中①
朝日が少し顔を出した頃にいきなりドアを叩かれて起こされたと思ったら、扉の先には何人ものスーツ姿の男の人がいて、逮捕状を見せられあれよあれよと警察署の取調室に連れて来られてしまった。
初めての場所に緊張と好奇心が入り混じって部屋を見回すと取調室から制服を着た若い女の人と。
「やぁ」
スーツをキチンと着た隣人が自分に挨拶をしてくれた。
「刑事さんでしたか」
「うーん。隠しててごめんね?」
「いえ。此方も話す事は無かったので。……それで私は何の罪で此処にいるのですか?」
「今流行りの犯罪加害者を狙った通り魔事件。犯人は君だね」
「…………何故、自分だと?」
何時も見ていたヘラヘラしていた顔から一転、能面の様な無表情となった。
「警察を甘く見ないで欲しいな。監視カメラを目を皿にして見たり足が棒の様になるまで聞き込みをした結果、君が捜査線に浮かび上がった。犯行後の前後に君の姿が映ったり見たと言う証言があったからね。――――正直信じたくなかったけど」
「偶々帰り道で通っただけですよ?」
「毎日帰る道を変えていているのに? それも一度通った道を通る事はなかった。恐らく君は襲う獲物を探していたんだ。あの辺は治安が悪い。だから毎日とは言わないけど結構な頻度で犯行を行えた。
君があのオンボロアパートに住む様になったのは最初の事件前だ。あんな所に住んだ理由は家賃が安いだけではなく、事件を起こすにはうってつけの場所だからだよね」
当たりの様で隣人は表情は変わらなかったが右の眉が歪んだ。
此処までは順調だった。だが此処から調査は上手くいかなくなった。
なんせ障害の証拠となる『凶器』が謎だったからだ。
「傷口の形状は過去の凶器の形状を照らし合わしてもどれも合わなかった。何か重い物で頭を殴ったのは間違いなかった。
だから何度か警察が君に持ち物検査をしているよね? アレは最初から君だけに行っていたんだ。
だけど凶器になりそうな武器は何時もどんな日も、それこそ犯行が直前の時でさえもね。
行き詰まりだった。犯人が分かっているのに捕まえる事が出来ない、それなら現行犯を狙った方が良いと言う意見もあったが、君は我々警察の眼を掻い潜って犯行を行っていた。……それが出来た理由は分かっているが、今は語らないでおくよ。
話は逸れたけど、どうしても君は尻尾が出してくれず捜査本部はピリピリとしていて空気が悪かった。
俺は少し気分を変えようと俺の好物の和菓子、羊羹を食べたんだ。
泊まり込みだから何時でも食べられる様に羊羹を丸々一本買いをしていた。日持ち出来るのが羊羹の良い所だよね。
もう包丁で切る事すら面倒だからそのままの状態で食べたけど……アレって結構重さあるね」
――――眉がピクピクしている。如何やら感情と連動して眉が動くのが癖みたいだ。