第100話 予想外の人物
コウスケ、シグルド、ナイザーの3人はアビス・ホールの調査に関する会議の為、ルリブス王国の城にある会議室に来ていた。
「ども〜。」
「し、失礼します……」
「…失礼、します。」
会議室の扉を開け中に入る。そこにはルリブス王国第2騎士団団長バルツと、勇者パーティーの4人が椅子に座って待っていた。
「ふー…」(落ち着け、俺。向こうは俺の事は分からない。落ち着け…表に出すな…平常心…!)
3人も椅子に座ったところで、バルツが会議を始める。
「ではこれより、アビス・ホールの調査に関する会議を始める。まずは自己紹介からとしよう。私はバルツ・ロー・グレスト。ルリブス王国第2騎士団団長で、今回は調査チームのリーダーを担当する。次はナイザー、頼む。」
「はい。僕はルリブス王国第4騎士団団長兼、王国魔導士団団長のナイザー・オストロです。調査チームのサポーターとして同行させていただきます。よろしくお願いします!では…」
「はーい、俺はシグルド。シューヴァルト学園で学園長をやってる元プラチナランク冒険者ね。今回はチームの偵察担当するからよろしく。じゃ、次は君だよ。」
「…はい。俺はヴィア・カルゴ。プラチナランク冒険者です。よろしくお願いします。」
自己紹介で降助が普段と違う名前を名乗ったので、シグルドが小声で質問し、ナイザーも耳を傾ける。
「あれ、どうしてコウスケを名乗らないんだい?」
「すみません、少し事情があって。詳しくは言えませんが、合わせてくれると助かります。」
「分かった。君がそうしてほしいなら合わせるよ。」
「コウスケさんって他にも名前があるんですか?」
「なんでも、赤ん坊の頃に拾ってくれた人達の名前の案を全部使う事にしたんだってさ。」
「そ、そうなんですか……」
王国側メンバーの自己紹介が終わり、続いて勇者パーティーの自己紹介に移る。
「では私から。私はクレイアと申します。ここから少し離れた村の教会でシスターをしています。よろしくお願いしますね。」
「じゃ、次ワタシ。ワタシはカレン・スペイル。巷じゃ"虹色の魔女"って呼ばれてる魔法使いよ。よろしく。」
「オレはムルクス・ガーバナーってんだ!"鋼鉄の竜巻"ってのはオレの事よ!よろしくな!」
「オレはユート。ユート・カネダ。今話題の異世界からの勇者様ってやつだ。よろしくな。」
「……」
バルツは自己紹介が終わった事を確認し、手元の資料を持って話を始める。
「では、自己紹介も済んだところで本題に入ろう。まず召喚されたばかりの勇者様にも分かりやすいよう、簡潔に説明しよう。我々は現在、魔王軍による侵略の危機に瀕しており、残念ながら未だその根城を突き止められずにいる。そしてアビス・ホール。ここは数ヶ月前に謎の魔物が現れ、現地で合宿を行なっていたシューヴァルト学園の生徒達が襲撃を受けた。」
「コウ…ヴィア君と俺が当事者だね。君の選出理由も、ここが絡んでるんだ。」
「そうだったんですね。」
「そして襲撃以来、王国の学者団などによって調査を続け、遂に地下に巨大な構造物がある事が判明した。ここが魔王軍の拠点である可能性がある以上、放置するわけにはいかない。よって、このメンバーで調査を行う。基本的には調査だけだが、場合によってはそのまま殲滅…あるいは撤退し本格的な軍を投入する可能性もある。未知の領域に足を踏み入れる以上、臨機応変にやっていくしかない。緊急時の判断は各々に任せたい。さて、これでご理解いただけただろうか?」
「ああ、大体分かったぜ。ありがとな。」
「よろしい。では他に何か質問がある者は?」
「はい。」
ナイザーが手を挙げ、バルツに質問する。
「調査の日程と、アビス・ホールへの降下方法は?」
「日程に関してはここから馬車で1週間前後の移動を予定している。降下方法については工事中の襲撃や事故を考えて階段などは建設されていない為、ナイザーの魔法頼りになってしまうが……」
「あ、それなら全部大丈夫だよ。」
「…というと?」
「彼、ヴィア君なら今すぐアビス・ホールに行けるし、降下も問題無い。」
「ほう?それは本当か?」
「はい。できますよ。」
降助がそう断言すると、クレイア、カレン、ムルクスは驚き、ナイザーは数十分前の出来事を思い出して少し憂鬱な表情になる。
「こ、ここからアビス・ホールまで今すぐに行けるのですか!?」
「あ、ありえないわ!そんなのどうやって…」
「なんだ?魔法か何かでも撃ってぶっ飛んでくのか?」
「そんなんで行けるわけないでしょ馬鹿!」
「流石にそんな事はしませんよ。皆さんは普通に調査の準備をするだけで大丈夫です。終わり次第出発できます!」
「そこまで言うのならやってもらおう。支度なら既に済ませてある。荷物はここに持ってきてあるからな。早速頼む。」
「分かりました。…《ゲート》」
降助は会議室とアビス・ホールの近くをゲートで結ぶ。
「な…!」
「嘘…」
「ど、どんな魔法なのよこれ…!」
「す、すっげぇ……」
「ほーん、スゲェな、お前。」
「…どうも。」
「ははは…僕の立場が無くなっていくよ……」
「さ、出発だ!はいはい荷物持ってー皆さん行きますよ〜」
シグルドに急かされ、各々荷物を持ってゲートを通る。
「凄い…本当に着いた……」
「これでかなり予定を前倒しできるな。感謝する。」
「いえいえ。じゃあ早速行きま──」
「来て早々に悪いけど、君達には帰ってもらわないとかなー。」
「え?」
ふと聞き馴染みのある声がし、その方向を見るとそこには、降助を転生させ、マナの修行をつけたあの神様が立っていた。




