第104話 災いは再び
「そうだね…どこから話したらいいか…君達は"厄災"についてはどれくらい知っているかな?」
「ん?トマトとかキャベツの事か?」
「それは野菜だっての。こんな時にふざけてる場合?」
「あ…それなら多少聞いた事があります…なんでも、文明を簡単に滅ぼしてしまうようなものだと…」
「私も、聖書に記載のあるわずかな知識だけですが…」
「俺も、昔軽く触れた事はあります。」
そう言ってナイザー、クレイア、降助が手を挙げる。
「この8人中3人…少ないように思えて、その特性を考えると多い方かな。」
「そうなんですか?」
「うん。厄災はいわば"文明のリセットシステム"。全てを白紙にし、その時代を無かったことにする。」
「時代を…無かったことに…!?」
「君達は今の自分の世界が7つの時代を経てあると思っているだろうけど、実際はもっと存在する。厄災によって消された、多くの時代がね。」
「そんな…」
イフラから告げられた事実に一同は困惑する。
「そして、殆ど可能性は無いけど…仮に運良く生き延びれたとしても、リセットからは逃れられない。記憶を失ってしまうんだ。今残っている文献は、天文学的な奇跡の中に残されたとても希少なものだろうね。」
「……その厄災が、あの骸骨や湧き出た化け物とも関係しているんですね?」
「うん。ここからが話の本題だよ。その昔…数千年くらい前に、とある王国があった。名はリジオン王国。この世界で1番最初に生まれた、文明を持った王国さ。そしてその王国にはとある姉弟がいた。イヴという姉と、アヴという弟。2人は国王の子供で、平和に暮らしていた。でもある日突然、イヴが狂った。世界中の人間を虐殺し始めたんだ。最初にして最悪の厄災…"原初の厄災"だよ。」
「一体、何の為に…?」
「さあね。イヴとアヴは長い死闘の末、相打ちという形で決着がついた。このウルボ盆地はその決戦の地。そしてそこの骸骨はその2人のものさ。この建造物はそれを封印する為に建てられたんだ。」
「随分と詳しいのだな」
そう言ってバルツが一歩前に出る。
「時代を無かったことにし、文明を消し去るという厄災をそれ程事細かに語れるとは貴様…何者だ?」
「まあ、その疑問はもっともだね。と言っても僕はただの──」
その瞬間、嫌な気配が辺りを包み込む。降助、シグルド、イフラは即座に周囲を警戒する。
「学園長…!」
「ああ…あの時と同じ…!」
「っ…!総員、構えろ!」
バルツは剣を構え、周囲への警戒を強める。すると、骸骨から黒い泥の様なものが溢れていき、部屋を覆って扉を閉じる。
「な、なんなんですかこれ…!」
「おい!閉じ込められちまったぞ!」
一行は固まって輪になり、周囲を警戒する。そして、泥はゆらゆらと人の形をとり始める。
「くっ…どうにかして脱出を…!」
「駄目だ!こいつらはここで倒さないといけない!1人たりとも外に出すわけにはいかない!」
「よっしゃ任せろ!うおぉー!!」
ムルクスは大剣を構え、雄叫びをあげながら突撃する。
「バカっ!いきなり突っ込むやつが─」
「うっ」
直後、小さく声が聞こえたと思うと、凄まじい勢いでムルクスが吹っ飛ばされ、壁にめり込んでいく。着込んでいた鎧は胸元が大きく凹み、口から血を吐いていた。
「ムルクスさん!!」
「ッ!」
ムルクスを追撃しようとした泥人形の前に降助が素早く割って入り、薙ぎ払って止める。
「全員下がって!こいつらは俺とイフラさんでやる!!」
「無茶だ!彼を軽々と吹っ飛ばすような膂力を持った集団を2人で相手せられるか!」
「バルツ君、ここはヴィア君達に任せるんだ。こいつら相手に、俺達にできる事はほぼ無い…」
「それは一体どういう事だ?」
「あいつらの体は全てマナでできている。更に泥のように武器が沈み込む上、俺らがマナを使えない以上はこちらの攻撃は全て無効化されておしまいさ。できる事といえば、自分が死なないように必死になるのと…彼を助ける事くらいかな…っ!」
シグルドは素早くムルクスを回収し、鎧を外す。すぐにクレイアが駆け寄り、ナイザーも続く。
「治せるかい?」
「はい、できる限りやってみます…!」
「僕もお手伝いします…!」
「ありがとうございます!」
「頼んだよ、なるべく早くね。」
「「はい!」」
一方、降助とイフラはそれぞれ襲いくる泥人形達と戦っていた。斬っても斬っても数は増え続け、何度でも襲いかかってくる。
「くっ…キリがない…!あの骸骨を破壊すればなんとかなりませんか!」
「無理かな。あいつらはこの場所自体にこびり付いた癌のようなもの…骸骨を破壊したくらいじゃ何にもならないさ。」
「じゃあどうすれば…!」
「僕が封印を構築するから、その間は頼めるかい?」
「分かりました!」
イフラは封印の準備を始め、それを守る様に降助が相手をする。そして、その光景をユートはただ見ていた。
(クソッ…俺は勇者なんだぞ…!異世界から召喚された、勇者なんだ…!それがこんなところで何もせず見てろだぁ…?んな事できるかよ…!)「…ッ、美味しいとこばっかり持ってかれてたまるか!!」
「勇者様!?」
「はあぁーっ!!」
ユートは敵に斬りかかるが、剣はぐにっと沈み込んでいき、呆気に取られている間に反撃をくらって後方に押し込まれる。
「ぐあっ!」
「馬鹿っ…!」
即座に降助がカバーし、斬り捨てる。
「なんで出てきた!」
「悪いかよ!お前ばっかり美味しいところ持ってきやがって…!俺は勇者なんだぞ!」
「はぁっ…!?」(何言ってるんだコイツ!状況が何にも分かってないのか!?くっ…このままじゃジリ貧だ…!)
その時、降助の頭に何かが響く。ふと振り返ると、その視線の先には、骸骨に突き刺さる錆びついた古い剣があった。




