第101話 イフラ
「あなたは…!」
「やあ、久し振りだね。元気にしてた?」
「はい、元気にしてましたけど……どうしてここに?」
「あの子、ヴィア君の知り合い?」
「はい。知り合いというか、恩人なんですけど……」
「恩人?」
「……」
謎の人物の登場に、バルツは腰の剣に手を添えて警戒を強める。
「まあまあ落ち着いて。そう睨まないでほしいな。」
「貴様は何者だ?」
「僕の名前はイフラ。君達に1つ言いたい事があって出てきたんだ。」
(へー、神様の名前ってイフラっていうんだ…)「俺達に言いたい事ですか?」
「うん。君達には今すぐ帰ってもらうよ。」
「…それはできない。アビス・ホールを調査し、魔王軍の拠点か否か調べなくてはならない。」
「そういう事だからそこ、退いてくれると嬉しいな〜…」
バルツに続いてシグルドも、いつでも剣を抜けるように構え、張り詰めた空気になっていく。
「…言ってしまえば、ここは魔王軍とは関係無いよ。だから帰ってくれると嬉しいかな。」
「その言葉を信じるとでも?」
「信じようと信じまいと、事実ここは魔王軍と関係無い。今すぐ帰るんだ。」
「悪いけど、こっちも魔王軍と関係あろうとなかろうとあんな魔物が湧いて出るような場所を放置するわけにはいかなくてね。」
「イフラ…さん。どうして邪魔をするんですか?」
「…君にここはまだ早い。まだ触れるべきじゃないんだ。だから帰ってもらう。拒むなら不本意だけど……実力行使させてもらう。」
「おいおい、子供が1人で俺達をどう止めるってんだ?無視してさっさと行こうぜ。」
そう言ってユートが一歩踏み出した直後、イフラは目にも止まらぬ速さで動き、ユートの喉元に人差し指を突きつける。
「子供1人がどうかしたって?」
「コイツッ…!」
「はーあ、交渉決裂…かな。」
イフラがそう呟いた瞬間、バルツ、シグルド、ムルクスは剣を抜き、攻撃を仕掛ける。
「─ッ!」
「ふッ!」
「ぬぅん!」
「み、皆さんっ!子供相手にそんな事─」
クレイアが止めようとするが、イフラは指1本だけで剣を受け流し、いとも簡単に体勢を崩させる。
「な…!」
「!?」
「うおぉっ!?」
「僕は君達を傷つけるつもりは無い。大人しく帰ってくれると助かるよ。」
「このッ!」
「ああもう…《ファイアボール》!《アクアボール》!《サンダーボール》!《アイスボール》!」
ユートも剣を抜いて攻撃を仕掛け、カレンも魔法を放つが、シグルド達と同じようにユートも剣を受け流されて体勢を崩し、カレンの放った魔法はイフラが少し息を吹きかけただけで霧散してしまう。
「そろそろ諦めて─」
「はぁっ!」
「…ほしいんだけどな。」
続いて降助も素手で攻撃を仕掛け、受け流される事なく押し合いになる。
「あなたが何故邪魔をするのか分かりませんけど……ここは通してもらいます!」
「……」
「《流拳・瀬々羅技》!!」
「おっと…!」
「《流拳・阿面荒烈》!!」
「くっ…」
「《単拳・震打》!《単拳・貫抜》!《単拳・打砕》!!」
「ちょっとぉ!?連発し過ぎじゃない!?」
イフラは一見焦っているように見えるが確実に技を防ぎきっており、降助と一進一退の戦いが続く。
「一体…何が君をそこまで駆り立てるのかな?」
「俺はこの世界を守りたい…!あなたがくれた機会、あなたのおかげで出会えた皆を守る!その邪魔をするなら、たとえあなたでも容赦はしない…!」
「……そっか。」
「ッ!」
イフラは降助の攻撃を押し返し、少し距離を取る。そして、両腕をあげて手をひらひらさせる。
「はあ…降参するよ。」
「えっ?」
「君に免じて降参。そんなに固い意思があったなんてね…参ったよ。ホントに…」
「そ、そんなあっさり降参して良いんですか…?」
「うん。ただし、条件がある。」
「条件だぁ?降参したくせになんで偉そうなんだこいつ。」
ユートが悪態をつくが、イフラは気にせず話を続ける。
「…条件は僕も調査チームに入れること。そして中で遭遇した魔物の対処は僕に任せること。これでどうかな?」
「えっと…ど、どうしますか…?」
「んー…バルツさーん、どうー?」
(急に現れたかと思えば我々に帰れと言い、圧倒的な力を見せたと思えば彼に降参し、条件付きでこちら側につくと……思惑は読めないが人手が増えるならありか?うーむ……)「……私の指示には従ってもらう。」
「分かった。従うよ。」
「…ならば良いだろう。よろしく頼む。」
「うん、よろしく。」
イフラとバルツは握手を交わし、アビス・ボール調査の間は協力する事になった。そして一行は、遂にアビス・ホールの入り口に到着する。
「ここがアビス・ホールだ。」
「…ッ!?」(今のは…!あの時感じた悪寒……また感じた…!じゃあ本当に、魔王軍は関係無かった…?)
「……降下は僕に任せて。」
イフラは一行を浮かせ、ゆっくりとアビス・ホールの中へ降下していった。




