第12話 初夏の別れ
(結局、顔も見れてない日が続いてるけど……大丈夫かな……)
降助は山道を走りながらそんな事を考えていた。トランももうすぐ死んでしまうのではないか、と。
(本人達も言ってたし俺も分かってる。俺が大人になる前に皆死んでしまうって。だから楽しい思い出を沢山作ろうとも言ってた。そう…分かってる。分かってるんだ。けど―)「わっ!?」
考え事をしながら走っていたからか足元が疎かになり、木の根っこに足を引っ掛けて転ぶ。
「いってて……ふう。大した傷じゃないな。軽く土を払って……よし。」
気を取り直して麓の町まで走り、再び館の近くまで戻ってきた頃。修行場にはコウとボウの他にハクも居た。降助の心臓の鼓動が速くなる。長い距離を走ったのとは別の理由で。そして同時に降助の中の不安がどんどん大きくなっていく。
(まさか…まさか……!)
「…帰ってきたんじゃな、ラギ。」
「コウさん。ボウさん。それに…ハクさん。」
「…その様子じゃ気付いておるようじゃの。」
「…っ。やっぱり……!」
「……トランは…さっき、亡くなった。これはおぬしに、と預かった物じゃ。」
「これは……」
降助はハクからいくつかのノートを受け取る。そこにはいくつかのレシピが書かれており、肉系、魚系、スープ系などが見やすく分けてまとめられていた。
「大した物はやれんがどうか大事にしてほしい、との事じゃ。」
「レシピ帳……トランさんらしいですね。大事に……大事に……します……!」
その日は修行は中止となり、トランの葬儀が行われ、トランの墓はアインの墓の隣に建てられた。
「これはうかうかしてると修行中に俺らも死んでしまうのう。」
「そうじゃな。あの子の為にも…教えられる事は早めに教えておいた方が良さそうじゃ。」
「仕方ない。少し予定を変えるとするかの。」
コウとボウが今後を話し合っている一方、降助はジックの部屋に居た。
「えっと……わしに魔法を本格的に教わりたい……とな。」
「はい。今はコウさんとボウさんに戦い方を教わっていますがジックさんからも魔法を教わりたいんです。できることは増やしたいし、もっと強くなりたいんです。お願いします。」
「まあ…おぬしがそう言うなら……」
「ありがとうございます!」
それからは走り込みをしつつ、空いた時間などにジックから魔法を教わる日々が続いた。遂には館から麓の町への長い道を走り続けても息が乱れない程にまで体力がついていた。
「ふむ。だいぶ体力がついたようじゃの。1ヶ月でよくやったものじゃ。」
「そっか…1ヶ月……もうそんなに。」
「…きっと、あの世でトランも見守っておるじゃろう。」
「そう…だと良いですね。」
「さて。それはそうとそろそろ頃合いじゃろう。修行内容を本格的に戦いに向けるぞい。」
「…はい!」
「まずは基礎中の基礎、攻めと守り両方の構えじゃ。ここの基本を押さえねば始まるものも始まらぬ。」
「成る程……確かに、基礎は疎かにしちゃいけませんね。」
「…時におぬし、ジックから魔法を教わっとるじゃろ。ざっくり1ヶ月前から。」
「あっ…えっと…隠してるつもりはなかったんですけど……」
「まぁ良い。とにかく何か魔法を覚えておるならその辺りに撃ってみるんじゃ。それと合わせた修行ができるかもしれんからの。」
「分かりました。それじゃ…《ファイアボール》!《アクアボール》!《ストーンボール》!《ウインドボール》!《サンダーボール》!」
降助の放った魔法は木に命中し、燃えたりへし折れたりしていた。
「早くも5属性の魔法を扱えるとは……行く末が恐ろしいのう……」
「それで…えーっと…修行内容はどうなりますか?」
「うーむ…これは下手に魔法と近接戦闘を混ぜても近接戦闘の方が追い付かずに上手く立ち回れないかもしれんの。魔法は後にして今は近接戦闘に集中じゃの。」
「分かりました。」
「まずは構えからじゃ。足を半歩引いてリラックスするんじゃ。身構えて力が入ると体の動きが固くなってしまい、体の反応が遅れてしまうからの。」
「えっと…足を半歩引いてリラックス……」
「ではゆくぞい」
足を半歩引き、コウを見た瞬間、一瞬で視界からコウが消える。
「えっ……」
次の瞬間には視界が青空で埋め尽くされたと思えば地面が眼前に広がり、降助は地面に叩きつけられる。
「まだ力が入っとるの。それでは今の速度で攻撃されたら何もできんぞい?俺なら良かったものの魔物やならず者なら死んでおった。まあ、今のおぬしがそんなやつらと戦う事は無いと思いたいがのう。」
「は、はい……」
「ダイヤよ。投げられたら投げられたで今度は受け身も考えんといかんぞい。義兄上はコントロールが上手いから問題無いよう投げられたが普通なら打ちどころが悪ければそのまま死ぬし、そうでなくとも大きな隙を晒す事になる。戦いでは身体能力だけでなく思考力、判断力も大事じゃ。」
「そうじゃな。これからはそれをみっちり教えていくぞい。」
「…分かりました!」
降助はそう言って勢いよく起き上がると、再びコウとの組み手を始めた。
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