第21話 修行の終わり
修行を続けているうちに季節は春になり、降助は6回目の誕生日を迎え、ボウと共に麓の町まで来ていた。
「あ、あそこでお昼ご飯食べませんか?」
「む?あそこか。良いぞい。」
2人は大通りから外れた場所にあるレストランに入っていく。扉を開けるとドアベルが鳴り、給仕の女性がやって来る。
「いらっしゃいませー!……ってミコト君!?うわ〜…!凄い久しぶりだね〜!随分と大きくなっちゃってまあ……昔はこ〜んなにちっちゃかったのに……」
「えぇ…まあ…あれから5年くらい経ってるので……」(ノリが久し振りに会う親戚のおばちゃんだ……)
「…2人なんじゃが席は空いておるかの?」
「え…ああ、はい!空いてますよ!こちらへどうぞ!」
2人は窓際の席に案内され、向かい合って座る。
「メニューはこちらになります!」
「ありがとうございます」
「決まりましたらまた呼んでください!」
給仕の女性は他の席の接客に向かう。それから数分後、ボウはパスタ、降助はベーコンエッグトーストとサラダを注文する。更に数分後、2人の元にパスタとベーコンエッグトースト、サラダが運ばれてくる。
「お待たせしましたー!」
「わあ…久し振りに食べるなぁ…!」
「「いただきます」」
満足げにベーコンエッグトーストを頬張る降助を給仕の女性がまじまじと見つめる。
「えっと…そんなに見られると食べづらいんですけど……」
「いえいえお構いなく〜。」
「構うんですよ。えーっと…」
「あ、名前ですか?リアって言うんです。凄い今更の自己紹介になっちゃいますけど…よろしくお願いしますね?」
「……で、リアさん。そんなに見られると食べづらいですし給仕の仕事は大丈夫なんですか?」
「大丈夫です!普段は仕事できるので!!」
「その普段を今もしてください」
「え〜だってだって…可愛い子が美味しそうにご飯食べるのを見るのやめられないんですもん!」
「だからってそんな近距離で見られると…」
「それなら……」
給仕の女性改めリアは席から離れ、柱から降助の席を覗く。
「……あのー、距離の問題じゃなくて…」
「はぅ…5年前と変わらず好き嫌いなく野菜を食べていくの偉い……!」
「聞いてないなあの人」
潔く諦めた降助はさっさと食べ終え、レストランを後にする。
「また来てくださいねー!」
「…」(一応手振り返すくらいはしとこ……)
それからしばらく歩いているとふと前から2人組の男がやって来る。降助はぶつからないように避けるが2人組のうち1人がわざとかのように降助とぶつかる。
「いってぇな!どこに目ェつけて歩いてんだァ?」
「えっ今そっちからぶつかってきましたよね…?」
「あぁん!?ガキがなーに生意気な口叩いてんだァ??」
「ワシも見ておったが明らかにそちらの方が悪い。謝ってもらえんかの?」
「うるせぇジジイ!テメェは引っ込んでろ!」
「おうガキ、ちょっとツラ貸せよ」
「嫌ですよ……」(なぁんで俺ってこんなやつらにばっかり絡まれるんだろ……)
「は?拒否権なんかねーよさっさと来やがれ!」
(いやツラ貸せって訊いた意味!!)「だから嫌ですって…」
「おい、もう面倒くせぇしここでやっちまおうぜ。」
「それもそうだな…んじゃ、ちょっと痛い目見てもらうか…!」
「う……」
「っとその前に…《看破》」
(いかん!この男、看破スキル持ちか!という事は中々の手練れ!)「ダイヤ―」
「へっ、コイツらなんのスキルも持っちゃいねぇただのガキとジジイだ!」
「いいサンドバッグになりそうだな…!」
(なぬ…!まさかダイヤ…隠蔽スキルを覚えて…!)
(ジジイも大した事ねぇしこのガキなんざ隙だらけ…!んじゃ、まずは軽く一発腹に蹴りを―)
男が降助に向かって蹴りを繰り出すがすかさず受け止め、そのまま男を投げ飛ばす。
「ふっ!」
「なっ!?」
「ウソだろ!?」
「痛い目に遭いたくなかったらさっさと立ち去ってください。」
「この…クソガキッ…!」
(後ろがガラ空きだぜ…!もらった!!)
「後ろがガラ空きだぜヒャッハーとか言わずに黙って不意打ちしてくるあたり、多少頭は回るんですね」
「なっ…!」
降助は背後の男が振り下ろした剣を難なく躱し、回し蹴りを放つ。
「ぐあっ!?」
「クソッ…どうなってやがる!?」(立ち振る舞いは隙だらけ、スキルも何も持ってないのになんで俺らが一方的にやられるんだ…!?)
「あんまり騒ぎを大きくすると憲兵さんのお縄につくと思いますけど。」
「うるせええぇぇ!!クソガキが!死ねえぇ!!」
「ついでだ!ジジイもくたばりやがれ!!」
「はぁ…どうやらじっくりお灸を据えないと懲りなさそうですね。」
「そのようじゃの。」
「「おらああぁぁ!!」」
(威力をギリギリまで削って……!)「《リーフボール》《ファイアボール》」
「ぬん!」
「な…!」(ば、馬鹿な…!魔法は使えない筈…まさか…このガキ、隠蔽スキルを持っていたのか!?あ…ありえない…!ど、どうやってそんな事が……!)
「がふっ…!」(こ…このジジイも…つ、強い……!掌で腹を押されただけなのに…重い……!)
降助に襲いかかった男はリーフボールが纏わりつき、ファイアボールの炎で火をつけられ、ボウに襲いかかった男は派手に吹っ飛ばされて近くに置かれていた木箱に突っ込み、気絶した。
「あちちちちち!!だ、誰かこの火を消してくれえぇ!!」
「きゅ〜……」
「は、早く火を消してくれえぇー!燃えるぅー!」
燃えながら走り回る男に突然水がかけられ、消火される。
「ふう〜…助かったぜ…ありがとな―」
「おお、それは良かった。じゃ、話は牢の中で聞こう。」
「けっ…憲兵……!」
「おい、そっちの男も連れて行け。」
「「はっ!」」
「お2人共、ご協力感謝する。怪我などは無いか?」
「はい。大丈夫です!」
「うむ。ワシも問題無い。」
「それは良かった…と思えばボウさんか。それならばケガもするわけないか。」
「知り合いなんですか?」
「昔、何かと世話になってな。強力な魔物が近くに現れて暴れていた時に助けてもらったりしていた。」
「へぇ〜…そうなんですか……」
「では我々はこの2人を牢に連れて行かなければならないのでこれで。」
「ではワシらも帰るとするかの。」
「はい!」
「あ、そうだ。少年、名前は?」
「あ…えーっと…ダイヤ…ダイヤ・オリハルコです」
「ダイヤか。私はレスター。この町の憲兵のまとめ役、とでも言っておこうか。もしよければ将来は憲兵になってくれると嬉しい。腕っぷしの強い者は歓迎だ。ではな。」
「はい…さようなら……」
ちょっとした騒ぎがありつつも館に帰ってきた2人だがボウは館に入る直前、降助に攻撃を仕掛ける。が、降助は難なく防ぎ、ボウにカウンターを決めた。
「っとと……」
「ふむ。いけると思ったんじゃがの。見事なものじゃ。」
「ボウさん…?」
「もうワシから教えられる事は無いのう。隠蔽スキルも身につけた上にここまで自然な隙が作れるようになったんじゃ。」
「って事は……!」
「おめでとうダイヤ。これにて修行はおしまいじゃ。皆伝、じゃな。」
「……!やった…!やったー!!」
「さっきも言ったがワシから教えられる事はもう無いじゃろう。じゃが、組手の相手くらいならまだまだしてやれる。やりたくなったら言ってくれれば付き合うぞい。」
「はい!」
「む。帰ってきてたんじゃな。ミコト、ボウ。」
「あ!ハクさん!聞いてくださいよ!実は僕―」
その日は誕生日と合わせていつもより更に豪華なお祝いとご馳走が出され、存分に堪能した降助はいつもよりぐっすりと寝る事ができた。




