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暴露~奪われ 四

「そんな……そんな生まれ方したなんて」


 雷韋らい陸王りくおうの出生の壮絶さに咄嗟には言葉が出てこなかった。


 紫雲しうんは陸王の出生とその後の陸王の力の暴走で、青蛇殿せいじゃでんの巫女を一人殺めたことを話した。その事が原因で、陸王は青蛇殿を放逐されたのだとも。


 話を聞いていた雷韋は、悲しそうな顔になって言う。


「それが今回のことに繋がったのかよ。魔族が言ってたじゃん? 日ノ本に渡ったって。そのあと、陸王にも聞いた。日ノ本で何があったのかって。だけど、ずっとずっと羅睺らごうに狙われてたからなのか? 生まれる前から」


 雷韋は紫雲しうんに縋るような眼差しを向ける。


 縋る視線を向けられたのに、紫雲は全く他人事だった。だから淡々と続ける。


「私が聞いた限りではそう言うことですね。妖刀もその為に創られたんだとか。彼の刀の対をなすようです。蓋を開けてみれば、彼が全ての災厄の中心にいた。吉宗という神剣も、羅睺を殺すために授けられたらしいですよ」


 そこまでを聞いて、陸王は鼻で笑った。それまでの緊張や苛立ち、嘲りが、全て抜け落ちてしまったように。


「それがどうした。俺を狙ってるってのが羅睺だとしたら、かかる火の粉は払うだけだ」

「陸王、知ってたのか?」


 雷韋が驚きを交えて問うが、陸王は緩く首を振った。


「羅睺が地に堕ちたことも、俺を狙っているってな事も、俺は知らん。俺が知らされていたのは、死んだ母親の腹を引き裂いて生まれてきたってことだけだ」


 一切の感情も伺わせずに、淡々と答える。だが腹の中では、天慧てんけいと共に嫌っていた羅睺と血が繋がっていることに、少なからず衝撃を受けていた。


「じゃあ、羅睺を殺さなきゃ、陸王はずっと狙われっぱなしってことか……親父さんなのに」


 呟くように言って、苦しそうに考え込む雷韋の耳に何かが響いた。


「何? 今、なんか言った?」


 雷韋が陸王を見遣る。


「何をぼけっとしてやがる。魔族を捜しに行くぞ」

「あ、あぁ、そうだけど、羅睺のことも、四獣しじゅうのことも……」

「四獣? 知るか。くだらん」


 陸王は馬鹿らしいとばかりに、渓谷の方へと戻っていった。吉宗は既に鞘の中に収めてある。


「待てよ、陸王!」


 言いながら、雷韋は慌てて陸王のあとを追った。


 その二人を見ていた紫雲だったが、不意に陸王へ声をかける。


「降りかかる火の粉を払いに行きますか」

「当然だろう」


 無感情に短く返答する。紫雲の方を見もせずに。


「では、羅睺のことも? 大元は羅睺ですよ」

「俺にちょっかいをかけてくるようなら、いずれそいつもぶち殺す」

「父親であっても?」

「親父って奴の顔を一度も見てねぇ。名前だけ神として知っていた。だが、俺は天慧も羅睺も虫唾が走るほど嫌いなんでな。つまり、俺達の関係はその程度のもんだ」


 そう言って、どんどん離れていく陸王と雷韋のあとを紫雲は追った。追って、尚、問いかけてくる。


「羅睺はこの先も貴方を狙ってきます。それをどうします?」

「言ったろう。ちょっかいをかけてくるなら、いずれぶち殺すと」

「それは予言の子として? あるいは四獣しじゅうの一としてですか?」

「ガキだろうがなんだろうが、四獣も知ったこっちゃねぇな。俺は俺だ」

「貴方と雷韋君、その歪な関係も四獣としての役割と関係があるとしても?」


 そこで少しの間が開くが、やはり陸王はなんのこともなく答えた。


雷韋(こいつ)は俺の生命の綱だ。死んで貰っても、行方不明になって貰っても俺が困る。俺が俺として生きていくためにな。ただそれだけだ。四獣なんてもんは俺達には関係ない」


 だがそこで、陸王に追いついた雷韋が彼を見上げて言う。


「紫雲の話、出鱈目だと思うのか?」

「あ?」


 陸王は不機嫌そうな声を出して、隣につく雷韋を見下ろした。


 だから、雷韋は言ったのだ。これまで自分は少陽だと思っていたが、陸王の魂と共鳴を起こすたびに、自分にないものに触れたような気がすると。それはもしかしたら陸王の陽の魂を感じているのかも知れない。それも、紫雲の言うのが本当なら太陽をだ。だから余計惹かれるのかも知れないと。それと同じようなことが陸王に起きていないかと雷韋は問うた。


「何を言ってるんだか分からんぞ」


 陸王が呆れた風に言うと、雷韋は両手を拳にして言う。


「俺にも上手く言えない。でも、本当に俺とあんたが完全な陰と陽だったら、色々説明がつくところがあるんじゃないかなって」

「なんだ。お前も影響されたか」


 小馬鹿にするように言われて、雷韋は陸王の腕を軽く叩いた。


「だって、四獣なんて言葉が出てくるんだぞ。守護四天帝しゅごしてんていだ。この世界を東西南北から護っていた神様の名前がさ。あんたは北の黒狼こくろうで、俺は南の赤獅せきし。紫雲は西の白虎。もう一人が青蛇殿で眠っているって言う、東の青蛇せいじゃだろ? つまり、紫雲の対だ。でも、確かにいきなりな話だから、いきなり全部信じろって言われても困るけど、だけどさ、俺達が出会ったのってその為だったんじゃないかなって気がしないでもないんだよな。紫雲も含めて、俺達が出会ったのって偶然じゃないと思う」


「運命だとか巫山戯ふざけたことを抜かすなよ」


「でもさ、魂のことは置いといても、俺とあんたの対ってのは種族的にやっぱおかしいよ。そう言うおかしいところを全部綺麗に説明してくれたじゃん、紫雲がさ。嘘つくんなら、こんな回りくどいことしないと思う。全部に説明がついちゃうなんて事は、普通、考えられないよ」


「なら、お前は信用するってのか」


「俺は信じる信じないの前に、全部に説明がつくことが普通じゃあり得ないって言ってんの。嘘なら尚更あり得ねぇよ。わざわざ考えるか、そんな事をさ。嘘だとしても、なんの得もないじゃんか。そこまで精密に嘘考えるか? もしそうなら、それこそ意味分かんねぇよ」


「なら、お前はなんだって思うんだ」


 それに対して雷韋はほんの僅かに躊躇ったが、すぐに答えた。


 対は大抵同族に生まれる。けれど雷韋は、赤子の頃に同族全てを失っているのだ。本来ならそこで絶望して生きなければならなかった。いつ、どんな形で狂気に蝕まれるか分からない恐怖に怯えながら。だが雷韋は、そんな事は全く構いもしなかった。すると、雷韋の目の前に対である陸王が現れたのだ。それを紫雲に話せば『奇跡的な対』だと言われて、雷韋もはっとした。生まれも育ちも年も違う陸王が対だった。更にもう一歩踏み込んでみれば、魔族と鬼族の対だと分かった。生物学的にはあり得ない対だ。


「魔族と鬼族の対なんてあり得ないのに、あり得た奇跡だ。これって、光竜こうりゅうがし向けてくれたんじゃないかって思う」


「つまり、お前は俺とお前が四獣だって言いてぇのか」


「信じ切れないけど説明は全部頷けるし、おかしなところが一つもない。話に綻びがないんだぜ? 辻褄が合ってる。それから言っても、俺達の種族を一つ一つ光竜が考えてくれてたんだ。だから、魔族と鬼族でも対になれたんだよ」


 陸王はそこで、盛大な溜息をついた。


「お前の言い分を聞いてると、『信じる』と言っているように聞こえるんだがな」

「あ、え? そう?」


 雷韋がきょとんとした眼差しを陸王に向けるが、陸王は面白くない顔をしただけだった。


「何はともあれ、今は魔族と妖刀をなんとかしたい。あの刀だけはあっちゃならん。あいつのためにも」


 苦しげに顔を歪めて陸王は言った。


「あいつ? あぁ、陸王の幼馴染みな」


 雷韋の寂しそうに言うのに、唐突に背後から声がかかった。


「あの刀、九鬼(くき)源一郎(げんいちろう)という方の持ち物だったようですね」

「うぇ!?」


 雷韋が奇声を発して背後を見る。そこには紫雲の姿があった。


「な、なんだよ。まだついてきてたのか。なんでその事知ってんだよ?」


 雷韋が驚き半分で聞いてくる。


 それを紫雲は、昨日、光竜殿にある鏡の間の水盤で、二人の様子を見ていたことを話した。その上で、大司教から妖刀消滅の任を受けているのだと、ここで改めて言う。色々話が横に逸れてしまったから、今一度、確認するように話したのだ。


 それを聞いて、雷韋は少し考え込むようにしてから言う。


「そっか。紫雲の用事って、元々妖刀だもんな」

「えぇ。本来の私の役割は妖刀を滅することですから。それに、面白いことも聞きましたからね。吉宗という刀、それは守り刀でもあり、しかし結局のところ、父親である羅睺を殺すためのもの。神剣なのでしょう? 妖刀と対をなす刀として存在する」


 どこか挑発的な紫雲の物言いに、陸王はだんまりを決め込んだ。むかっ腹は立ったが、何故か心は妙に凪いでいて、憤りまで感じることもなかった。わざとらしく絡んでくる紫雲を相手にするのも面倒に感じる。

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