第25話 新米冒険者とお約束
ギルドに入ると綺麗な内装が広がっており、入り口から受付まではカーペットが敷かれ、柱の側には観葉植物まで置かれていた。受付の側には依頼が書かれた紙らしきものが綺麗にボードに貼られており、ベンチもいくつか置かれていた。更に酒場も併設しているらしく、ちょっとの段差と柵で仕切られた先では昼間から飲んでいる冒険者らしき人もちらほら見られた。
「ほへぇ〜…なんか郵便局みたい……」
ギルドに来て開口一番の感想がこれである。そんな降助は周りをキョロキョロと見回した後、受付へ向かう。
「こんにちは。ギルドへのご依頼でしょうか?」
「えーっと、冒険者ってここでなれますか?」
「ああ、冒険者登録ですね。できますよ。少々お待ちください。」
優しそうな雰囲気の受付の女性は屈むとカウンターの下から紙とペンを取り出し、降助の前に差し出す。
「こちらの用紙に必要事項を書いてください。それから登録手数料として100キーカをいただきます。」
「じゃあ先に100キーカ渡しておきます。」
懐から100キーカを取り出し、受付に渡すと用紙の記入に取り掛かる。
(えーっと…名前、年齢、性別、種族、職業ね…年齢は13歳、性別は男…種族は人間…名前と職業…どうしようか…あ、魔法剣士で良いか。となると後は名前だな…師匠達に貰った名前にするか…本名にしとくか…うーん…)
少し悩んだ末、本名を書く事にした。
「書き終わりました」
「お預かりします。ただいま手続きを行うのでその間にこちらを読んでお待ちください。」
降助はパンフレットのように折り畳まれた紙を受け取り、ベンチに座って読む事にする。
「えーっと…『新米冒険者ガイド これで君も冒険マスター』……おう。文字がビッシリだ…」
ガイドというだけあって様々な説明が書かれていた。まずは冒険者のランクについてで下からウッド、ストーン、アイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナの7つがあり、依頼を達成すると得られるポイントが一定に達し、特別なクエストをクリアするとランクが上がる事や、受けられる依頼がランクによって変わってくる事が書かれていた。次に冒険者の規則について書かれており、いくつか例を挙げると依頼に失敗すると原則罰金などは発生しないがポイントが下がり、ランクが下がる場合もあったり、ギルド側のミスが認められない限りはあらゆる不測の事態は冒険者本人の責任になる事、ギルド敷地外の冒険者同士の私闘にギルドは関与しない事など様々な規則が書かれていた。そして中々に量が多いので降助は読み終える前に受付に呼ばれる。
「もうガイドはお読みになりましたか?」
「いやーまだ全部は……」
「そうですよね…この時間中に読み切るのはなかなか難しいくらいギッチリ書かれてますし…でも、これのおかげで受付が新米冒険者に色々説明するという業務がなくなって負担は減ったんですけどね。」
「これ、貰っていっても良いですよね?」
「はい、勿論です。ご自由にお持ちいただいてかまいませんよ。よく読んでおいてくださいね。読んでなかった、なんて言われてもギルドとしてはどうにもできないので。」
「はい…」
「あ、それでこちらがギルドカードになります。なるべく無くさないようにお願いします。もし紛失したりした場合は150キーカで再発行できますよ。」
「ありがとうございます。早速依頼を受けても良いですか?」
「是非どうぞ!オススメはやはり薬草採取のクエストですね。討伐依頼なら…今はスライムとかもあったかと。」
「成る程…」(おお…薬草採取にスライム討伐…異世界のお約束依頼だな…確か依頼は自分のランクの1つ上のものまで受けられてプラチナだけ同じランクじゃないと駄目だった筈…となると…ストーンまでいっちゃおうかな?やりごたえがありそうなのは…これにするか。)
降助はストーンランクのゴブリン討伐依頼の紙をボードから外して受付に持って行こうとする…と突如後ろから誰かに話しかけられる。
「おいおい嬢ちゃん、ロクな装備も持たずにゴブリン討伐とは随分冒険者舐めてんな〜?」
「背伸びも程々にしとけよ〜」
(う…酒臭……昼間から飲んでる…っていうか俺女じゃないし……変な奴らに絡まれるのは異世界じゃなくて俺のお約束なのかな……?)「ほっといてください…」
「俺は親切で言ってるんだぜェ〜?ガキンチョの、しかも女がゴブリンの群れに1人で行ってみろ〜?ソッコーでやられちまうぜ?」
「やられちゃったらどーなるんだろうなー?」
「「ギャハハハハ!」」
「うわあ…」
「そんなやつらにやられちまうよりよぉ、俺らとイイコトした方がよっぽど良いんじゃねぇか……?」
「うわ、お前そんなシュミあったのかよ?」
「ああー?別になんだっていいだろ!」
(こういう手合いは無視しとくのが1番だな。さっさと行こ…)「すみません、この依頼お願いします」
「はい。依頼書、確認しました。お気を付けて!」
依頼を受けると降助は足早にギルドの出口へ向かう。
「ま、無事に帰ってきたら慰めてやるからよ!せいぜい頑張りな!」
「オラ!もっと酒飲むぞ〜!」
「「アッハハハハハ!!」」
(ウザ……っていうかいつまで俺を女と勘違いしてるんだろ…まあ特に訂正もしてなかったけど……)
酔っ払っているからか、素でこれかはさておき、ダル絡みを繰り返して騒いでいる2人組の男を無視して降助はギルドを後にした。




