6月10日の二人
「ごめん!遅れた!」
ベンチに座っていると、バタバタと焦った様子で青木が走ってきた。
「別にいいよ」
と立ち上がる。
深夜にメッセージもしたが、面と向かって挨拶ごなしに「おめでとう」と言った。
「はは、ありがとな」
頬を赤らめて言う俺とは違って、
彼は素直に笑った。
「あのさ これ..。」
誕生日の数日前に買った、プレゼント用にと包装された小さな箱を青木の前に差し出す。
青木は目を丸くして箱を受け取った。
「なんだこれ?」
「今開けてよ」
「じゃあ..」
と言って待ち合わせ場所のベンチに青木が座ると、俺も倣ってまた座った。
丁寧に包装を開けて箱を開けると、
小さな宝石のピアスが。
宝石はロードナイトと言って、薔薇のような優しい赤色をしている。
キラキラと乱反射する宝石をじっと見つめる青木の目は、ルビーのように綺麗だった。
「い、石言葉は友愛とかなんだとか...」
プレゼント用に包装してくださいと店員さんに言うのにもやっとだったのに、こんな石言葉だとかなんだとかを涼しい顔で言えるわけが無い。
顔が暑くて、俺は顔を簡単に扇いだ。
こんなしどろもどろでも、伝わって欲しい...!
そんな願いを胸に青木の顔をちらりと見ると、
目を細めて愛おしそうにピアスをじっと見ていた。
俺の視線に気づくと、「...綺麗だな」
と言ってはにかんだ。
「そのさ..」
「うん」
「青色にしようかと思ってたんだけど、..青木っていつもデートとかにいつも変わった服とか髪型で来るだろ?」
「そうだな」
「逆に青色じゃなくて、赤色でまたデートとかする時に合わせてくれるだろうなって」
ボソボソと話す俺に、青木は聞き逃さないように小さく相槌を打つ。
「最初は『合わせやすいように』青色かなって思ったんだけど青木が『合わせてくれる』『気に入ってもらえる』って言う気持ちのこもった物だったらなんでもいいかなって言うか...。その..」
顔から火が出そうだ。
俺は恥ずかしさで限界を迎え、黙ってしまう。
「..赤井」
「っ」横を見ると、目の前に青木の顔が。
目を細めて「ありがとな」と言って、頭を撫でてくる。
「ほんとは大声でも上げて今すぐ抱きしめてやりたいところなんだけど、流石に公衆の場だから出来そうになさそう」
「おまえなら全然してきそうだけど...。」
「流石に場所考えるわ」
「ほら、取り敢えず今の服にも合うかさ、付けてよ」
「ん」
元々つけていたピアスを取って、
赤色の綺麗なピアスを丁寧に左耳につけた。
「これ結構したんじゃない?」
「...お金は頑張った」
「なんか申し訳ないな、はは」
ピアスは横髪からチラリと覗く赤色に輝いた。
「...あ。」
そこで、俺は気付く。
たしかに、気持ちのこもったものをあげた。
服に合うとか、そんなのどうでもよかったんだ。
青木はデートの時はファッションに気を使っているけど、
実はファッションセンスがダサくてもそれが好きな人なら。
ちょっと笑ってしまうかな。
俺は。
俺のあげたプレゼントを大事にしている好きな人でいいじゃん。
俺は青木が好きなんだから、俺が青木のために考えたプレゼントを青木が大切にしている。
たったそれだけだ。
後をどう思うかは、俺と青木にかかってくるだけなんだ。
俺があげたものを大事にしてる青木か〜。
ボーッと考えていくと、俺はまた顔を赤くさせる。
その様子をじっくり見ていた青木が、ニヤリと笑った。
「な、服とか関係ないんだと思う」
と言って。
「...俺も思う」
「なんせ、1番の俺だよ?その上そんな考えてくれた贈り物、俺が似合わないわけないじゃん」
「...そうだな、お前は..やっぱり一番カッコイイよ」
俺がふっと笑って青木を見た。
また、赤色がチラリ。
「さ!行こうぜ!今日はデートだろ?」
「うん。..おめでとう」
2人が立ち上がると、流れるままに手を繋いだ。
「ありがとな」
そして歩き出す。
歩幅を合わせて、ゆっくりと。