第102話 地下探索 1
深い暗闇の中を降りていく。陽の光はどんどんなくなっていき、今では辛うじて手元が見えるくらいの暗さになっていた。
「暗いな…」
「あ、灯り出しますね。《ライト》」
ナイザーは魔法で周囲を照らすが、他のメンバーも視認できるようになった程度でそれほど明るくはならなかった。
「思ったよりもっと暗かったみたいです……」
「いや、これで充分だ。」
「それにしても深いですね…底にいつ着くのでしょうか?」
「もうそろそろ着くよ。」
それから数分もしないうちに地面に到達する。空中から地面になったおかげか、先程よりもライトで照らされている範囲は広がったが、それでも建造物を視認できるほどの明るさは無かった。
「それじゃあお手を拝借。」
「へっ?」
イフラはナイザーの手を自身の手で包み込むと、力をライトに注ぎ込み、照らされている範囲を大幅に広げる。
「これで見えたんじゃないかな?」
「あ、ありがとうございます…って、これが……!?」
「で、デカい……!」
「想定より一回り大きいな…」
強化されたライトは先程より更に広く、明るく周囲を照らしている。そして、目に見える範囲ではクフ王のピラミッド程の大きさがある巨大な遺跡のような構造物が姿を現した。
「ッ…!」(あの時に近い…いや、もっと重い空気を感じる……凄く嫌な、しつこく纏わりつくような、首に手をかけられて、耳元で舌舐めずりされているような……)
思わず降助が顔を顰めていると、前の方から黒いモヤを纏った人型の何かが現れ、一行は即座に戦闘体勢に入る。
「魔物か!?」
「僕の出番だね。皆は下がってて。」
イフラが前に出て戦う準備をする。
「urrrrr……」
「どこから来てもいいよ。」
「arrrrrー!!」
「ふっ!」
敵はどこからか漆黒の剣を取り出し、勢い良く斬りかかる。イフラはまず初撃を屈んで躱し、勢いをつけて腹部に一撃を叩き込む。敵は勢いよく吹っ飛んでいったが壁に着地し、思い切り蹴り飛ばして即座に反撃してくる。
「君はこの世界に居るべきじゃない。」
「ahhhhh!!!!」
「さようなら。」
イフラが手をかざすと敵の後ろの空間が歪んでいき、吸い込まれるようにして消えていった。
「今のは…?」
「…彼を元の場所に帰しただけだよ。さ、行こうか。」
「元の…場所…?」
降助は少し悲しげな顔になるイフラに首を傾げつつも、他のメンバーと共に構造物の中に入っていく。
「「「「!」」」」
内部に足を踏み入れた瞬間、降助、シグルド、ナイザー、カレンの4人は何かを察知する。
「ここって…!」
「君も分かったみたいだね。」
「僕も感じます…これは……ダンジョンだ……!」
「え?ここダンジョンなのか?なんで分かるんだ?」
「私達みたいに、ある程度魔力に精通している人間は中に充満してる魔力の質とか量とかで、そこがダンジョンになってるか分かるのよ。」
「なんで魔力が分かるとダンジョンかどうかが分かるんだ?」
「ムルクス…あんたね……はあ。いいわ、説明してあげる。ダンジョンってのは空気中の魔力が異様に高まって1箇所に集中する事で生まれるの。だから内部は外よりも魔力の質も量も違うし、倒しても倒しても魔物が湧くのよ。」
「はえー、初めて知った!」
「これぐらい常識なんだけど……」
カレンが呆れていると、複数の足音が前方から聞こえてくる。
「ん?また敵か?」
「みたいだね。じゃ、また僕にやらさせてもらうよ。」
「手伝いは要りませんか?」
「大丈夫。僕1人でやるから。」
そう言ってイフラは駆け出し、相手が攻撃してくる前に先程と同じようにどこかに消していく。
「す、凄く手際が良いですね……」
「ああ。原理は不明だが、空間を歪ませて相手をどこかに消す能力によって急所を狙わずとも一撃で倒せる…といったところか。とにかくどこでも良いから攻撃が当たりさえすれば倒せる。当然、効率は良いだろう。」
「俺には結構若く見えるけど彼…彼女?何者なんだろうね?」
「分からない…分からないが、このダンジョンとあの魔物について確実に知っている筈だ。各自、警戒だけは怠らないようにしてくれ。」
「わ、分かりました。」
「はいはーい」
ひと通り倒し終わったイフラは皆に進むよう促し、ダンジョンの奥へと進んでいく。複雑化している内部を歩いていると、下へと続いている階段に辿り着く。
「階段……あれ?でも下に続いてますね。」
「…みたいだね。」
「んあ?何かおかしいとこでもあんのか?」
「外から見たら上方向にデカかったのに、上に行く階段じゃなくて下に行く階段があるって話だろ?オレでも分かるわ。」
「おお!流石勇者!賢いな!!」
「あんたが馬鹿過ぎんのよ……」
「で、どうする?先進むかい?」
「勿論、進む。撤退する理由も無いからな。」
バルツはそう言って先に階段を下りていき、後のメンバーも次々と階段を下りていくのだった。




