怖い話、してもいい?
ブラウザバックしなよ?
『私』の話、聞いて後悔しても知らないよ?
そんなに『私』が気になるのかい?
仕方のない人だねぇ。
ヒトは好奇心に勝てないからね。
じゃあ、『私』について語ろうか。
『私』はね、中流家庭で生まれてね。
とくに何事もなく大人になったよ。
ただ、就職先が合わなくてね。
だんだん、うつになっていったんだ。
うん? 今はもう平気だよ。
おくさんになってくれた人に救われたんだ。
今じゃ、すっかり依存してるよ。
仕事を変えたから時間に余裕が出来たんだ。
手軽だなと「小説を読もう!」を見始めたんだ。
ほう、君も利用しているのかい。いいよね。
王道も恋愛もたくさん読んだね。
ある程度読んだところで、少し飽きてね。
エッセイを読んでみたんだ。
まぁ、びっくりしたよ。
色んな人が、あれこれ議論しているじゃないか。
自分のつらさを吐き出している人。
理不尽に怒りの声をあげる者。
人の心理を分析している話もあったね。
で、自己分析をしてみる事にしたんだ。
結果ね、「他者への共感能力」が欠けている。
ん?おくさんは大切にしてるよ。
風邪ひとつで、仕事が手につかないよ。
もともと違和感はあったんだ。
なんだか皆から『私』は浮いてるなぁ、って。
君は被災した人を見たら、どう感じるの?
「かわいそう」「頑張って欲しい」か、なるほど。
では、親しい友人が急に亡くなったとしたら?
「かなしい」か、おっと、例え話で怒らないでよ。
『私』かい?両方とも「ふーん」だよ。
共感できないって言ったろう?興味がないんだ。
でもね、なぜか赤の他人をじっとみてしまうんだ。
自分でも分からなくてね。
人の多い場所で考えてみる事にしたよ。
駅になら沢山人がいると思ってね。
えきに行ってみた。
すぐに理由がわかったよ。
それから毎日、駅に行って人をみてるよ。
目の前で階段を上がっていく若いOLさん。
彼女のふくらはぎは、上質な赤身のお肉。
ヲタク風でかなりの肥満体型の若い青年。
きっと最高級のフォアグラにも負けないだろう。
ちょっと痩せぎすな中年サラリーマン。
男を象徴する喉仏は、きっとコリコリだ。
みどり色のマタニティを着た女性。
1粒で2度おいしいなんて、すごくお得だ。
テニスバッグを背負う女子高生。
引き締まった二の腕のハリ、たまらないな。
ルミネ帰りの胸の主張が激しいギャル。
あの突き出た胸はどんな食感なのだろう。
今、スマホをいじる『君』の指。
ちょっと舐めさせてくれないかい?