となります。それではまた明日!さようなら〜!」
リヒルトは教室を後にし、解散となったので降助は学生寮に向かおうと廊下を歩いていた。
「コウスケも学生寮かい?」
「まあ、そうだけど…『も』って事はカイトも学生寮?」
「うん、そうだよ。良ければ一緒に行かないかい?」
「うん。良いよ。」
2人で廊下を歩いていると突然後ろから声をかけられる。
「おい。そこのツートン頭。」
「ツっ…俺…?」
「そうだ。テメェだ。」
降助に突然声をかけたのは平民部Aクラスとなった赤髪に赤い瞳の青年、ガーヴ・ヘッジだった。
「えーっと…何の用かな?」
「テメェ…気に食わねぇんだよ。」
「…初っ端からいちゃもんをつけられる覚えはないんですけど…」
「せめて喧嘩腰じゃなくてもうちょっと穏やかにならないかい?」
「あぁ?なんだテメェ。」
「ああ、僕はカイト・リース。コウスケと同じCクラスなんだ。よろしく―」
「別にテメェの事は訊いてねぇよ。」
「さっき『なんだテメェ』って言ってたよね!?」
「とにかくだ。オレはテメェが気に入らねぇ。オレと決闘しろ。」
「いきなり決闘しろって言われても理由が分からないんですけど……」
「理由は単純だ。テメェ、試験の時に手ェ抜いてただろ。」
(やべっ…見抜かれてたのか…!)「…なんの事か分からないんだけど―」
「惚けんなよ。魔法科の試験の時といい、武術科の試験の時といい、テメェは全く本気を出してなかった。上手く隠したつもりだろうがオレの目は誤魔化せねぇんだよ。」
「いやいや…もし仮に俺が手を抜いていたとして、そのメリットは?全力を出せば上のクラスになれるんだから本気でやらない理由はないよね?」
「はっ、そんな事オレが知るわけねぇだろ。そう、そうだよ。そんな事する理由なんざ知らねぇ、分からねぇ。分かんなくてモヤモヤする。それが気に食わねぇ。だから全部スッキリさせる為に決闘すんだよ。」
「……」(な、なんちゅー理論…!でも待てよ…?面倒事に巻き込まれたくないからって理由を説明すれば納得して帰ってくれるか…?)
「あっ!こんなところに居た!何やってるのガーヴ!」
ふと水色のポニーテールと瞳の女子生徒がやって来てガーヴを問い詰め始める。
「なんだよミレナ。お前には関係無いだろ…」
「またそうやって…!あ、どうもウチの馬鹿がすみません!」
「オカンかお前は!つーか誰が馬鹿だ!」
「馬鹿はガーヴしか居ないでしょ!あ、私、Aクラスのミレナ・ベーラって言います。ガーヴとは幼馴染なんです。これからよろしくお願いします!」
「よ、よろしく…」
「よろしく、ミレナさん。僕はカイト・リース。こちらはコウスケ・カライトだよ。」
「カイトさんにコウスケさん。よろしくお願いしますね!…ほら!行くよガーヴ!」
「あっちょっ待てよ!まだアイツとの話が終わってな…いててて!耳引っ張んな!!」
ガーヴはそのままミレナに連行されていき、その場を後にした。
「とりあえず…助かったかな…?」
「なんというか災難だった…ね?」
「まあ…何とかなったし良いか。ほら、学生寮行こう。」
「うん!」
ミレナに引き摺られていくガーヴを見送った2人は気を取り直して学生寮へと向かうのだった。




