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第24話 旅立ち

ハクの死から4年が経ち、降助は13歳を迎えていた。そんな降助はスタトから近くの他の町へ向かう馬車を待っていた。


「まだ馬車は来ないからここで待ってなくても良いんですよ?」

「っていっていつの間にか馬車が来てて行っちまって見送りできなかったら困るだろ?」

「そうですよ!ミコト君のお見送りは絶対したいので!」

「ふん。我はどうでも良いのだがな。仕方なくだ仕方なく。」

「お、おう……」


アリウスとリアに平然と混じっている鼠色の髪に黄金色(こがねいろ)の瞳を持つ長身の謎の男。彼と降助の出会いは遡ること3年ほど前。


-3年前-


「たまには山道を歩いて帰るのもいいか。」


そう言いながら館へ向かっていると突如、巨大な灰色のドラゴンが現れる。


「賢者共の気配が消えたと思えば…小童(こわっぱ)がチョロチョロしておるとはな……」

「え…何…え…??」


頭の中が疑問符で埋め尽くされる降助にドラゴンは徐々に近づいてくる。


「武賢の2人に懲らしめられ、山の洞窟でひっそりと隠居を始めてはや数十年……我のようなドラゴンにとっては一瞬だがそれでも…!退屈な日々だった……ウォーミングアップが人間の子供など話にならないが…今の我がどれほど動けるか試すのも良かろう。」

「えーっと…まさか俺…これから襲われる、と……?」

「そういう事だ。恨むのならば1人でこんなところをうろついていた自分を恨むのだな!!」

「な…」

「ぬ?」

「なにそれ!!それただの八つ当たりじゃん!!やってる事通り魔じゃん!!子供襲うとか何考えてんの!?」

「ふふふ……ははははは!!威勢だけは良い小童だな!特に殺すつもりは無いから半殺し程度にしてやろうと思っていたが特別にボコボコにするぐらいで止めてやろう!」

「子供相手に半殺しとか大人気ない……っていうか半殺しとボコボコって大して変わんなくない?」


そして結果が…


「すんませんでした!!もう2度と人間に喧嘩は売りません!!」

「はあ…この辺通るのが俺だけだから良かったけど、今後人間を襲おうとするのやめなよ。」

「はい…以後気をつけます……」


人間の子供相手にドラゴンが土下座(?)している奇妙な構図が生まれていた。そしてドラゴンはヴニィルと名乗り、紆余曲折あって降助の鍛錬相手としてよく戦っていた。


-現在-


「っていうかヴニィルって人間になれたんだ。」

「当たり前だ。我はそこらの魔物とは格が遥かに違う。人間に化けるなど造作もないわ。」


などとひそひそ話していると馬車がやってくる。


「あ、来ましたね。じゃあ…今までお世話になりました!」

「荷物はそんだけで大丈夫なのか?」

「ジックさんから貰ったマジックポーチに色々入ってるんで大丈夫です!」

「マジックポーチか、なら大丈夫そうだな。」

「ミコト君、元気でね!」

「リアさんも、アリウスさんもお元気で!」

「我には何かないのか?」

「じゃあねまた会う日まで。」

「おい貴様…何か適当ではないか?」

「冗談だよ。今までありがとう。色々助かった!」

「う、うむ……こう…面と向かって感謝されると…こそばゆいな……」

「じゃあ、またいつか会う時があれば!」

「おう!いつでも待ってるからな!」

「またウチのトースト食べに来てくださいねー!!」

「帰ってくれば我もまた鍛錬相手になってやるぞ!」


3人に見送られながら降助はスタトを後にする。それから馬車に揺られること数分。突如馬車が止まる。


(まだ町には着いてないよね……?)「何かありましたか?」

「と、盗賊が……!」

(出発早々盗賊に襲われるとか…出だし悪いなぁ……)


幌から外を覗いてみると馬車の行く手を1人の男が塞いでいる。男は後ろでまとめられた茶髪に胡散臭そうな目つきで、若干、気持ち程度の贅肉がついていた。


「俺の名はケット!"主に悪人、時折通りすがりの旅人"をモットーに活動する盗賊…いや、あんなゲスい連中とは違う…言うなれば…アウトローだ!!」


盗賊もアウトローもあんまり変わらないのでは?とは言わずに飲み込んだ降助だった。


「えーっと…主に悪人ならなんで馬車を襲うんですか……?」

「そりゃあ勿論金が無いからだよ。悪人から奪うのが1番気持ちいいけどいないんだからしょうがないじゃん。」

「悪人と会うまで粘らないんですか…?」

「3日も粘って会わなかったからこうしてるんだよ」

「あぁ…」

「さ!とにかく金目の物を出しな!!痛い目を見たくなかったらな!!」

「御者さん、追い払いますか?」

「で、できるならお願いしたいですけど…」

「じゃあさっさと追い払いますか」

「む、無理はしないでくださいよ!!」


降助は荷台を降りてケットの前に立つ。


「おっボウズが出てきたか…なんだ?痛い目に遭いたいのか?ならお望み通りに―ぴぎゃっ!?」


突然ケットの左頬が赤く腫れる。


「こ、この俺にビンタとはなかなかいい度胸してるじゃねぇか……覚悟はできて…ぴぎゃっ!ぷげっ!あべっ!!ぶべっ!!」


降助は淡々とケットを往復ビンタしていく。


「も、もうやめてくらはい…ほ、ほっへがリスみたひになっひゃいひゃす……」

「もう既にリスなんだよなぁ…」

「く、くっひょ〜…おほえてろよ!」


ケットは懐から玉を取り出すと地面に叩きつけ、煙を発生させる。


「うわっ…!」


煙が晴れて周りが見えるようになった時には既にケットの姿はなかった。


「に、逃げられた……」

「いや〜助かりました!ありがとうございます!」

「いえいえ、お気になさらず。」


ちょっとしたアクシデントもありつつ降助は無事に近くの町、ウインドヒルに到着する。


「ここが大きな丘の上に造られた町ウインドヒルか……スタトよりも若干広いのかな…?」


スタト以外で訪れる初めての町に内心ワクワクの降助は露店で串焼きを買い、食べ歩きながら冒険者ギルドの前までやってくる。


「ここが冒険者ギルド、か……」


串に刺さっていた最後の肉を平らげると両開きの扉を開けて中に入っていく。

遂に第2章が始まりました。多分、きっと、おそらくですが第2章は第1章よりずっと短いかもしれません。でも行き当たりばったりというかその場の思いつきで書けたら書いてるみたいな節がなくもないので怪しいです。そんな第2章ですが楽しんでいただけたら嬉しいです。

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