第10話 決意
降助の誕生日から少しして。相変わらず降助はハクと共に薬草採取しに出かけていた。
「一旦休憩じゃ。そうじゃな…この辺りで少し休憩するとしようかの。」
「はーい」
2人は近くを流れる小川の岩場に腰掛ける。
「よっこらせ…と……」
「ぼく、すこしかわでかおあらってきます。」
「気を付けての。」
降助は少し離れた所まで歩き、アインから貰った首飾りを外す。
(流されたらマズイしこっちの方に置いとこ。)
降助は両手を川の中に入れ、水を掬って顔を洗う。
「ふー…つめたくてきもちー……」
服の襟元で顔を軽く拭いて首飾りの方に手を伸ばすとモフッとした感触が手に伝わる。
「モフッ……?」
「キ?」
「さるっ……?」
「キキー!!」
「あっ!」
猿は素早く首飾りを拾い上げると器用に二本足で走ってその場から逃げだす。
「まて!」
「キキー!」
「ミコト?待つんじゃミコト!あまり離れては―!」(あの猿が腕につけているバンダナ…もしや……いかん……!)
何かに勘付いたハクは急いで館に引き返していく。
(すまぬミコト…!すぐに助けを連れてくるから待っているんじゃぞ……!)
一方で降助は猿との追いかけっこを続けていたが一向に追いつかない。
(流石に2歳児の状態じゃ猿にすら追いつけないか……!でも諦めない……!あれは…アインさんから貰った大事な物なんだ!こんな呆気なく失くしてたまるか!!)
猿は少し開けた場所まで逃げていく。そこには簡易テントがいくつか張られていた。
「おい、帰ってきたぞ。」
「よーしいい子だ。へぇ、結構いい首飾りじゃねぇか。高く売れそうだな。」
「しっかし適当に放ってみたが…まさかこんな物持ってくるなんてな。通りすがりの旅人でも居たのか?」
「キー!」
そこでは3人の男が猿から首飾りを受け取っていた。
「か…かえせ!」
「ん?なんだ?このガキ。」
「返せって…コイツ追っかけてここまで来たのかよ?」
「へぇ〜…最近のガキも根性あるんだな。」
「それはひとからもらっただいじなものだ!かえせ!!」
「返せと言われて素直に盗んだ物返す盗賊がどこに居るんだよバーカ」
「なあなあ、コイツも攫って売っちまおうぜ。まだまだ全然チビのガキだけど良い値段で売れるだろ。」
「ふむ。そいつは悪くないな。」
「く……」(なんで俺の人生こんなガラ悪いやつらにばっかり絡まれるのかな……)
「は〜いボウヤ〜…大人しくしよう…ねッ!!」
盗賊のうちの1人が飛びかかるができうる限り素早く回避して首飾りを持っている盗賊に突撃する。
「かえせー!!」
「だからどこに盗まれた物を返す盗賊が―」
「ふんっ!」
降助はそのまま突進し、ジャンプして盗賊の、男の急所に頭突きする。
「ふごおおっ……!!」
「返せ〜!!」
股間を押さえて悶える盗賊を蹴ったり叩いたりしてみるが全く効果が無いようだった。
(もうちょっと攻撃力あってくれよ俺の体ー!!)
「はーい大人しくしようね〜」
「しまっ……」
3人目の盗賊が降助を後ろから抱え上げる。
「ジタバタしても無駄だぜ〜ホラ、大人しくしてろ―」
「ことわる!!」
その瞬間、降助は出来る限り体を捻って後ろを向き、目潰しをくらわせる。
「うぎゃー!?」
「そろそろくびかざりをかえしてくれるとうれしいんだけど」
「このっ…生意気なガキが!」
ふと首飾りを持った盗賊が立ち上がり、蹴りを入れようとしてきたので降助は両手でガードしようとしたが防ぎきれず、蹴り飛ばされる。
「うぐ……」
「ったく…本当に生意気なガキが!」
苛立っている盗賊はそのまま降助の腹に重い蹴りを入れる。
「かはっ……!」(また…腹……俺悪い奴らに腹狙われすぎだろ……)
大人の男の蹴りも幼すぎる体では耐えきれず、胃から逆流してくる物には抗えなかった。
「おえっ……うげっ……」
「おいおい、売り物をあんまり傷つけんなって。商品価値が落ちちまうだろ?あー目ェ痛かった……」
「うるせぇな。ちょっと頭に血が上っちまっただけだ。ホラ、さっさと帰ってこのガキと首飾り売っぱらうぞ」
「はいはーい」
盗賊の1人が地面に倒れ伏す降助を拾おうとした瞬間、顔面を1つの拳が殴り飛ばし、盗賊を吹っ飛ばす。
「ぶべらっ!?」
「な、なんだ!?」
「あ……!」
「すまんの。怖い思いをさせてしまったようじゃな……」
「コウさん……!」
「どっから現れやがったコイツ!!」
「お、オーガだ……!なんでこんなところにオーガ族がいるんだよ!!」
「か、関係ねぇ!それにコイツ、ジジイじゃねぇか!囲んで叩け!」
「ほう……小童風情がよく吠えるの。」
「んだと……!」
「貴様ら如き…この拳だけで充分じゃな。」
「舐めてると…早死にするぞジジイ!」
「舐めてると早死にか…それは自虐かの?《合掌波》」
盗賊達は短剣を取り出し一斉に斬りかかるがコウが手を叩くと辺りに波動が広がり、盗賊達を吹き飛ばす。
「ぐおおおぉぉぉ!?」
「うわああぁぁ!!」
「ぬああぁっ!」
それから少し遅れてハクがやって来る。
「はぁ…はぁ…!だ、大丈夫か!?ミコト!」
「ハクさん……その…ごめんなさい……勝手に…離れちゃって……」
「いや、良いんじゃ。こうして何かある前に助かったんじゃから…と言いたかったが。怪我をしているようじゃの。」
「……。」
「その腕のバンダナ、山猿団じゃな。調教した猿を使った金品の窃盗を生業にする小悪党共。」
「だ、だったらなんだってんだ!」
「すまぬがその首飾りは彼にとっても儂らにとっても大事な品での。返してもらうぞい。」
「だから……返せと言われて返す盗賊がいるかあああぁぁぁ!!」
「突撃しかしてこないとは…芸が無いのう。あれをくらっても尚それだけとは…学ばないやつらじゃ。」
「ここは儂も1つお灸を据えてやるとするかの。」
ハクがそう言うと辺りに霧が立ち込め、盗賊達を包み込む。
「な、なんだ…!?」
「この霧、どっから…!?」
「う、うわあああぁぁぁ!!」
「ど、どうした!?」
「ど、どどどどど、ドラゴンが…!」
「は、はぁ!?冗談言うなよ!ドラゴンがこんなところに……」
その瞬間、ドラゴンが現れ、盗賊達に向かって凄まじい雄叫びを上げる。
「ゴアアアァァァ!!!」
「「「………」」」
そのあまりの気迫に盗賊達は仲良く立ったまま気絶した。
「いまのは…なにを?」
「獣人族のうち妖狐は幻術を使えるんじゃよ。しかしドラゴンの咆哮1つで気絶とは…軟弱じゃのう。」
「そうじゃ…なっと……」
コウは首飾りを拾い上げ、降助に手渡す。
「ありがとうございます。」
「それじゃ、帰るとするかの。」
「あの、こいつらはどうするんですか?」
「ん。それなら俺が麓の町の憲兵に突き出してくるとするかの。」
「では任せたぞい。」
コウは盗賊3人を抱え、ハク達と別れて麓へ歩いていった。
「……。」
「どうしたんじゃミコト。怒ってるのを心配しているのなら大丈夫じゃよ。心配はしたが怒ってはおらん。」
「いや…そうじゃないんです。ただ…」(やっぱり俺は無力だ。守りたいと思ったものを守れない。守り通せない。あの時も、今も。このままじゃ…)
降助は俯き、考え事をしながらハクと共に館に帰り、夕食を食べた。
「あしたダメもとでいってみるか……」
降助は1つの決意を胸に眠りについた。




