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第14話 スキル習得

「あと数ヶ月で俺は死ぬ。それまでに武器の扱い方を教えようと思う。」


それは唐突に告げられた。あまりの衝撃に降助は暫く声が出なかった。そして、その場にいたボウも同じく声が出なかった。


「な、何を言って……」

「義兄上、そんな冗談は……」

「冗談じゃないわい。自分でも驚いておるが死期というのは案外感じ取れるものなんじゃのう。」

「……っ。」


言葉を詰まらせる降助にコウは木剣を差し出す。


「まずは片手剣からじゃ。それから両手剣、斧、槍、弓を教える。当然、時間もあまり残されておらん。修行は過酷なものになるじゃろうな。それでもやるかの?」

「……勿論です…!」(無駄にしてはいけない。あと数ヶ月と言われたからこそ、やらないわけにはいかない。強くなって、守れるように…!)


それからは厳しい修行の日が続いた。1週間ごとに片手剣、両手剣、斧、槍、弓と交互に修行していった。降助が今まで以上に本気で取り組んだ成果か、1ヶ月と半月が経つ頃にはほぼ扱えるようになっていた。


「ふむ。2ヶ月足らずでよくここまで扱えるようになったの。」

「コウさんの修行の賜物です。」

「そう言って貰えると嬉しいの。ではこれより最後の修行を始める。」

「…!」

「ラギよ、おぬしには全ての武器のスキルを習得してもらう。」

「スキル…?」

「うむ。主に武器の類を扱う時に使うものがスキルじゃ。例えば…《飛斬(ひざん)》」


コウが木剣を振ると斬撃が放たれ、木を真っ二つにした。


「これがスキルじゃ。いつの日か、盗賊に使った合掌波もスキルじゃよ。そしてまずおぬしには片手剣のスキル、飛斬。両手剣のスキル、大飛斬(だいひざん)。斧のスキル、ローリングスラッシュ。槍のスキル、スピードスピアー。弓のスキル、マルチアロー。これらを習得してもらおうかの。」

「結構大変そうだな……でもやります!」

「うむ。頑張るんじゃぞ。」


それからは木剣を振る日々が続いていた。あの手この手で飛斬を放とうとするも空振りするだけだった。


「スキルって言われても実感湧かないなぁ…魔法と違って特定の手順も無いしイメージもしづらい……」

「悩んでいるようじゃの。」

「あ、コウさん。そうなんですよ。いくら剣を振っても全然何もできなくて……」

「それは剣を振ってるだけだからじゃ。剣自体ではなく、斬撃、斬った軌跡を意識するんじゃよ。」

「剣自体ではなく、斬った軌跡……」

「そうじゃ。おぬしならきっとこれだけで分かるはずじゃ。」


そう言うとコウは離れたところにある岩に座り、様子を眺める事にした。


(剣じゃなくて斬撃、剣じゃなくて斬撃……)「《飛斬》!!」


降助が木剣を振った瞬間、斬撃が飛んで木を切り倒す。


「で…できた……!」

「うむ。見事じゃ。ほれ。次は両手剣の大飛斬じゃ。飛斬ができたならすぐに使えるじゃろう。」

「成る程…よいしょっ…《大飛斬》!!」


今度は先程よりも大きめの斬撃が飛び、木を複数本切り倒す。


「……ふう。」

「今日はこんなもんじゃの。明日はローリングスラッシュとスピードスピアーは目指そうかの。」

「マルチアローまでいく勢いで頑張ります。」

「うむ、よろしい。では帰るぞい。」


館に帰り、普段通り風呂に入り、夕食を済ませて眠りにつく。そして次の日を迎え、早速降助は斧を振り回していた。


「うおおおぉぉぉ!!!」

「木製とはいえ両手持ちのデカい斧をこうもブンブン振り回すとは……若さかのう。」

「いやローリングスラッシュをやろうとしてるんですけど……うっ目が回って気持ちわ……うえぇ……」

「それはローリングスラッシュというかスピンスラッシュじゃのう……」

「あっそういう技は技であるんですね。」

「いや、特に無いから今適当に命名しただけじゃが…」

「えっ…」

「そもそもローリングスラッシュは横じゃなくて縦じゃぞ?」

「えっ…た、縦回転ってどうやって……?」

「そりゃあジャンプしてクルッと回って斧を振り下ろすんじゃよ。」

「あー成る程そういう……」


降助はぴょん、とジャンプしてみるが一回転する暇も無く地面にぺたん、と着地する。


「えーっと……」

「うむ。ジャンプも回転もまるで勢いが足りておらんの。」

「や、やっぱりですか……」

「仕方ないの。……ふん!!」


コウが地面に勢いよく拳を振り下ろすと地面がせり上がり、ジャンプ台のような段差を作り出す。


「うおっ……」(こっ……怖ええぇぇ!!どう考えても死期悟ってるお爺さんの出す威力じゃねええぇぇ!!お、オーガだからとかあるのかな……?)

「さ、これを台にしてやってみるんじゃ。助走をつけて勢いよく飛んで斬るんじゃぞ。」

「や、やってみます……」


コウの作ったジャンプ台を斧を引き摺りながら走り、勢いよく地面を蹴って飛び、前に1回転して勢いよく斧を振り下ろす。


「《ローリングスラッシュ》!」


そう叫んで斧を木に当てると木は真っ二つに割れ、地面にもそこそこの大きさの割れ目ができる。


「うむ。見事じゃな。」

「や、やったー……次はスピードスピアー…でしたっけ?」

「うむ。槍で相手を高速で3回突くスキルじゃ。」

「高速で3回…」(どこの一番隊の人だろうか。というか槍じゃなくて刀ですけどねその人。)


それから何回か槍で木をつつくも思うような速さで攻撃が出せないでいた。


「う〜ん……これじゃあスピードスピアーに足りないですよね?」

「…そうじゃの。スキルとしてはまだスピードが足りとらんの。」

「どうしたものか……」

「と言われてもこればかりはどうにものう…使い手の素早さとしか……のう。」

「とにかくやれるだけやるか……」


それから数時間、木を槍でつついているが未だに成果は無い。


「はぁ……喉乾いたし一旦休憩して水飲も……」


降助は持ってきた竹の水筒を取り出し、水を飲む。喉がカラカラだったのであっという間に飲み干し、中身は空になった。


「はぁ〜どうしたもんかなぁ……」


そんな事を考えながら竹の水筒を弄くり回していたが底の部分を弄っていると不意に底が外れてしまう。


「あっ……底取れちゃった。緩かったのかな…水筒が筒になっちゃった……よ……」


ふと頭の中に1つの案が浮かび、降助は早速実践する事にした。


「む?ラギよ。その竹の筒を槍にはめてどうするんじゃ?」

「ちょっと強引ですけど…スピードスピアー、いけるかもしれません。」

「なぬ?」


降助は何度か練習した後、木に向かって突きを繰り出す。


「《スピードスピアー》!」


降助の繰り出した素早い3回の突きは木の幹を削り、ぽっかりと穴を開けた。


「これは素晴らしいのう。どうやったんじゃ?」

「この筒が役に立ったんですよ。」(素人の見よう見真似だけど思ったより上手くいって良かったな。)


降助が即席で作り、使った槍は管槍といい、筒によって手との摩擦や引っかかりを極限まで無くし、通常よりも格段に速い突きを繰り出すことができる。降助はこれを利用してスピードスピアーを無理矢理に習得したのだった。


「…このままマルチアローまでいって良いですか?」

「…ふむ。そうじゃの。ちと難航しとったが今日は早いうちから始めたから時間も大丈夫そうじゃ。やるとするかの。」

「はい!」


-数時間後-


「…意気揚々と始めたは良いものの、1番分かんねぇ……飛斬はまあ良いとしてローリングスラッシュもスピードスピアーもやり方は理解できたから良いけど…矢を分裂させるって何?どうしろと……?」


降助は矢が無数に刺さっている木を見ながらぼやいていた。


「そもそもスキルに使われるリソースが分からないんだよな…魔法は自分の魔力を使ってるけどスキルは何を使ってるんだろう……魔力が減ってる感じはしないけど……スタミナ…みたいなのでも使ってるのかなぁ……いや、スタミナをどう矢に変換しろと?斬撃を飛ばした時点でまあ確かにアレだけど矢って……」

(中々難航しておるようじゃな。日も傾き始めておるし今日はこの辺りかのう……?)

「あっ閃いた」

「うむ?」

「多分これで上手くいく筈……《マルチアロー》!」


降助が矢を放った瞬間、1本の矢に加え白い矢が2本、追従するように放たれ、木に命中する。


「できた!」(斬撃を飛ばした時の要領でもっと矢を意識したら2本生み出せた。そう思うと結構簡単な部類だったのか…)

「うむ。見事じゃ!今日は祝いにごちそうを作るとするかの!」

「やったー!ありがとうございます!」

「今日までよく頑張ったの。修行もこれで一区切りじゃ。」

「はい!……ん?一区切り…?」

「そうじゃ。まだいくつか伝授しておきたいものはある。それにできる事は増やしておいた方が良いじゃろう?」

「そうですね。これからも頑張ります!」

「うむ。」


降助は新たな決意を胸に、コウの作ったごちそうを食べて眠った。

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