第99話 勇者召喚 2
(なんで、あいつが……俺を、殺したあいつが……ここに……勇者としているんだ…!?)「はあっ…!はあっ…!はあっ…!」
「コウスケ、あれって……コウスケ!?大丈夫!?」
「ッ…!うッ……!」
吐き気が喉元まで込み上げる。あの時に頭を殴られた痛みが、腹を刺された痛みが、死ぬ間際の熱さと寒さが、フラッシュバックする。
「ッ……!」
「コウスケ、こっちに!」
「うん……」
クレイは降助を連れて人混みの前から離れ、端の方に寄る。
「はあ…はあ…はあ…っ……」
「大丈夫だよ、コウスケ…落ち着いて、落ち着いて……」
「はあっ…ふうっ…はあ……」(……クレイの手、震えてる…そう、だよな。クレイも、怖いんだよな。)
降助はクレイの手を握り締め、呼吸を落ち着かせる。
「……ごめん。ありがとう。もう大丈夫だよ。」
「なら、良かった。」
「師匠ー!大丈夫かー!?」
2人の下へ、心配した様子のクーア達も駆けつけてくる。
「すごく辛そうだけど、大丈夫?」
「大丈夫……ちょっと、思ったより熱気が強かっただけだから……大丈夫。うん。大丈夫。」
「無理はしないで…って言いたいところだけど、この後アビス・ホールの調査に関する会議がある。なるべく出席してほしいけど…平気かい?」
「はい、いけます。」
「なら良し。とはいえ割とフラフラじゃないか。そこの店にでも入って、一息つこうか。」
「すいません…」
一行は近くのカフェに入り、テーブル席に座る。
「いやあ、随分な熱気だね。店の中に入ったのに広場の大騒ぎがまだ聞こえるよ。」
「もう大人気ですね。」
窓から外の騒ぎを眺めていると、魔導士団団長のナイザーがクタクタの様子でカフェに入ってくる。
「はあ……キツ……」
「あれ、ナイザー君、休憩?」
「ああ、シグルドさんですか……まあ、はい。そんなところです。探知魔法でずっと監視してるのは良いんですけど、勇者様が召喚されてから魔法に国民の皆さんの騒ぎが混ざるわ混ざるわ……流石にずっと聞いてるとこっちがやられてしまうので、少し休憩しに来ました……ところで、そちらの方々は?」
「ああ、彼がコウスケ・カライトで、こっちの人達が"ホープ"のメンバー。彼女がクレイ・フィルソニアでコウスケ君の将来の奥さん。」
「ぶふっ!?」
「お、奥さんだなんて…そんな…えへへ///」
「そ、そうなんですか……」(最近の子供って進んでるなぁ〜!)
シグルドの紹介の仕方に降助は吹き出し、クレイは顔を赤くして口元がゆるゆるになる。
「で、彼はコウスケ君の知り合いのヴニィル…で良いかな?」
「うむ。よろしく頼む。」
「よろしくお願いします。初めまして、コウスケさん。ルリブス王国第4騎士団団長兼、王国魔導士団団長のナイザー・オストロといいます。」
そう言ってナイザーは右手を差し出し、降助も右手を差し出して握手に応じる。
「初めまして、コウスケ・カライトです。」
「噂はかねがね聞いています。史上最年少かつ最速でプラチナランク冒険者になり、イゾルツク連邦国王女の成人式パレードの護衛で魔王軍幹部ルムザ・ヴァーグを捕らえ、学園に現れた魔王軍幹部キィガ・メイスを撃退したとか。改めて聞くと、本当に凄いというか……正直、現実味を感じないというか……」
「あはは…まあ、そうですよね…」
「ああ、そうだナイザー君。彼もアビス・ホールの探索に参加する事になっていてね。その時は頼むよ?」
「そうだったんですね。お任せください。しっかりサポートします!」
「ナイザーさんも来るんですか?」
「はい。魔法で皆さんをサポートする係です。これでも魔導士団団長ですから、大船に乗ったつもりで任せてください!」
カフェで休憩しつつ談笑しているうちに、外の騒ぎも少しずつ収まり始めた。
「お、そろそろお披露目パレードも終わりかな。じゃあ時間だ。コウスケ君、ナイザー君、行こうか。」
「あ、はい!」
「分かりました。」
「という事でコウスケ君は連れてくけど、君達はどうするんだい?」
「どうするー?」
「うーん、他に用事は無いから帰ってもいいかな〜」
「私も、大丈夫です。」
「我も特に無いな。勇者も一目見れたし、充分だ。」
「私も平気!じゃあコウスケ、お願いしてもいい?」
「分かった。《ゲート》」
降助はゲートを作り出して館の前と繋げて皆を帰し、ゲートを閉じた。
「じゃあ行きましょうか!」
「…?……??……!?…!!?」
「ナイザーさん?」
「あ、言い忘れてたけど彼の力は桁外れでね。いちいち驚いてたらこっちの身が持たないよ。」
「ぼ……僕の代わりに魔導師団団長やりません…?」
「け、結構です!!」
団長としての自信を打ち砕かれ、すっかりへこんでしまったナイザーと共に、降助とシグルドはカフェを出て城へと向かうのだった。




