バーベキューは肉の匂い。
肉の臭いがしてきた。
こんがり焼けた肉の臭いだ。
その臭いにつられて肉の台の方を見ると……
「ふっ、できたぞ。そろそろ食え」
筋肉がシャツをはみ出している男が言った。
そうだ、俺たちはバーベキューに来てたんだ。
そして辺りを見回す限りだと、都会からずっと離れたところ、
日本のザ・避暑地、ザ・別荘という感じだった。
俺は言った。
「いや……今は肉の気分じゃねーな」
「あら?じゃあコーンはいかが?焦げた肉よりもヘルシーよ?」
横から女性が出てきた。
「バーベキューは最高ね!でもカロリーに気を付けてヘルシーにしなくちゃ」
やけに横文字を多用するが、姿を見るに彼女は自分と同じ日本人だろう。
なんかいかにもバーベキューという感じだ。
というか面子がなかなかに濃いというかなんというか。
まるでこれは……
『パンパン!』
「うおおおお!!」
「あららら!?なになになに!?」
そのとき俺の脳はすでに理解していた。
これは銃声!しかも銃先は……俺達だ!!
銃声の先を見る。敵は三人だけのようだ。
「うおおお……!!おらぁ!」
まるでチーターのような速さで、一番手前の敵の喉元まで迫った。
自分でも驚くほどの体の軽さだった。
「うぐあああっ!」
そして俺はそいつの首を引きちぎった。
そして、引きちぎった首を残りの二体の方の、右の一体に投げつけた。
俺はその間に左の方に走り、そいつの心臓を右の拳で、右ひじのあたりまで貫いた。
右のやつを見た。もはやそいつは戦意喪失していた。
「………」
俺のやるべきことは分かっていた。いや、決まっていた。
そして最後の一人は手に持っていたナイフで刺した。
はぁ……はぁ……
『なぜか持っていたナイフ』
「やっぱりこれは……」
戦闘後の疲労感で後ろを見る。
自分の仲間はどうなっただろう。俺はその答えを知る。
あの二人は大量の血を流して倒れていた。
「はぁ……」
その言葉は今いる悪夢に対するため息だった。
そうして考える。夢なら、痛みも感じない。心の抵抗もない。
だから、
そのナイフで……自身の心臓を刺した。
頭が理解するより先に体が理解していた。手に触れるはすべすべした布。
夢だったか……やっぱりな。良かった。
そうして俺は言う。
「あーあ、良かった、これで俺は気兼ねなく死ねるな」
俺の頭はやがて全てを思い出した。
その上で俺は心からの言葉を言った。
「寝ればいい夢見れるって思ったんだけどなぁ……」
外ではまだ人間の肉の臭いがしていた。
あいつらは……友達。戦友だ。
今、この国では戦争をしていて……彼らとは同じ部隊で共に戦ったんだ。
あの銃声、思い出す。あの時を。
思い出した記憶、それは、あいつらの結末は夢と同じ、ということだった。
「夢じゃないんだ、あいつらの死は……」
あの銃声もあの日々も……。
まだ心臓がドキドキしている。
右手からは血が出ていた。自分がナイフで切ったからだ。
意識がもうろうとしていく。
それは現実と夢の堺をなくしていった。
そうして俺はある可能性にたどり着いた。
「まだ俺は夢の中にいるんだ」
ははは、そうか、そうか!
まだ自分は夢の中にいる。……起きなければ、いい加減に。
「現実っていう夢から覚めないとな」
手や腕からは血が出ていた。
しかし俺は本当に痛くなかった。
「やっぱ……夢だったんだ。これも」
だから自分はやるんだ。そう、夢と同じように。
そうして俺はそのナイフで自身の心臓を刺した。
最期に痛みを感じなかったのは、アドレナリンが出ていたという設定