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第22話 仲夏の別れ

季節は夏になり、暑い日が続いていた。


「……」

「……」


修行場を日差しが照りつけてくる中、降助とボウは互いに木剣を構えて見合っていた。


「ふっ!」

「はっ!」


スキルを交えての打ち合いが始まり、木剣同士がぶつかる音が鳴り響く。


「《飛斬》!」

「《クイックスラッシュ》」

「はあっ…!」

「ぬんっ…!」


お互いに飛び退き、距離を取る。降助の頬をいくつかの汗が伝い、地面に落ちていく。一方でボウは日差しの中にいながら殆ど汗をかいていないようで、一筋の汗が額から垂れていくだけだった。


「ふむ。今日はこのくらいにしておこうかの。」

「そうですか…?まだいけますけど…」

「今日もまた一段と暑いからのう。ほどほどにしておかぬと倒れてしまうぞい。」

「…それもそうですね。終わりにしましょう。」(実際、熱中症はコワイしな……)


タオルで汗を拭いつつ、降助はボウと共に館に戻る。その日の夜、3人で夕食を食べているとふとボウがスプーンを落としてしまい、降助が拾い上げる。


「大丈夫ですか?」

「む…う、うむ……すまんの……」

「ボウさん…?」

「…すまぬ。調子が優れんようでの。今日はもう寝る事にするわい。」

「そ、そうですか…お大事に……」

「もし良ければ儂が後で診てやるが…」

「いや、大丈夫じゃよ。」

「そうか。おぬしがそう言うのならば良いがの。」


それから数日、組み手ができない日が続いていた。


「…すまんの。ワシの調子が良くならないせいでおぬしの組み手の相手が……」

「気にしないでください。ボウさんが元気なのが1番です。」

「そう言ってくれるのは嬉しいがのう……」


そう言いながらボウは青いミサンガを外し、降助に手渡す。


「これって……」

「渡せるうちに渡しておこうと思っての。義兄上と色違いのミサンガじゃ。どうか、大事にしてやってくれんかのう。」

「……はい。大事に…します。」


降助は青いミサンガをコウの赤いミサンガと一緒になるように右腕につける。


「どう…ですかね?」

「うむ…よく似合っておる。」

「アインさんから貰った首飾りにコウさんとボウさんから貰ったミサンガ、トランさんのレシピ本にジックさんの杖…いっぱい貰っちゃいましたね…」

「そうじゃな…この館も…随分と人が居なくなったのう……」

「…そうですね……」

「そして…また1人…居なくなってしまうようじゃの。」

「え…それは……」

「やはり渡せるうちに渡そうと思って正解じゃったの。それもほぼ誤差のようなものじゃが……」

「ま、待ってください…そんな…!」

「お別れじゃ…ダイヤ。この6年間…今まで生きてきた中で充実した日々じゃったよ。」

「ボウ…さん…!」

「義兄上…今…ワシも……」


そう言うとボウは眠るように息を引き取った。


「ッ……ハクさんを……呼ばなくちゃ……」


その後、ハクと共にボウを埋葬し、墓を建てる。


「この広い館も2人だけになってしまったのう……」

「そう…ですね……。たいぶ、寂しくなりました……」

「まさか、儂が最後まで生きておるとはのう…てっきりアインの次くらいには死ぬとばかり思っておったんじゃが。」

「…もう夏ですけど夜は涼しいですね……」

「そうじゃな。ここは高さも少しあるからのう。冷えるといかんしもう中に戻るぞい。」

「…はい。」


それから数日後、降助はジックの部屋から持ち出した人形を担いで修行場に来ていた。


「えーっと…使い方は……」


降助はポケットから紙を取り出す。この紙はコウから貰った本に挟まっていたもので人形の取扱説明書のようなものだった。


「魔力を流す量で稼働時間を調節…背中のカバーを外すとボタンが付いてて……ボタンの数多いな!!」


説明書と睨めっこしながら背中のボタンを弄ること数分。


「よし、できたぞ……」

『コレヨリ戦闘訓練プログラムヲ起動シマス。戦闘態勢ヲトッテクダサイ。5、4、3……』

「えっちょっまっ…カウント速っ……」

『2、1。攻撃開始シマス。』

「うわっ!?」


人形の攻撃を思い切り仰け反って躱す。


「あっぶな……!」(確か魔法剣士モードで1時間だったよな…んじゃ、やるか…!)


降助は剣を取ると人形との打ち合いを始める。暫くすると人形は飛び退いて距離を取り、魔法を放つ。


『《ファイアボール》』

「ッ…!《アクアボール》!」


人形の放ったファイアボールをアクアボールで相殺し、再び距離を詰める。


『《炎乱飛斬(えんらんひざん)》』

「いいっ!?」(火属性魔法と乱飛斬のクロススキル!?そんなのアリか……!?)


ギリギリで飛び退いて躱すがスキルの炎が降助を囲うように燃え広がっていき、炎の壁を作り出す。


「マジか…魔法剣士ってそんな事するの……?」


再び剣を構え、周囲を警戒する降助の背後の炎から突如人形が飛び出し、斬り掛かってくる。


「引っかかったな!」

『ガッ…』


人形の回避が間に合わないギリギリのところまで引きつけ、人形の首を刎ねる。


「自然な隙を作って誘い込む修行…苦労しただけあって結構役立つな……」


人形の胴体がドサッと地面に倒れ、刎ねられた首がコロコロと地面を転がる。


「……あっ壊しちゃった……!」


やってしまったと焦る降助だったが人形には自動修復機能が付いており、事なきを得たのだった。

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