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第105話 抜剣の時・ガルベルク

(剣が…呼んでいる…?)


降助は振り返り、錆びた剣を見る。どう考えても武器として使えなさそうな、触れた瞬間に崩れてしまいそうなほどに錆びついた剣。それでも、無性に惹かれてしまう。そして一歩、剣へ踏み出していき、その様子をイフラが見ている。


「……」(降助君…遂に引き抜くんだね…"それ"を…その剣を引き抜けば、君はもう─)

「ふ…!」


降助は錆びた剣の柄を握り、力を込める。その瞬間、機械的な音声が響く。


『承認開始』

「!?」

『─承認完了。第一封印解除。』


剣から錆がポロポロと崩れ落ちていき、新品同様の輝きを持った剣へ変化する。それと同時に、降助の脳裏に剣の名前が浮かび上がる。


「"ガルベルク"!!」


そう叫ぶと剣はより一層輝き、力が漲っていく。そして素早く薙ぎ払うと、襲い来る泥人形達はスルスルと両断されていく。斬られた泥人形達は人の形を失って地面に落ちていき、動かなくなる。


「凄い…これなら!」


剣を構えて攻勢に転じ、次々と泥人形達を斬り伏せていく。


「…よし、封印の準備ができた!ヴィア君!」

「はい!《飛斬》!」


斬撃を飛ばし、扉に纏わりついていた泥を払う。即座にシグルドとバルツがムルクスを担ぎ、ナイザー達も撤退していく。


「よし!皆撤退したよ!」

「了解!」

「はぁっ!」


降助も出たのを確認し、イフラが封印をかける。


「お疲れ様。上まで送っていくよ。」


イフラに連れられ、一行はアビス・ホールからウルボ盆地へ戻ってくる。


「じゃ、僕はこれで失礼するね〜」

「あっ、ちょっと─」


イフラは外に帰ってきて早々に姿を消してしまった。


「いなくなっちゃった…」

「なんですか…?最近はワープしたり一瞬で出たり消えたりするのが流行ってるんですか…?」

「流行ってないので安心してください!」(これ以上はナイザーさんが自信喪失してしまう…)

「その、ヴィア殿…頼りきりになってすまないが、また王都まで送ってもらえないだろうか?今回の件は早急に報告しておきたい。」

「分かりました。《ゲート》」


ゲートを繋ぎ、リスタッドの広場まで戻る。


「では私とナイザーは報告があるのでこれで失礼する。」

「私達もムルクスさんを医者へ連れて行くので失礼しますね。」


それぞれその場を去っていき、広場には降助とシグルドだけが残っていた。


「さて…コウスケ君はどうするんだい?」

「俺もこれで失礼します。」

「分かった、気を付けて帰るんだよ。」

「はい。お疲れ様でした。」

「はーいお疲れ様〜」


シグルドと別れ、人気の無い路地裏を探して入っていき、適当な所で立ち止まる。


「イフラさん、居ますよね?」


すると、目の前からにゅっとイフラが姿を現す。


「いるよ〜、訊きたい事があるんだよね?」

「はい……この剣の事を。」


そう言って手に持っていた剣を見せる。


「ガルベルク…頭にはそう浮かんできました。」

「変封剣ガルベルク……アヴが姉であるイヴを討つべく、自ら鍛造した人工聖剣。全部で5つの形態があり、錆びた鉄剣…殆どの性能が封印されている第1段階。錆が取れ、性能が少し上がる第2段階…今の状態だね。そして姿を変え、より強力になる第3段階。変形し、更に力が溢れる第4段階。最後に、激しい力が渦巻く第5形態。多分、今の君でも第2段階が限界かな。第3段階以降はおそらく剣に振り回されるよ。」

「そんなに強いんですか…?」

「何せ原初の厄災を打ち破った程の力だ、当たり前でしょ?」

「まあ、それもそうですよね……」


視線を剣に落とし、少し眺めた後にディメンションチェストに収納する。


「ざっくりした説明は済ませたし、君の努力次第で全然使えるようになるから、頑張ってね。」

「はい、分かりました!」

「じゃ、僕はこれで……の前に、1つ言っておきたい事が。」

「なんですか?」


イフラの表情から微笑みが消え、いつになく重い雰囲気を纏う。


「君はその剣を抜き、手にした以上…逃れることのできない過酷な運命に足を踏み入れた。その過程で、多くを失う事になる。君に…覚悟はある?」

「覚悟…ですか…」

「急に言われても混乱するよね。でも覚えておいて。いつか……その時が来るから。」


そう言い残し、イフラはスッと消えていく。


「……過酷な運命とか、多くを失うとか…覚悟とか…急に言われても分からないけど…でも…俺は、絶対皆を守ってみせる…!」


その決意を胸に、路地裏を出て喧騒の中へ歩き出していく。

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