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第26話 初の依頼

降助はウインドヒルから離れた場所にある森へ来ていた。この森は人通りもあり、旅人や商人の馬車などが通るため、ある程度整備されていたが、近頃魔物が見かけられるようになったため、討伐依頼が出されていた。


「人が通る道ばっかり探しても仕方ないし、ちょっと逸れたところを探すか。」


暫く森を歩き回っていると少し開けたところに洞穴で焚き火を囲ってたむろするゴブリン達を見つける。


「おっいたいた」(確か…ゴブリンの鼻を取らないといけないから…魔法で丸ごと吹き飛ばすのはまずないとして…)


どう攻めるか考えている降助の背後からゴブリンが音もなくゆっくりと近づき、棍棒を振り下ろしてくるが降助は上半身を少し右に傾けて躱すとそのまま回し蹴りをくらわせる。


「ギッ!?」

「残念でした。隙があるように見えて、こっちは全方位警戒中なんだよね。」


襲いかかってきたゴブリンを返り討ちにしたは良いものの、蹴られたゴブリンの悲鳴で焚き火を囲っていたゴブリン達が降助に気付き、武器を構え始める。


「うえぇ…?意外と物音に敏感なんだ…気付かれるんだ今の……」


ざっと数えただけでも10匹ほどのゴブリンが武器を構えて徐々に近づいてくる。


「しょうがない…さっさとやるか。《スピードステップ》」


一気に茂みから飛び出した降助に呆気に取られている間に5匹のゴブリンの首が飛ぶが残されたゴブリン達はニタニタと笑って降助を囲む。


「もっとこう…仲間意識とか…ないのかな…?」


続いて3匹ほど降助に突撃していくが一瞬で5匹のゴブリンの首を刎ねた降助に敵うわけもなく、あっという間に斬り殺される。あっという間に壊滅に追い込まれた2匹のゴブリンは武器も捨てて逃げ出すがそれを察知した降助に即座に1匹斬り殺される。


「これを使ってみるか…《縮地》」


素早く"移動する"事を目的としたスピードステップとは違い、縮地は素早く"短い距離を詰める"事を目的としたスキルである。そして縮地で一瞬で距離を詰めた降助は残ったゴブリンを斬り殺すがゴブリンはその死に際にニタリと笑っていた。


「…《シールド》」


右斜め後方から放たれた矢はかつん、と音を立ててシールドに当たり、地面に落ちる。


「《ストーンボール》」

「ギャッ」


ドスン、という音と共に木の上からゴブリンが落ちる。


「成程ね…俺は誘い込まれてたわけだ。ま、効かなかったけど。さて…鼻を削ぎ取って…うえー…なんかばっちい……」


最初に不意打ちしてきたゴブリンと木の上にいたゴブリンを含めて計12匹のゴブリンの鼻を回収する。


「普通こういうのって耳では…?まあいいや…早くギルドに戻ろ…」

「きゃあああっ!!」

「なんだ!?」


女性の悲鳴が聞こえてきた方向にだいたいのアタリをつけると降助はスピードステップを使ってその場を後にした。


「お…お嬢様…お逃げ…ください…!」

「あ…あ……」

「うぐ…」(人通りもある森だからと油断したのが失敗だった…まさかゴブリンリーダーが居たとは……普段ならばなんて事は無かったが不意打ちを頭にくらった…!頭が回らん……!)


ゴブリンリーダーはニタニタと笑いながら黒髪の少女に近づいていく。


「やめろ…!お嬢様に…触れる…な…!」

「嫌…!来ないで…!」


怯える少女の腕に手を伸ばすゴブリンリーダーだが少女の腕が掴まれる事はなく、代わりにゴブリンリーダーの左腕が空を舞う。


「ギ…?ギ、ギアアアアア!!」

「間に合った…かな?」

「あ…あなたは…?」

「下がってて。《クイックスラッシュ》!」


左腕を斬り落とされ、悶えるゴブリンリーダーにそのままクイックスラッシュを叩き込み、あっという間に倒してしまう。


(な…なんという早技…!見た目にそぐわずかなりの腕を持っている……!こ、この少女は一体……?)

「あっちの人怪我してるな…知り合い?」

「あ、はい、護衛です…」

「ふむ…傷は頭だけっぽいな。幸い、命に別条はなさそうだね。ヒ…コホン、傷ついた者にささやかな癒しを。《ヒール》」(危ない危ない…詠唱省略するとこだった…あまり騒ぎになるのもアレだし人前で詠唱省略したりスキルをポンポン使うのは控えなきゃ…)

「す…凄いな君は…魔法剣士なのか…」

「はい。今日冒険者ギルドに登録したての新米ですが。」

「ぎ…ギルドに登録したてなのか!?それにしては熟練者並の鮮やかさだったが…そうか…君は相当に鍛錬を重ねたのだな…」

「まあ…はい。小さい頃から色々と…」

「何はともあれ、助けていただいて感謝する。…お嬢様、申し訳ございません。護衛を任せられた身でありながら油断し、お嬢様を危険な目に合わせてしまった。私はいかなる処罰をも受ける所存です。」

「かっ…顔を上げてください!それに処罰だなんて…!私はこうして助かったんですから気にしないでください!」

「…!寛大な処置、ありがとうございます…!」

「…あ、そうだ、あなたのお名前をお聞きしても…?お礼もしたいですし……」

(…俺とあんまり歳変わらなさそうなのに随分しっかりしてる子だなぁ…お嬢様って呼ばれてたし、結構良い身分の人そうだな。)「特に名乗るほどの者では…それにお礼なんて大丈夫ですよ。」

「そういうわけには…せめてお名前だけでも…!」

(確かここはルリブス王国ってとこの領地でどっかの町がトランさんの故郷なんだよな…じゃあ…)「ヴィア・カルゴ。それが俺の名前です。」

「ヴィアさん…覚えておきます!」

「ヴィア殿…重ねて感謝を。お嬢様を魔物から助けていただいただけでなく、私の治療まで…君のような少女にここまでやらせるとは護衛の名折れだな……」

「えっ…いや、えっと…俺…男です……っていうかさっき『俺』って言ってましたし口調とか……」

「そうだったのか…!?いや、すまん…そういった口調の女性も最近は居ると聞くからつい…」

「い、いや、気にしないでください。たまに間違われるので慣れてます…」

「あ…すっかり名乗るのを忘れていました…!(わたくし)の名前はクレイ・フィルソニアと申します。」

「クレイ・フィルソニア…さん。」

「さん付けは不要ですよ。貴方は命の恩人ですから。それに見たところ同い年のようですし。そう堅苦しくならなくて良いですよ。」

「じゃあ……クレイ…?」

「はい!それで構いませんよ!」

「では俺はこれで。依頼達成の報告をギルドにしないとなので。」

「はい。お気をつけて!」

「そっちも帰り道は気をつけて。それじゃ。」


そう言って降助は去っていく。そしてクレイ達の帰り道。


「あの少女…いや、少年でしたか。かなりの腕前でしたね。」

「とっても強かったですね。ゴブリンリーダーをああも一瞬かつ鮮やかに…」

「いつか護衛として声をかけてみるのも良いかもしれませんね…」

「…なんか初めて会った気がしないなぁ…」

「お嬢様?」

「い、いや!なんでもありません!さあ、早く帰りましょう!」

「はい。今度は油断はしません。最後までお守りいたします。」


そした2人は無事に森を抜け、帰っていったのだった。

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