表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/107

第1話 後悔したあの日

都内の高校に通う青年、神来社降助(からいと こうすけ)は塾の帰り、建物の明かりと車のライトで眩しい夜の道を歩いていた。四方から喧騒が聞こえ、車の走行音とクラクションがビルとビルの間に響いていく。


「もうすっかり暗いな…あ、母さんに連絡しとかないと……」


ポケットからスマホを取り出し、帰りのメールを途中まで入力したところでふと声に気がつく。


「…めてください…!」

「…じゃねぇか…によ〜」

「なあ、…く……ようぜ?」


明らかに揉め事の気配だった。おそらくガラの悪い男達に強引なナンパでもされているのだろう。降助はスマホをポケットにしまい、通り過ぎた路地まで戻って入っていく。そこでは案の定、会社員らしき女性がチンピラ3人に囲まれていた。


「なぁ〜いつまでもこんなところで立ってるのもなんだしお茶でもしようぜ?」

「いや…私早く帰らないと……」

「いーじゃんいーじゃん!明日土曜日なんだしさぁ!俺達と楽しい事しようぜ?」

「『俺達と楽しい事しようぜ?』とかテンプレ過ぎるだろ〜!」

「「「ぎゃはははは!!」」」


3人で盛り上がっているチンピラに臆する事なく降助は声をかける。


「その人困ってますよね。やめてください。」

「は?なんだテメェ?」

「俺達今大事なとこなんだよ。ガキはさっさと家に帰んな!」


チンピラ達は降助を無視して女性に詰め寄る。


「やめて下さい…!」

「なあ、もう面倒くせぇし無理矢理にでも連れ込んじまおうぜ」

「…そうだな。さっさとやることやっちまうか!」

「やめてって…言ってるじゃないですか!」


降助は思いっきり鞄をフルスイングし、チンピラのうちの1人を叩く。


「痛ぇなテメェ!!」

「何してんだガキ!」


降助に叩かれ、完全にキレたチンピラ達は今にも殴りかかってきそうな雰囲気になる。


「そこのお姉さん!早く逃げて!」

「で、でも…」

「大丈夫です!俺だって男です!簡単にはやられませんよ!」

「わ…分かりました!」


女性は降助に一礼すると路地を走って出ていく。


「チッ…警察を呼ばれると面倒だな…俺が捕まえてくる。お前らはそのガキシメとけ」

「りょーかーい」

「行かせるかっ!!」


降助は近くに捨てられていた缶ビールを掴んで女性を追おうとした金髪サングラスの男に投げつける。缶ビールは男に当たったが中身が入っており、男の顔にビールがかかったうえに缶が当たり、よろけたはずみに落ちたサングラスを踏み割ってしまう。


「アッ…!」

「サングラスが…!」

「テメェ……!」

(おーっとこれはマズいのでは……)

「おい、ソイツ抑えろ」

「お、おう!」

「クソッ!」


降助は抵抗するが2対1であっという間に取り押さえられてしまう。


「ぐ…離せ!」

「なぁ…お前…さっき言ってたよなぁ?『簡単にはやられませんよ』って…試してみるか?」

「う…」(これは…だいぶマズいかも……)


チンピラに羽交締めにされた降助は腹に何発も重いパンチをくらう。


「オラッ!」

「う……」


耐えきれなくなった降助は吐いてしまい、涙目になる。


「うっわ!きったね!!」

「盛大に吐いてんじゃん!」

「これで終わったと思うなよ?」

「おえっ……はぁ…はぁ…!」


腹の次は首根っこを掴まれ、顔面に何度もパンチをくらう。歯が軋み、鼻の骨にヒビが入る感触が降助に伝わっていく。


「ゴフッ…ゲフッ…」

「おらっ!おらっ!」

「なぁ、もうこの辺で良いんじゃないか?」

「だよな?そろそろやり過ぎ……」

「黙って押さえてろ。」

(マズ…だんだん意識が……)


顔面が相当に腫れた辺りで降助がガクリと項垂れると金髪の男は殴る手を止める。


「そろそろか」

「おう、そろそろこの辺でずらかろうぜ。絶対さっきの女が警察を連れてくる頃だろうし―」


男は近くのカゴに入っていた空の瓶ビールを握る。


「え…まさか……」


男は無言で瓶ビールを振り下ろし、降助の頭を思い切り殴る。瓶ビールは割れ、降助の頭からは血が滴る。


「ちょ、ちょっとっつーか…だいぶやり過ぎだよな?」

「あ、ああ…流石に死んじまうよ…!」

「あ?殺すためにやってんだよ当たり前だろ。」


男の発言と目に恐怖を感じたチンピラ2人は降助を離し、後ずさる。


「あーったく…押さえてろつったのに…」


男は地面に倒れ伏した降助の髪を掴んで持ち上げると尖った瓶ビールを腹の辺りに突き刺す。


「え!」

「ちょ…!」

(マジ……か……刺されたのか…?腹が熱い…意識が…さっきより遠く……)


降助は再び地面に倒れ伏し、周りにはどんどん血溜まりができていく。その直後に警察を連れたさっきの女性がやって来る。


「ここです!」

「チッ…来たか……」

「に、逃げろ!」

「待て!」


チンピラと男は警察に囲まれ、抵抗虚しく捕縛される。


「怪我人も居る!救急車を呼べ!」

「えっ……そんな……!」


女性は降助に駆け寄り、必死に呼びかけるが降助にはもう反応する体力すら残されていなかった。朦朧とする意識の中、ぼやけた視界から微かに見えた女性の顔は涙でずぶ濡れだった。そして、救急車のサイレンが聞こえた頃には意識は途切れた。


『昨日、都内の高校に通う男子生徒の神来社降助さん、17歳を殺害したとして、自称コンビニアルバイトの男、金田遊斗(かねだゆうと)容疑者、21歳が逮捕されました。容疑者は仲間の男2名と共に神来社さんを暴行し、殺害した疑いがもたれ、調べに対し容疑者は『ナンパの邪魔もされたし、アイツのせいでサングラスを踏み割った。ムカついたから殺した』と容疑を認めているとの事です。』


その数日後にはこんなニュースもあったらしい。


《会社員の女性ビルから転落死 自殺か》

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ