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第107話 ニーズ帝国へ

シャンの襲撃から暫くして、降助はとある依頼を受けてニーズ帝国へ向かっていた。話は数日前に遡る。この日、リスタッドからスタトに戻っていた降助はギルドマスターのレスターに呼ばれて彼の執務室に来ていた。


「ダンジョンの調査…ですか?」

「ああ。ここ最近、大陸各地のダンジョンで奇妙な現象が観測されてな。なんでも、魔物が全く出現しないらしい。」

「全く?」

「足跡、臭い、食事や排泄の跡…それらの痕跡が一切見つからない。かと思えば、大量に出現してダンジョンの外まで溢れそうになったとの報告もある。とにかく、各地のダンジョンでそういった異常現象の報告が相次いでいる。」

「その原因の調査が今回の依頼ですね。」

「そうだ。君にはここから東、ニーズ帝国近辺のダンジョンの調査に任命されている。」


そう言ってレスターは机に広げた地図の、ニーズ帝国の辺りをトントンと指で叩く。


「ん?任命…?」

「勇者パーティーを含め、いくつかの腕利きの冒険者達が国やグランドマスター直々の指名を受けて調査に出ている。君が担当するニーズ帝国近辺のダンジョンはこっちにリスト化してある。印を付けた詳細な地図も挟んであるから確認してくれ。」


レスターからリストを受け取り、パラパラと捲って確認するが、降助の顔色がちょっと悪くなる。


「え…なんか多くないですか?」

「あー…その事についてだが……実はグランドマスターとシグルド殿から伝言があってだな……」

「もう既に嫌な予感が」


『君にはニーズ帝国北部のダンジョンを担当してもらうけど、いけたら南部もお願いしたいな!報酬はたんまり上乗せしてあげるから頑張って!!あの長距離移動できる魔法があればいけると思うから!あ、あとそんなに急がなくても良いから!自分のペースで大丈夫だよ!!』

『いやー、コウスケ君も大変だねぇ。あ、もうすぐ春休みも終わって授業始まるけど、どうせ通常授業はもうやってないし、希望者が専門授業受けてるだけだからあんまり気にしなくて良いよ!ガンバ!それじゃ!』


「─だそうだ。」

「一応ギルドと学園のトップなんですけど……よくトップやれてるなぁこの人達……」

「まあ……否定しきれないな。」

(まあでも……この前のアビス・ホールみたいな事があっても困るし、やるか。)「…とりあえず、やりますよ。早速準備して向かおうと思います。」

「くれぐれも気を付けてくれ。」

「はい。失礼します。」

「ああ、それと……君に指名の依頼だが、向かうのは君個人でもパーティーでも構わない。自由にやってくれとのお達しだ。」

「…!分かりました!」


降助はギルドを後にして館へ戻り、支度を始める。


「あれ、どこか出かけるの?」

「うん。依頼があってさ、ちょっとニーズ帝国の方に行ってくるよ。」

「ニーズ帝国かー…大きな市場と海の幸が美味しいって聞いた事あるかも。」

「おお、ちょっと楽しみかも。」

「ふふっ……」


くすりと笑うクレイに、コウスケは首を傾げる。


「?」

「なんかこの会話、ちょっと夫婦っぽいね。」

「っ…!そ、そうだね…!」

「……や、やっぱり自分で言ってて恥ずかしくなってきちゃった……」


お互い顔を赤らめてモジモジする様子を、クーア達は白い目で見ていた。


「おーおー、今日もやってるなー師匠達。」

「うっぷ、胃もたれしてきた…」

「ま…まあ、仲睦まじいのは良い事ですよ…!」

「うむうむ。」

「みっ、皆見てたの!?うぅ……」


クレイの顔が更に真っ赤になり、震えながら俯く。


「──あっ、そうだ。クーア達3人にも、一緒に来てもらいたいんだ。」

「え、オレ達もか?」

「俺指名の依頼だったけど、パーティーで行っても良いって言われたからさ。」

「待て、3人という事は我はどうすれば良いのだ?」

「ヴニィルは留守番ね。クレイのこと、頼むよ。」

「むぅ…我だって行きた──」

「よ・ろ・し・く・ね・?」

「はい」


その日は荷物をまとめたりと支度をし、翌日の朝から出発する事にした。そして夜、降助は久し振りに賢者の生まれ変わりの夢を見た。翌朝、期待を胸に出発し、現在に至る。


(昨日の夢、特徴からして多分トランさんの生まれ変わりかな……早く会えると良いな……)

「あ!師匠!見えてきた!!」


そう言ってクーアが馬車の外を指差す。その先には、山に囲まれたニーズ帝国の関所が見え始めていた。関所にはものの数分で到着し、問題無く通過して先へ進む。街道に沿って進んでいき、段々と日が暮れていく。


「日も暮れてきましたけど、大丈夫ですか?」

「ああ、気にしなくても平気だぜ。もうちょっとで着くからな。それに、夜のイーペイ港はバラシアン百景にも選ばれるほどの絶景なのさ。」

「へぇ〜、そうなんですね。」


御者の言う通り、十数分程でイーペイ港の関所に到着する。


「ありがとうございました。」


御者に礼を言って馬車を降り、降助一行は街へ入っていく。


「わあ……!」

「すっげ〜!」

「綺麗……」

「これがニーズ帝国のイーペイ港…!」


巨大な港には多くの船が停泊しており、無数に流れる川に沿って大小様々な建物が所狭しと並び、沢山吊り下げられた提灯が街を明るく照らしていた。夜であるにも関わらず、昼間のような賑わいを見せている。


「夜なのに人がいっぱい…!」

「皆、迷子にならないように気を付けてね。」

「はーい!」

「オレ達そんなちびっ子じゃねぇって。」

「とりあえず宿を探さないと。」


そんな降助達を、少し離れたところから窺う1人の男がいた。

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