第33話 宴
「ん…」
「おっ、起きたか!」
「ジン…?」
「いやードラゴンをぶっ倒したと思ったら急に倒れちまったからびっくりしたぜ!?ホントに大丈夫か?」
「ちょっと気力を使い過ぎただけだから大丈夫。大して怪我はしてないよ。それで、ここは…?」
「ウインドヒルの診療所だ。あの後、お前は担ぎ込まれたんだよ。」
「そっか…ちなみにどれくらい寝てた?」
「ほんの数時間だな。昼間にやりあって今は夜ってとこだ。」
「こういうのって大体3日くらい眠ったままでは…」
「とにかく起きたんならギルドに行こうぜ!」
「え?何で…?」
「いいから!細かい事は気にすんな!ホラ!支度して行くぞ!」
「わ、分かったから腕を引っ張らないで…!」
ジンに促されて支度を済ませた降助は診療所を出る。その道中はお祭り騒ぎで、多くの人達が出店に集い、酒を酌み交わしたり、踊ったりしていた。ジンと共に暫く歩いていると、ギルドに到着する。
「おう!お前ら!!主賓がお目覚めだぜ!!」
「おぉ!起きたんだなボウズ!!」
「ここでも大騒ぎだな……」
大賑わいの酒場に若干困惑する降助の下へレーシアがやって来る。
「無事タイフーンを凌げたお祝いの宴ですよ。しかもコウスケさんがドラゴンを倒してくれましたからね。メインディッシュはドラゴンステーキなんです。滅多に食べられない貴重な料理ですよ?」
「そ、そうなんですね。」
それからギルドの酒場に集まった冒険者達は降助を迎え、盛大な宴を始める。
「今日の功労者はお前だ!そら、飲め飲め!!」
「いや…俺、未成年……」
「ほらよ。オレンジジュースだ。」
「あ、マスターさん。ありがとうございます。」
「おう。…豪華だろ?」
「そうですね。おっきなステーキで凄く美味しそうです。」
「お前さんが魔法でこんがり焼いたおかげでな、俺は切るだけで良かったから楽で助かったぜ。ありがとな。」
「そ、それはよかったです……」
オレンジジュースを片手にテーブルに並べられた料理をつまむ降助のところに1人の男がやって来る。
「君が、コウスケかな?」
「はい、そうですけど…貴方は?」
「俺はヒラールという。ここ、ウインドヒルのギルドマスターをしている者だ。」
白髪混じりの茶髪に口髭を蓄えた中年の男がそう自己紹介をすると、降助の隣にどかっと座る。
「今回は君が居てくれて本当に助かった。被害ゼロでタイフーンを乗り越えられたどころか元凶まで仕留められたのは紛れもなく君のおかげだ。重ねて礼を言う。」
「いえいえ。僕も自分にできることをやったまでです。」
「ははは。そう謙遜するな。これは誇って良いことだ。君の功績はこの町でずっと語り継がれていくだろう。」
「そんな大袈裟な…」
「いや、タイフーンは昔からの悩みの種でな。200年ほど前、この町ができて暫くしてからずっとタイフーンに悩まされてきた我々にとっては本当にそれだけ大きな出来事なのだ。盛大に祝わせてくれ。」
「そ、そうですか…」
「さ、昔話も程々にして宴の続きだ。どんどん飲んで、食ってくれ。さて、俺もドラゴンステーキをいただくとするかな……」
それから宴は町を挙げて夜通し行われた。食事を堪能し、宿屋で熟睡した降助は起きた後、ギルドから呼び出されていたのでギルドに来ていた。
「あ、コウスケさん。2階でギルドマスターがお待ちですよ。あちらの階段からどうぞ。」
「あ、はい。」
レーシアから促されるままに階段を上り、ギルドマスターの部屋の前にやって来た降助はドアをノックして部屋に入っていく。
「おはようコウスケ。よく眠れたかな?」
「はい。それはもうよく眠れました。」
「それは良かった。この町は夜風が気持ちいいからな。窓を開けて寝ると心地良いぞ。治安も悪くないから泥棒の心配も無い。っと…無駄話はここまでにして本題に入ろう。そこに座ってくれ。」
降助はヒラールと向かい合うようにソファに座る。
「まず君の冒険者ランクをストーンからシルバーまで上げた。これは新しいギルドカードだ。受け取ってくれ。」
「えっいきなりシルバーまで上がって良いんですか!?く、クエストは!?」
「タイフーンの元凶、ストームドラゴンを倒したんだ。それがクエストのようなものだ。気持ち的にはプラチナにしてやりたいところだが本当にやったら流石にやりすぎだからな。シルバーにした。」
「は、はぁ……」
「それから報酬金として10万キーカだ。受け取ってくれ。」
「うえぇ!?じゅ、10万キーカも!?」
「当然の報酬だ。受け取ってくれ。」
「1000キーカが100枚も……」
「それから―」
「まだあるんですか!?」
「勿論だ。君にこいつを渡したい。」
そう言ってヒラールは木箱を机の上に置き、蓋を開ける。
「ストームドラゴンの外皮から作った胸当てとアームガードだ。サイズは言ってくれればすぐに調整できるようにしてある。なんなら今装備してみてくれ。」
「わ、分かりました…」
降助は木箱から胸当てとアームガードを取り出し、装備する。
「どうだ?」
「丁度いいです。」
「そうか。見たところ、君はろくに装備を着けていなかったからな。作らせてもらった。冒険者たるもの、装備くらいはしっかりしておけよ?」
「はい…ありがとうございます……」
「一応俺からの話はこれで終わりになるが…君はこれからどうするんだ?冒険者として次の町にでも行くのか?」
「いえ、実はバラシアン第一学園都市に行こうと思ってます。そろそろ16歳ですし、入れるかなと。」
「ふむ。成る程な。バラシアン第一学園都市はここから遠い。馬車でゆっくり行くならそろそろ出発した方が良いかもしれないな。タイフーンも過ぎたし近いうちに馬車が出る。確実に乗れるよう手配しておこう。」
「ありがとうございます!」
「馬車は3日後だ。それまでゆっくりしてくれ。」
「はい!」
それから降助はのんびりと時間を潰し、遂に出発の日を迎える。
「馬車の乗り継ぎと乗り場のある町のオススメの宿はそのメモに書いておいた。それの通りに行けば春が来る少し前くらいには着けるだろう。」
「ありがとうございます。本当に何から何まで…」
「元気でな!ボウズ!」
「もうちょっと大きくなったら一緒に酒でも飲もうや!」
「…気が向いたらで。」
「気が向いたらって…まあ良いけどよ……」
「コウスケさん、お元気で!」
「はい。レーシアさんもお元気で。」
「お兄ちゃーん!!」
「あ、君はあの時の…!」
「ぜぇ…はぁ…お兄ちゃんがこの町を出るって聞いて、それでどうしても、見送りに行きたくって…!」
「ありがとう。嬉しいよ。」
「バイバイ!お兄ちゃん!元気でね!」
「うん。君も元気で。お母さんにもよろしくね。」
「うん!」
そして降助はウインドヒルで知り合った人々に見送られながら、馬車に乗って町を出るのだった。
第2章 新米冒険者編 -完-
これにて第2章も終わりとなります。だいぶ短い気もしますが、まあこんなものでしょう…。すっ飛ばした2年間に何があったかはもしかしたら閑話で書くかもしれませんが多分書かない可能性の方が高いです…。それでは第3章でもよろしくお願いします。




