表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂争世界の絶滅点  作者: 興 -kyo-
1/2

1章 始


「お兄様、ああお兄様お兄様、穂祝(ほのり)はずっとお兄様だけが好き


です。好きなのです、愛しています、愛おしいのです!」



「・・・・・・・・・・・・・・初めて会った時から、・・・君が好きだ


った」



「なに?よく聞こえなかったって?・・・そ、そのあれよ。あ・・・あ、


あんたの・・・か、彼女になってあげるって言ったの。いないって言って


たわよね?前に。うう・・・だっ、だから!!!!あんたのこと、あたし


も好きって言ってんの!!もうこのバカっ鈍感しねっ」



「大好きよ、愁君。だいすき。だいすき。だいすき。だいすき。だいす


き。ねえ、あいしてるの――」

 


 上から順に、妹、大人しいクラスメイト、ツンデレの帰国子女、幼馴


染。これらから惜しみなく贈られる愛の言葉は、男にとって至上の幸福で


あろう。通常であれば。

 

 

 問題は、この後だ。



「だから、だいすきな愁君の好きじゃないものは、私も好きじゃないの。


私が嫌いなものは、愁君も嫌いだよね?だから邪魔な人たちみんな壊しち


ゃお?」



 そうして、4人は殺し合いを始めた。


 最初は自分の家で取っ組み合い。


 次に、教室でそれぞれの友達を巻き込んで大喧嘩。


 そのうち、町ごと巻き込んで大騒動に発展した。



 それから3年余り時がたち、西暦2043年。

 

 世界を4分割支配した史上最凶最悪のヒロインたちは、ありとあらゆる


超常現象を思うがまま行使し、現在も闘争を続けている。








 そんな悲劇の主人公、古謝愁仁(こじゃしゅうじん)は、生業とする解


体業を一日こなした後、コンビニに寄って帰途についていた。


 身長は180台後半という偉丈夫で、黒のショートヘアを無造作に生や


している。顔立ちは精悍でそれなりに整っており、着古した銀色のウィン


ドブレーカーを百貨店に売っているジャケットにでも着せ替えるだけで、


どこぞの洋服店でモデルでもこなせそうな風体だ。

 

 さっさと帰って風呂って寝よう、ときた所でポケットの端末に通信が入


る。


「げ、非通知?」


『あの4人』の誰かならわざわざこんなことはしない。いつものように刺


客を差し向けてくるか、直接目の前に現れるだろう。


 フラッシュメモリ2個分ほどの大きさの端末を操作し、表示される立体映


像に映っていたのは、


「愁仁殿、お勤めご苦労様だ!」


 出所してきたんじゃねえぞ、とっ突っ込みたくなるが、本当に言葉通り


の意味で言っているのだろう。声音には、純粋かつ真っ直ぐな響きがあ


る。


「なんだ(いち)か・・・また設定いじったろ。非通知になってんぞ」


「む?ひつうちとは何だ?良からぬものなのか?」


 画面に映る女――八坂野市(やさかのいち)は、刺客から逃げ続けてい


た自分を匿ってくれた恩師・八坂野先生の武道場で知り合った先生の実の


娘だ。実直で裏表のない性格をしており、今の古謝にとって数少ない友人


でもあった。


 最も、打ち解けるまでにはかなり紆余曲折を経ているのだが。


「全く・・・まあ、後で直してやるから。それで?用は何」


 この時代に旧世代のスマートフォンの扱い方でさえ難儀する女は、おお


そうだった、と思い出したように話し始める。


「愁仁殿、この後暇はあるか?話したいことがあるのだ」


 それを聞いた時、古謝の鼓動はズグンと跳ねた。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 言葉が、表情が、脳をかき乱す。息苦しくなってくる。


 かつての記憶――この破滅的な世界への、出発点。



「は・・・話って、今じゃダメなのか?」


 何とか自分を保ちつつ、言葉を絞り出す。そんな古謝の動揺など気づく


由もない市は、努めて平常通りのトーンで続けた。


「うむ、とても大事な話だ!19時くらいに屋敷へ来てくれ、待っておる


ぞ」


「え、おい・・・」


 答える前に、市はさっさと通話を切ってしまう。


「流石に・・・・・・・ない、よな?」


この世界で最も愛の言葉を忌み嫌う男・古謝愁仁は、暗澹たる気分に襲わ


れながら帰途につく。


 時刻は既に18時40分を回っている。紅き夕暮れの空は、遠方より少しづ


つ曇天へと近づいていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ