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第32話 嵐の龍

「な…なんだあれは…!」

「あれが…タイフーンだってのか…!?」

「は…はは……あんなの…どうしろってんだよ…」

「こ…こんなの聞いてねぇぞ…!」


巨大な黒い竜巻達は雷を伴い、徐々にウインドヒルに近づいてくる。まさに厄災を体現した竜巻を目の当たりにした冒険者と衛兵達は戦意喪失し始めており、指示を飛ばしていた衛兵でさえ、後ずさっていた。


(これは…実力隠しだのなんだの言ってる場合じゃないな。ここでやらなきゃ皆が危ない……!)


腰を抜かす者、震える者、ただ立ち尽くす者、挙げ句の果てには武器を放り投げて町の中へ逃げ出す者もいる中、降助はただ1人、竜巻の方へと歩いていく。


「おいボウズ、何する気だ!?」

「死ぬつもりかよ!?待てって!」

「皆さんは町の中に避難してください。ここは…俺がやります。」

「そんな無茶な…!」

「《バリア》」


降助の展開したバリアはジン、ザック、その他冒険者や衛兵達を町の中へ押し込んでいく。


「《看破》」


竜巻に向かって看破を使用した降助の額から冷や汗が垂れてくる。


「やっぱりな…タイフーンの正体は魔物…しかもドラゴンだ…!」


降助の脳内に送り込まれた看破の情報。そこにはストームドラゴンという名前と、風属性の強力な魔法の数々が記されていた。


「ま…やれるだけやってみるか……《索敵》」


降助は荒れ狂う竜巻のどの部分にストームドラゴンが潜んでいるかを探し始める。


「……そこか…!《バリア》!《フライト》!」


自身をバリアで包み、フライトで思い切り飛ばして5本の竜巻うち、真ん中の一本のへと向かう。そしてあっという間に竜巻に突撃し、ストームドラゴンと対峙する。


「ゴアアァァ!!」

「うおっ…凄い嵐だ…!バリアとフライトの調整をしくるとあっという間に吹き飛ばされそうだな…!」(バリアもフライトも使用中はジリジリと魔力を消費していく…短期決戦を目指した方が良さそうだ…!)


ポーチから両手斧を取り出した降助は、数年前のヴニィルとのやり取りを思い出す。


- - - - - - - - - -


「何ぃ?ドラゴンの弱点だと?」

「うん。なんかないの?」

「ふん。たわけが。ドラゴンはそんじゃそこらのやつらとは遥かに上位の存在。故に弱点など殆どありはしない。」

「えぇ……」

「まぁ…強いて言えば…飛竜の類は翼を落としてしまえば地を這いずることしかできなくなる。少なくとも、上空から一方的に攻撃されるような事はあるまい。」

「成程…」

「ま、ドラゴンの翼を落とすなど、余程の武器とスキルがなければ不可能だがな!ハハハハハ!!」


- - - - - - - - - -


「まずは近づかないとだな…!」

「ゴアアアアア!!」


降助を視認するや否や小さな竜巻や暴風を巻き起こして攻撃を仕掛けてくるが、多少乱されつつも攻撃をくらう事なく、順調に距離を詰めていく。


「まずは…1個…いただき!!《グラウンドカッター》!!」

「ギアアアアア!!」


激しく火花を撒き散らしながら斧はストームドラゴンの翼の付け根に食い込んでいき、遂に右の翼を落とす事に成功した。


「よし…これで後は左だけ……っ!斧にヒビが…!」


大した効果も持たない斧でスキルを使って無理矢理ドラゴンの翼を切り落とすという無茶に耐えられなかったのか、斧に亀裂が入り始める。


「ゴアアアァァァ!!」

「うおっ!?」


翼を1つ落とされ、不安定になったせいで攻撃の軌道が乱れ、暴風が滅茶苦茶に吹き荒れ始める。そして徐々に降助も流されつつあった。


「方向は滅茶苦茶になったけど威力自体は落ちた…!このまま攻める!」


なんとか体勢を立て直し、両手斧を構えて左の翼に近づく。


「もういっちょ…!《グラウンドカッター》!!」


オーラを纏った斧が翼の付け根に当たった瞬間、更に亀裂が入っていき、斧が粉々に砕け散ってしまう。


「しまっ…!」

「ゴアァァ!!」

「ぐっ…!《ストーンボール》ッ…!」

「ゴアァッ!?」


小さな竜巻に巻き込まれ、吹き飛ばされる寸前でストーンボールを放ち、ストームドラゴンの翼に穴を開ける。竜巻に巻き込まれた降助はバランスを崩して地面へ落ちていき、片方の翼を失い、残された翼にも穴を開けられたストームドラゴンも徐々に地面へ落ちていく。その影響か鳴り響いていた雷鳴は止み、竜巻も消えていく。


「いってて…ふぅ…バリアは展開し続けてたおかげで死にはしなかったけど…ちょっと尻打ったな…あーいたた…」

「ゴ…ゴアァ……」

「っと…まだ決着がついてなかったな…!」


尻をさすりながら立ち上がった降助は片手剣を抜き、構える。一方でストームドラゴンは降助を睨み、攻撃の機会を窺っている。


「…」

「…ゴアァー!!」

「ぐっ…!」


ストームドラゴンは小さな竜巻を発生させ、目眩しをしながら降助を喰らおうと口を広げて襲いかかるが、降助は剣をしまい、即座にポーチから槍を取り出してつっかえ棒にして防ぐ。


「ガ…ガガッ……」

「すぅー…はぁー…輝く火の玉は触れるものを焦がす……《ファイアボール》!!」


詠唱ありで発動されたファイアボールはストームドラゴンの体内に撃ち込まれ、内部を焼き尽くした。


「ゴアアアァァァ!!」


体内を焼き尽くされたストームドラゴンは口から煙を吐きながら息絶えた。


「はぁ…はぁ…はぁ…!か…勝った……!俺が…!勝った…!!」


その様子を町から見守っていた冒険者達からは喝采が起こり、衛兵達も歓喜の声が上がる。


「すげえ…!すげぇぞ…!や、やりやがったぞあのボウズ!!」

「あっ!倒れたぞ!」

「衛兵はあのドラゴンの死体を回収しろ!医療班はあの少年を運べ!」


魔法やスキルを連発した降助はストームドラゴンの傍で横たわっていた。


(思ったより…気力を使ったな……凄く眠い……意識も…遠のいて―)


限界を迎えた降助は意識を手放し、暫く眠りについた。

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