兄以外に興味はない人
「アディラッ‼」
うわっ。
凄い大声ね……。
2年B組前の廊下でプリントの整理をしていると――誰かに話しかけられた。
横髪を縦ロールにし、ブロンドの髪をハーフアップにしているのは!
……前に会ったことのある、レイラ・ハミルトン侯爵令嬢……。
相変わらずの高飛車で、腰に手を当て仁王立ち……。
相変わらずで嫌ね。年上でも呼び捨て、相手が王子だろうが呼び捨て。
気分が悪くなるわ。王様の事を「ルドルフ」と呼び捨てにするのは……。
親の教育はどうなっているのかしら?
子供の不始末は親の責任よ?
こんな妹と接する機会が増えるなら、ウィルソン様と結婚しなくてよかったわ……。
内心でレイラ様の事を軽く嘲っているのに気付いたのか、レイラ様は、
「アディラァッ‼ ハミルトン侯爵の跡継ぎになるあたしを無視すんなぁ‼」
私に向かって唾を飛ばす勢いで叱咤する。
……馬鹿ね。爵位がレイラ様より低い私が言うのもどうかと思うけど……。
ハミルトン侯爵の跡継ぎになるのはウィルソン様よ。
婚約時に跡継ぎになることが決まって、知っているはずなのに。
ブラコンであるが上、兄以外の事には興味がきっとないのね。
それに「すんなぁ‼」なんて……言葉遣いが女の子らしくないわ。
その大声を聞いて、教室からぞろぞろと人が出てくる。
たくさん……というか2年B組全員ね。
それでもレイラ様は動じない。
「何よ。これだけ信用されても、ハミルトン侯爵家にはかなわないというのに」
あの、大公爵の令息様がいらっしゃいますけど?
爵位の仕組みもわからないのね……。
「お言葉ですがレイラ様、国を治められるほどの権力を持つホークショー大公爵の令息様がおられますけど?」
「フンッ。そんな戯言であたしを騙そうっていうのね。あたしはそんな子爵ごときの戯言に騙されはしないわ」
……呆れる。
なんで嘘だと思ってしまうの……?
根も葉もなく私の意見を否定するレイラ様の目の前に――イライザ様が立ちふさがる。
な、なにかしら……眉がつりあがって、どことなく怒ってるオーラを感じる!
「あなた、覚悟しておいてね。あなたとあなたが大好きなお兄さん、孤立するわよ」