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第23話 ひとりぼっち

早くも3年が経ち、降助は9歳を迎えていた。


「ミコトも随分と大きくなったのう。」

「なんやかんやで9歳です。」

「まさかここまで生きていられるとはのう……儂自身、とても驚いておる。」

「どうせなら10歳の誕生日も一緒に迎えましょうよ。」

「そうじゃな…そうだといいのう…」

「それじゃあ僕は買い物に行ってきます。」

「うむ。気をつけての。」

「《フライト》」


降助は玄関のドアを開けて外に出ると魔法を使って浮かんでいく。


「随分とまあ…便利な魔法を覚えたものじゃのう……」


フライトは複数の発動方法がある飛行魔法で、風を噴射して飛ぶタイプや重力を操作して飛ぶタイプ、重さを減らして飛ぶタイプなどがあり、降助は風を噴射して飛ぶタイプを使っていた。


「良い眺めだなぁ〜…っと。この辺で降りとくか。」


山の麓辺りで地上に降り、歩いて町に入っていく。


「えーっと…買うものは…あそこの市場の野菜と…雑貨屋の薬草か。」


露店で並べられた野菜を吟味しながらメモに書かれた野菜を買っていき、雑貨屋へ向かう。


「こんにちはー」

「はーいいらっしゃい…おぉボウズ!!久し振りだなぁ!元気してたか?」

「はい。色々ありましたが元気にやってます!」(そういえばアリウスさんともあんまり会ってなかったな……といってもリアさんよりは会ってるよな…凄いたまにだったけど…)

「んで、今日は何の用だ?ウチは雑貨屋だからな。だいたいのモンは揃うぜ。」

「今日はこのメモに書いてある物を買いに来たんです。」

「んー、どれどれ?」


降助に渡されたメモを確認したアリウスは店内から薬草をいくつか集め、降助に渡す。


「コイツでいいか?」

「はい、ありがとうございます。えーっと…350キーカでしたっけ?」


キーカとはこの世界で流通している通貨であり、1キーカ、10キーカ、100キーカ、500キーカが硬貨で1000キーカは金を薄く伸ばしたカードのような貨幣である。


「いや、今回は久々に顔出してくれた礼だ。まけて200キーカでいいぜ。」

「いやいや、せめて300キーカは……」

「いいんだよ!店主の俺がこう言ってんだから大丈夫だって!ホラ、この100キーカは返すからよ!」

(しょうがないか……)「じゃあ…お言葉に甘えて……」

「おう!また来いよ!」


雑貨屋を出た降助は町の外まで行き、人目が無い事を確認してからフライトを使って館に戻る。


「ただいま帰りましたー」

「うむ…コホッ…おかえり。お金は足りたかの?」

「はい。おつり、返しておきます。」

「うむ。…コホッ、コホッ……」

「…すぐ薬を作りますね。」

「すまんの……コホッ…」


降助は自室で買ってきた薬草を使って薬の調合を始める。


(ハクさんが前に使ってたのをお下がりで貰ったけど…まだまだ使えるな。)「後はこれとこれを…っと。よし、できた!」


完成した薬を薬包紙で包み、ハクの部屋に行く。


「ハクさん、薬できましたよー」

「いつもすまんのう…しかしミコトの腕も上達したものじゃ。」

「ここ数年は薬学をメインにやってましたからね。結構上手くなったとは思ってますよ。」


ハクは数年前から病に罹り、定期的に降助が薬を調合するようになっていた。


「本当にすまんのう。儂が病に罹ってから鍛錬もあまりできておらんじゃろうに……」

「いやいや、鍛錬よりもハクさんと元気に暮らせる方が大事です。気にしてませんよ。」

「……そうか。」


それから数ヶ月、降助は薬を作り続け、ハクの診察もしていたが調子は一向に良くならず、徐々に悪化していた。そして季節は秋も終わりが近づき、冬に差し掛かろうとしていた。


「換気の為に窓開けますね。……うわっ!寒っ……冬も近いですしどんどん冷えますね……」

「そうじゃのう……」


その時、突然風が吹いて机から封筒が落ちる。


「何か落ちましたよ…」

「いや、気にせんでよいぞミコト―」


降助が封筒を拾い上げると中から畳まれた薬包紙がいくつも落ちてくる。


「これって……」

「…見つかってしまったのう。」

「僕が作った薬の薬包紙……しかも飲んでないんですか…?」

「……。」

「一体いつから飲んでなかったんですか…?」

「春頃から飲んでおらん。」

「ど、どうして…そんな……」

「ミコト…もう儂に縛られる必要はなかろう。」

「し、縛られるなんてそんな…!」

「昔からそうじゃった…儂ら賢者にくっついて修行を続け…あまり外との関わりを持たなかった。」

「…っ。後悔はしてません!師匠達と過ごす日々はとても楽しくて充実していましたしこうして力もつけました!満足って言葉だけじゃ足りないくらい良い日々でした!」

「そう言ってくれるのは嬉しいがの…やはりおぬしくらいの歳の(わらべ)は同年代の童達と野を駆け回る方が合ってある。」

「僕は…ここでハクさんと暮らせるなら友達なんて―」

「そうじゃ、世界を見て回るのも良いじゃろう。世界は広い。様々な発見や出会いがある筈じゃ。」

「ハクさん…!」

「そういえばちと遠いが麓の町…スタトから離れたところにはバラシアン第一学園都市、というものもあったのう。確か…シューヴァルト学園じゃったかのう。入学できるのは16歳からじゃがそこに入ってみるのも良かろう。」

「ハク、さん…」

「そうじゃ、渡せなくなる前に渡しておこうかの。そこにかけてある羽織、それをおぬしにやろう。」


そう言ってハクは椅子の背もたれにかけられた羽織を指差し、取るように降助に促す。


「これは…いつもハクさんが着てた……」

「寒さを凌ぐのにも、白衣代わりにも使えるしポケットも沢山ついておる。なかなか便利な物じゃぞ。」

「ハクさん…嫌だ…いかないで…!」

「すまんの。儂にはここが限界じゃ。ここから先は…1人にしてしまう。本当に…すまんのう……」

「……じゃあ…ハクさん…最後に1つだけ……」

「……なんじゃ?」

「ハクさんも…師匠達も…皆、皆、大好きです…!これまでも、これからも…!大好きです……!」

「これは…皆に伝えてやらんといかんのう。ああ、そうじゃ。そうせんとな。」

「さようなら…!大好きな、ハクさん……!」

「…ふふ。儂も…大好きじゃぞ……ミコ…ト…」

「ハク……さん……!」


降助の頬を大粒の涙が次々と伝って落ちていく。今まで賢者達が死んだ時も沢山泣いた降助だったが今回は特に、涙が止まらなかった。何分、何十分と泣き、ようやく落ち着き始める。それから更に少しして完全に落ち着いた降助はハクを埋葬し、この機会に、と6人全員の墓に黙祷を捧げた。






第1章 少年編 -完-

はい、これにて第1章、少年編が終わりとなります。修行ばかりでマンネリしてないかな、とかカットできそうなところはカットしているけど長すぎないかな、話の進みは遅くないかな、みたいに色々と考えながら書いていましたがいかがだったでしょうか。第2章でも楽しんでいただける物語が書けるように頑張っていきたいと思います。感想なり★なり評価がいただければ励みになりますのでよければお願いします。

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