第31話 不穏な空気
降助がウインドヒルで冒険者を始めてはや2年。降助は依頼をこなし、日銭を稼ぎながら暮らしていた。
「お金も結構貯まってきたな…さーて今日は何しよっかなー…」
そんな事を考えつつギルドに向かうが何やらギルドが騒がしくなっていた。
「なんだこの騒ぎ…」
「おう、ボウズか。」
「良いとこに来たな。」
「ジンとザックか…何かあった?」
降助は人だかりの1番後ろに居たいつもの2人組に質問する。ちなみに酒に酔うとめんどくさいのがジンでシューヴァルト学園に妙に詳しい方がザックである。
「詳しい話はこれから受付のレーシアさんがしてくれるってよ。」
「おっ、来たぞ。」
ザックが指差した先、受付の真上である吹き抜け、2階部分にレーシアがやってくる。それと同時に、ギルドに集まった冒険者達のざわめきが小さくなる。
「この度はお集まりいただきありがとうございます。先ほど、予兆を観測いたしました。推測ではおよそ3日後にこの町に到達するとされています。そこで来たる厄災に備え、冒険者の皆様方に協力していただきたいのです。」
「厄災…?」
「…ボウズはこの町がどうしてウインドヒルって呼ばれるか知ってるか?」
「いや…何か理由が?」
「この町にはな…"タイフーン"が来るんだ。」
「タイフーン…?」
「ああ。一定周期で突然現れてはこの辺りを滅茶苦茶にしていく。風どころか嵐じゃねぇかって言いたいところだが…ま、嵐の丘よりは風の丘の方が穏やかそうで良いだろ?」
「はぁ…まぁ…そうだね……それで、そのタイフーンっていうのは?ただの自然災害か、魔物か何かのあだ名?」
「それは…分かってねぇんだ。ただ単に嵐が全部滅茶苦茶にしたって事しか分かってないんだよ。」
「…じゃあなんでギルドはこんなに冒険者を?」
「まあ厄介な事にな…ただ嵐が来るだけじゃなくて魔物も引き寄せるんだ。そいつの対処は冒険者の出番ってワケだ。」
「成程…」
「さ、演説も終わったようだし解散だ解散。とっととタイフーン対策の準備するぞ。」
「……」
「なんだぁ?タイフーンが怖いのか?ま、気にすんな!タイフーンは滅多に来ないからな!俺らも初めてだ!」
「いや、怖いわけじゃなくて。何か…不穏な気配が近いような気がするだけ。」
「ほーん…?ま、勘は侮れないからな!お互い気をつけようや。」
「お前それレーシアさんの受け売りだろ?分かるからな?」
「うるせぇなあ!」
「…」(こんな時でも意外とこの人達って変わんないんだな…)
それからあっという間に時間が過ぎ、その日がやってくる。町を囲う壁の外では多くの冒険者と衛兵が待機していた。そして遂に、タイフーンの前の魔物の群れがやってくる。
「魔物が来たぞー!!総員戦闘態勢ー!!」
「来た…!」
まずやって来たのはゴブリンの軍団だった。大量のゴブリンリーダーが更に大量のゴブリンを引き連れ、徐々に町に迫ってくる。
「遠距離部隊!攻撃開始!!てーッ!!」
合図と共に矢と初級魔法がゴブリンの軍団目掛けて飛んでいく。矢と魔法は次々とゴブリンを葬っていき、1回での殲滅に成功する。
「遠距離部隊!矢及び魔力を補給しろ!第2陣がいつ来るか分からんぞ!急げ!!」
そう言ったそばから今度はゴブリンの軍団に混じり、オークの軍団も現れ、町を目指して進軍してくる。
「クソッ…もう次が来たか…!遠距離部隊!補給が完了した者から撃て!近距離部隊も武器を構えろ!いつでも戦闘できるように備えるんだ!!」
まだ序盤だからか補給はすぐに完了し、次々と攻撃が放たれる。ゴブリンの軍団は次々と倒れていくがオークの軍団はまだ残党がちらほらと見られる。
「くっ…やはりオークは討ち漏らしが出るか…再び補給し、完了した者から即時撃て!魔物を町に近づけるな!!」
その後も攻撃は続けられ、第2陣の殲滅も完了する。
「タイフーンって聞いて正直不安だったが…これくらいなら余裕そうだな。」
「そうだな。案外タイフーンは楽に乗り切れそうだな。」
(おいおいジンさんにザックさんや…そうフラグを立てるんじゃないよ…)
その後もゴブリンやオークの襲撃が続くが遠距離攻撃のみで殲滅していく。
「やっぱりタイフーンって大したことなさそうだな!」
「襲撃のペースも落ちてきてるし大丈夫そうだな!」
「そうだな。この調子なら被害は殆ど出ずに済むだろう。これが嵐の前の静けさでないと良いのだが。」
(だからー!!フラグを気安く立てるなって!!)
次々とフラグを立て、慢心する者が現れ始めるが降助の心配は杞憂だったのか、魔物が襲撃してくるペースはどんどん落ちていき、遂にパッタリと止む。
「もう襲撃はないな。遠距離部隊も限界が近いだろう。下がらせて休憩させるよう指示を出せ。」
「はっ!」
衛兵達も休息に入る中、降助は異様な雰囲気を察知する。
「……来る…」
「おっ遂にタイフーンが来るのか?」
「うん…」
「まぁでもこの調子なら大した事ないんじゃね?」
「いや…アレは確実にヤバいやつだ……!」
降助が見据える先には数本の巨大な黒い竜巻が迫ってきていた。
1章に対して随分短いような気もしますがおそらくそろそろ2章が終わります。




