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第20話 新たな修行

ジックがいなくなって数ヶ月。春が終わって夏も過ぎ、早くも季節は秋になった。降助は攻撃スキルの習得も続けつつ、ボウと共に受け流しやカウンターの修行、ジックから貰った両手杖を使っての魔法の自主練を繰り返していた。


「うん。両手杖があると若干狙いが付けやすいな。というか杖自体がそういう作りになってるのかな…?っていうかこの杖頑丈そうだし槍みたいな感じで物理攻撃にも使えそうだな……」


そんな降助の下へボウがやって来る。


「修行の調子はどうかの?」

「あ、ボウさん。はい。良い感じです!」

「それは何よりじゃ。その調子で頑張るんじゃぞ。」

「はい!…ところでボウさんはどうしてここに?」

「実はおぬしに新しい修行をしようと思っての。」

「新しい修行ですか…?」

「うむ。今までおぬしは様々なスキルや魔法を身に付け、武器の扱いもほぼワシや義兄上に近しい腕前じゃ。おそらく相当の実力者でない限りはおぬしに勝てんじゃろう。」

「僕ってもうそんなに強くなってたんですね……」

「じゃがここまで強いと面倒事も多くなるじゃろう。かくいうワシも輩に絡まれる事がそこそこあった。そこでじゃ。実力を隠す修行を始めようと思っておる。」

「実力を隠す修行……」

「ざっくりと内容を説明すると…そうじゃな…攻撃の威力を殺して防ぎつつ派手に吹っ飛んでやられたフリをしたり…一見隙だらけに見せたり…とかかのう。最終的には看破スキルも防ぐ隠蔽スキルの習得が目標かの。」

「看破スキルと隠蔽スキルがあるんですか?」

「うむ。武器のスキルやクロススキル以外にもスキルはあっての。相手の魔力量や保持スキルなどが分かる看破スキル、それらを妨害したり、スキルを偽装する隠蔽スキルなどがあるんじゃ。」

「へぇ〜…」

「おぬしにはこの2つを身につけてもらおうと思っておるんじゃ。」

「2つって…看破スキルもですか?」

「そうじゃ。あれば何かと便利じゃからの。」

「成程…ところでどうやって習得するんですか?」

「問題はそこじゃ。具体的な動作や経験で習得できる武器のスキルや知識があれば発動はできる魔法と違ってこういった系統のスキルは習得が難しくての。長い期間をかけて方法を模索しながら習得していくしかないんじゃ。」

「そうなんですか…」

「何にせよ、勿論ワシも手助けする。じゃから安心せい。」

「…分かりました。それで何をすれば良いんですか?」

「そうじゃの……主に人間観察…かのう……」

「人間観察ですか?」

「うむ。相手を知ることは看破スキルに繋がる。そして隠蔽スキルも繋がっていくじゃろう。そうじゃな…町に出かけてぷらぷらしてみる、とかが良いかの。」

「そんなんで習得できるんですか?」

「ワシも義兄上も概ねそんな感じで習得したんじゃ。なんにせよ人と接する事が肝心なんじゃよ。」

「はぁ…そうなんですか……」(なーんかあやふやだなぁ……)

「ともかくまずはスキルではなく素の状態で偽装できるように修行じゃ。」

「分かりました!」


それから時は流れ季節は冬に差しかかっていた。修行場で棒立ちの降助にボウが攻撃を仕掛け、降助は攻撃が当たる寸前で反撃しようとするがボウに防がれる。


「まだまだ隙の作り方が不自然じゃ。意図的に誘い込まれているように感じるぞい。」

「うぐ…かなり難しいですね……」

「そうじゃの。強くなる為に力をつける修行とは少し毛色が違うからの。」

「もう一回お願いします!」

「うむ。」


再び降助は棒立ちになり、しばらくしてボウが攻撃を仕掛けるが降助は反応しきれず、攻撃をモロにくらってしまう。


「痛っ!!」

「今度は気を抜きすぎじゃ。」

「む、難しすぎる……」

「ま、何事も数をこなせば自ずと上達していくじゃろう。一歩一歩、じっくりとやっていくんじゃ。」

「はい!」


いくつかの修行を掛け持ちしながら過ごす忙しい日々はあっという間に過ぎていき、季節は春を迎え、既に夏になっており、降助とボウは麓の町までやって来ていた。


「ふむ、まずはあそこに立っている男からにしようかの。」

「分かりました。…《看破》」


ボウが指を指した先にいる冒険者らしき男に対し、降助は看破スキルを使う。


「…職業剣士、所持スキルはクイックスラッシュとスピードステップ。冒険者になって少し経つ…くらいですね。」

「どれ…《看破》……うむ。合ってるのう。看破スキルはだいぶ使えるようになったようじゃな。」

「やった!」(看破…こんな感覚なのか。まるで情報が頭に流し込まれていくような…そういえばこの世界にはレベルとかステータスの概念が無いんだな…でも確かにレベルアップしてスキルを習得したー、とかステータスオープンー、って言ってステータスが表示された事無かったしな……異世界って本当に不思議だ…)

「後は隠蔽スキルと実力を隠す修行じゃな。」

「…そういえば隠蔽スキルってどうやって習得するんですか?」

「ワシの見立てでは実力を隠す修行をしているうちに習得できると踏んでおる。」

「そうなんですか?」

「うむ。とにかく、看破スキルに関しては確認は終わったからついでの買い物を済ませて帰るぞい」

「はーい」


そうして買い物を済ませたボウと降助は館へ戻ってくる。それから数日後。降助は新たな修行方法でスキル習得を目指していた。普段通りに生活している中でボウからの不意打ちに対応する修行で、常に気を張っておかなければ対応できないが警戒している空気は出さずに油断しているように見せなければならず、もし警戒していると感じられた場合は即攻撃が行われ、指摘される。そして早速廊下を歩いている降助にボウが攻撃を仕掛け、降助はギリギリのところで防ぐ。


「まだ警戒心を隠しきれておらん。もっと自然に力を隠すんじゃ。」

「はい…」


修行は難航し、思うような成果が出ないまま季節は冬も中頃になっていた。


「まだ駄目じゃのう。以前よりは良くなっておるが未だに体が警戒して力が入っているのが分かる。」

「…っ。」

「……おぬし…焦っておるな?」

「え…なんで……」

「なんとなく、じゃよ。5年も共に過ごしたんじゃ。それくらいは分かるわい。おぬしは修行を終える前にワシが死ぬんじゃないかと焦っておるじゃろう?」

「…はい。このままじゃ……俺がスキルを覚える前に…」

「ダイヤよ。もっと前向きに考えてみるんじゃ。」

「前向きに…?」

「そうじゃ。スキルを習得する前に死ぬのではないかと焦るのではなく、死ぬ前に習得してやる、というくらいの意気込みでいるんじゃ。後ろ向きなままではできることもできなくなってしまうぞい。」

「…はい。僕、もっと頑張ります!そして絶対にボウさんが死ぬよりもずっと、ずっと早くにスキルを習得してみせます!」

「うむ!その意気じゃ!」


ボウはそう言って降助に微笑みかけると再び修行を開始した。

なんか新年早々色々とありましたが無事に今年初投稿です。これからもよろしくお願いします。

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