第13話 絶好の魔術勉強日和
(寒い冬もあっという間に過ぎてもう春。暖かくて心地よい朝日が俺を包んで―はいない。その真逆。土砂降りだよ。ナニコレ。)
降助が窓の外を見ると物凄い勢いで大量の雨が降っていた。時折、遠くの方で雷が鳴っているのも聞こえた。
「今日の天気は大荒れじゃのう。」
「そうですねー……」
「ま、今日は何も予定は無いし室内でのんびり過ごせば良いじゃろう。」
「そうですね。絶好の魔術勉強日和ですし、ジックさんに教わってきます!」
「室内で魔法は撃つんじゃないぞい。」
「分かってまーす!」
降助は階段を駆け上がってジックの部屋に入っていく。ジックの部屋には箒や杖が飾られており、魔法について書かれた書物である魔導書や、怪しく輝く宝石などが置かれている。
(相変わらずザ・魔法使いって感じ……)「そういえば前々から思ってたんですけど、この杖と箒って何か意味あるんですか?」
「い、意味……?」
「はい。魔法陣は詠唱しながら魔力をほんの少し消費して構築していきますし、飛行魔法も風を噴射したり重力の操作だったりするじゃないですか。それでもあるって事は何か意味があるのかな、と。」
「そう…じゃな…強いて言えば……飾り?」
「かっ……飾りですか……」
「杖を遠距離攻撃系の魔法を当てる為の照準代わりにしたり、特定の魔法を即座に発動できるように杖を持つ者もおるが…わしはどちらもいらないし…箒も飛行魔法を操る為のイメージ用として使われる事はあるもののこれもわしにはいらんし……そうとなると飾りとしか言いようがないの……」
「そ、そうなんですか……」
「しかしユーリウスも随分と長く魔法を使用できるようになったの。」
「そうですね。魔力の使い方の効率が上がって魔力量も増えつつあるので。」
「ふむ……ところでユーリウスは何の用でわしの部屋に来たのかの?」
「あ、そうだった。またいつも通り魔法を教えてもらいたいんですが……外はご覧の通りなので絶好の魔法勉強日和かなと。」
「…確かにそうじゃの。では今日は室内で扱っても問題無い魔法を中心にしていこうかの。」
「はい!」(と。ここで魔法について復習。まず魔法は基本的には3つの工程で発動される。1つ目が魔法陣の構築。魔力を微妙に消費して空中とかにさっと作る時もあれば、何かに刻んでおいて準備する時もある。そして2つ目は詠唱。実は魔法陣は魔法1個に魔法陣1つじゃなくて魔法陣1つに魔法複数個って感じだから発動する魔法を確定させるために詠唱する。簡単に言うと目の前にAの魔法陣があるとして1の魔法を撃つにはAの魔法陣とBの詠唱、2の魔法を撃つにはAの魔法陣とCの詠唱、みたいな。そして詠唱は省略可能である程度の熟練度があればすっ飛ばして撃てる。その分威力はちょっと落ちるみたいだけど。そして最後の3つ目に魔力を流す。そうすると魔法が発動される。流す魔力の量とか諸々を調節すれば威力も調節できると。復習終了。)
「ではわしがやるから見ているんじゃぞ…我が盾は如何なる干渉も阻む。《シールド》」
ジックがそう唱えるとジックの前に魔法陣が現れ、更にそこから半透明で若干虹色に光っている盾が現れる。
「これは初歩的な防御魔法じゃ…物理、魔法共に簡単な攻撃は防げるぞい。おぬしもやってみるんじゃ。」
「はい。えーっと、我が盾は如何なる干渉も阻む。《シールド》!」
魔法を唱えるとジックと同様、魔法陣から盾が現れる。
「ふむ。」
ジックが指をチョイっと動かし、シールドを降助のシールドにぶつけると降助のシールドが粉々に砕け散る。
「うわっ!?」
「初めてにしては上出来じゃな。簡単に壊れた様に見えるが結構強めにぶつけてるぞい。」
「そ、そうなんですか……」
「さ、いつも通り繰り返し詠唱して慣らしていくぞい。」
「はい!」(繰り返し詠唱して感覚を掴む。単調作業で気が遠くなるけどこれをやっていくと効力を調節できるようになるし、詠唱を省略した魔法が使いやすくなる。良い修行方法だよなぁ。……そういえば俺って魔力量どれくらいあるんだろう……ゲームみたいにステータスが出てこないから分かんないなぁ…でもジックさん曰く同年代に比べて遥かに多いって言ってたし……あ、そろそろいけるかな)
何回か詠唱を繰り返した後、詠唱を省略しての魔法発動を試みる。
「ふう……《シールド》」
魔法は無事成功し、魔法陣から盾が現れる。ジックが先程と同じくシールドを使い、ぶつけるとまたもや簡単に壊れてしまうがジックからはさっきよりも強度は確かに上がっている、と褒められた。
「ありがとうございます。」(って褒められても実感湧かないなぁー…変わらずシールドはバリンバリン割られるし……じ、自信失くしそ〜…)
「次の魔法も覚えといた方が良いかの……ヒールという回復魔法じゃ。」
(回復魔法…!覚えておいて損は無いな。なんか何かと戦う時って毎回お腹やられてる気がするし。覚えとこう絶対。そんでもってめっちゃ熟練度上げとこう。)「是非!」
ジックは部屋の奥から人形らしきものを引っ張り出すとナイフでいくつか傷を付ける。
「では……傷ついた者にささやかな癒しを。《ヒール》」
ジックが詠唱すると魔法陣が人形の前に現れ、緑色の暖かなオーラが人形を包み込み、ジックの付けた傷を治していく。
「おぉ……ところでこの人形は?」
「これはの。特殊な人形での。武器の扱いから魔法の扱いまで様々な練習台に使える物なんじゃが…魔法には生物として認識されるからこうやって回復魔法の練習にも使えるんじゃよ。」
「へぇ〜…そんな便利な道具があるんですね。」
「さ、おぬしもやってみるんじゃ。」
「はい。…傷ついた者にささやかな癒しを。《ヒール》」
降助が詠唱すると人形の傷が少しずつ塞がっていく。
「おぉ…」
「ふむ。やはりおぬしはかなりの才能を持っておるの。いずれわしも追い越すやもしれんのう……」
「いやいや、まだジックさんには及びませんよ。」
「ふふ…どうかのう…?」
そんな事を言いながら室内でも使える魔法の修行を続ける2人であった。




