プロローグ
私は、普通では無い。
人に害を与える魔術「黒魔術」がこの国で私だけ使えた。
黒魔術は禁断の魔術。人を呪うのが目的の黒魔法使いや悪魔だけが使えるはずなのに。
姉は聖魔法に特化した聖女、母は王宮に仕える聖魔力の強い宮廷魔導師。
キャンベル子爵家は聖魔法に特化した家系だ。
聖魔法は黒魔術と対の関係。
逆に私は聖魔法が使えない。
さらに男性顔負けの武術の才能。
その辺の貴族に負けたことはなかったわね。
でも家族は私の事を大切に思ってくれていた。
だから私も家族を大切にしようと思った。
守り抜く、とも。
それはいいのに、どうしてこうも繋がってしまうのだろうか……?
あれは9歳の時。
参加したパーティーで、お母様が馬鹿にされた。
男爵なのに、子爵を馬鹿にしている。
私を大切にしてくれている人を馬鹿にする?
男爵が子爵に物を言う?
あんたが馬鹿じゃないのっ?
そして私は――黒魔術と武術で圧倒してしまった。
おかげでお母様はこれ以上馬鹿にされることはなかったけれど……。
「黒魔術を使うなんて……悪魔だ」
「見た目も悪魔みたいだわ!」
「戦えて、黒魔術が使えて……それって悪魔じゃないか」
貴族達は私を罵倒していった。
それを聞いて、私は何のために生まれてきたのか分からなくなった。
私は黒髪のショートヘアにルビーのような目。そして白い肌。
何が見た目が悪魔なのよ‼
でも――両親の愛情があったから乗り越えられたと思う。
愛情が無ければあのまま私はどうなっていたのかしら……。
このままだとキャンベル子爵家に泥を塗ってしまうと考えた私は、人生最後と決めた黒魔術を使った。
「〈オブレビアン〉」
黒魔術の一種の、忘却魔術。
私以外のこの場にいるものは全て「悪魔」の記憶を忘れる。
当時の私は、これをした後も「悪魔」を知っている人がいるなんて思いもしなかった。
だから――
「アディラ、君との婚約を白紙に戻す。悪魔と結婚なんて、呪われでもしない限り無理だよ」
婚約者のウィリアム様に言われたこの言葉に、体が凍りついた。
どうして、ウィリアム様は悪魔と呼ばれたことを知っているの!?
……でも、知られたなら結婚は到底無理というのはそのとおりね。
「ハハハハハハ! その顔! 絶望したな‼ 悪魔にふさわしい末路だ‼ このまま俺様が征伐してやるッ‼」
!?
……っこの人、悪魔を征伐するのが目的で私と婚約したの!?
政略結婚ではあったものの、愛し合っていたはずだったのに!
けれどナイフを向けてくるウィリアム様に、私はニマッと笑う。
まさか、私を簡単に殺せるとでも?
私はまず蹴りでナイフを折り、ウィリアム様の背後に回り込む。
「なっ!?」
ウィリアム様は立ち尽くす。
それでも騎士団の副団長ですか?
「〈スリープ〉」
そして、黒魔術の睡眠魔術を打ち込む。
ウィルソン様は、ゆっくり崩れ落ちていく。
黒魔術はもうあまり使いたくなかったけれど、黒魔術なら完璧だから……。
「〈オブレビアン〉」