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第19話 冬を越え、春が来て

瞬く間に季節は秋から冬、春へと移り変わり、降助は4回目の誕生日を迎えていた。


「おぬしももう4歳か…子供の成長はあっという間じゃのう。」

(そっか…この世界に来てもう4年か…中身の年齢は21歳になっちゃったよ……時間が経つのってあっという間だなぁ…)

「そうじゃユーリウス。実はわしからプレゼントがあるんじゃ。」

「プレゼントですか?」

「魔導書じゃ。これには様々な魔法が書かれておる。どうか役立てて欲しいんじゃ。」

「わあ…!ありがとうございます!」

「喜んでもらえてなによりじゃ。トランのレシピ本にコウのスキルの本と本ばかりになってしまうが…すまんの。」

「いえ…師匠達のおかげで僕もどんどん強くなれてるんです。いつも感謝してますよ。」

「そうじゃ、今日はお祝いの料理の材料を町まで買いに行こうと思ってあるんじゃがミコトも行くかの?」

「はい!行きたいです!」

「では支度を済ませたらすぐに行くぞい。」

「はーい」

「ワシとジックは留守番するとしようかの。」


そして降助とハクは出かける準備を済ませ、町へと歩いていく。一方その頃、館で留守番をしているボウとジックは…


「…ジック、おぬし……」

「…やはり気付かれてしまったかの。」

「突然魔導書なぞ渡せば薄々分かるわい。…それに魔族は他の種族より自身の死期を敏感に感じ取ると聞く。その様子じゃと…」

「うむ。もはや時間はあまり残されておらぬ。じゃが今日は降助の誕生日。その雰囲気を台無しにはしたくないのじゃ。」

「そうじゃな。ワシもできる限り協力しよう。」

「そうしてくれるとありがたいのう。」


それから暫くして、荷物を抱えたハクと降助が帰ってくる。


「ただいま帰りました!」

「うむ。おかえり。」

「それじゃあ早速料理を作るとしようかの。」

「僕も手伝いましょうか?」

「いやいや、今日の主賓はおぬしじゃ。おぬしは座って待ってておくれ。」

「そういう事なら…分かりました。」


降助は椅子に座り、料理を待って暫くするとご馳走が運ばれてくる。


「今日は町で良い牛肉が手に入っての。ローストビーフにしてみたんじゃ。」

「うわぁ〜!美味しそうですね!」

「勿論ケーキもあるぞい。これを食べ終わったら食べるとするかの。」

「やった!」

「では…」

「「「「いただきます」」」」


降助は良い焼き加減のローストビーフに舌鼓を打ちつつ、あっという間に平らげる。


「とても美味しかったです!」

「うむ。ではケーキを食べるとするかの。」


ハクがケーキをテーブルに運び、人数分に切り分けていく。


(そういえば4回誕生日を迎えて気付いたというか確信したというか……多分調味料の類は希少じゃなさそうなんだよな…こう、異世界って胡椒とか塩とか砂糖とか調味料って貴重そうだしケーキも滅多に食べれなさそうだけど…意外と元の世界と近い価値なのかな…?)


そんな事を考えつつケーキも平らげた降助は風呂を済ませた後、ベッドの上でジックから貰った魔導書を広げる。


「わあ…これまたビッチリ書かれた本……」


それからは本を流し読みしていくが段々眠気に襲われ、寝落ちしてしまう。


「ふあっ…!?」


次に目が覚めた時には朝日が昇っていた。


「いつの間にか寝てたし朝になってた……」


本を閉じて机に置き、あくびをしながら階段を降りてリビングに向かう。


「ふあぁ〜…おはようございます……」

「うむ。おはようミコト。」

「あれ、ジックさんは……?」

「ジックは…今出かけておるんじゃ。」

「そうですか…いつ帰るんですか?」

「さあ…特に言ってもいなかったし訊かなかったからの。」

「そうなんですね……あ、今日の朝ご飯はトーストだ!いただきまーす」


それから降助はボウ、ハクと共に朝食を食べる。今日は修行が無い日なので降助は昨日の本の続きを読む事にした。


「どうするんじゃボウよ。このままミコトに隠しておくつもりかの?」

「それがジックの希望じゃよ。」


そう言うボウの手には1枚の手紙が握られていた。内容は自分の死期と降助についてであり、自分が居なくなっても降助には誤魔化しておくよう書かれていた。


「魔族は死期を敏感に感じ取り、その時が来ると人目のつかない所で死を迎える事もある…じゃったか。」

「悲しませない為とは言っておったが何も言わず居なくなる方が悲しませるとは気付かなかったのかのう……」

「ジックも中々不器用じゃからな。きっと看取らせるよりは良いとでも考えておったんじゃろう。…まったく……本当に不器用じゃのう……じゃがジックの頼みも無下にはできぬしのう。やれるだけやるしかないのう……」

「そうじゃな…」


それから数日の間、ほんの少しだけジックが居ない生活が続いた。というのも3日程で降助がおかしいと気付いて問い詰めたからであった。


「3日も帰ってこないなんて変です。本当に何も無いんですか?ハクさん、教えてください!」

「何も…聞いておらん。」

「嘘…ですよね。ハクさん、本当の事を言ってください。」

「…本当におぬしは4歳児とは思えんのう。」

「…やっぱり、何かあるんですね?」

「そうじゃな…単刀直入に言ってしまおう。ジックは死んだんじゃ。」

「え……」

「ジックは魔族なんじゃが…魔族には他種族よりも死期を敏感に感じ取る能力があり、死ぬ時は人目につかない場所で人知れず息を引き取る事があるのじゃ。」

「そんな……」

「ジックからの頼みでの。隠しておいてほしいと言われたんじゃが……」

「そんなの…あんまりですよ…!ジックさんには…まだ…教えてほしい事が沢山あったのに……!」

「…代わりと言ってはなんじゃがもし気付かれた時や明かした時はこれを渡すようにも頼まれておっての。」


そう言いながら杖を抱えたボウがやって来る。


「それは……ジックさんの部屋にあった杖…!」

「これをおぬしに、とな。」


降助はボウから両手杖を受け取り、握り締める。


「ありがとうございました……ジックさん……!」


その後、形だけでも、と降助の提案でジックの墓も建てられたのだった。

これが年内最後の更新になります。それでは皆様良いお年を!(年越し50分前)

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