地雷と宿屋
4話 地雷と宿屋
先に街に入っていたティナは、どういう訳か数人の男に囲まれていた。
筋肉質で防具を身につけ、斧や槍を携えている事から、恐らく彼らも冒険者なのだろう。
まあ、そんな事は正直どうでもいい。問題なのは、さっきの森の中のAレートにしろ兵士にしろあの冒険者の男にしろ、何故に絡まれているのかだ。
そして、何故ティナが抵抗をしないのか。あの程度の奴らなら、簡単にあしらえるだろうに。
もしかすれば、俺はとてつもなく面倒な地雷を踏んだのかもしれない。
だが、地雷を踏んでしまったのは俺の失態。その処理は俺がする義務があるだろうな。
「おい、ティナ」
囲まれているティナに声をかけた。
「あ、アレミスさん……」
申し訳なさそうに俯きながら名前を言ったティナ。男達は、何用だと威圧せんばかりにこちらに振り向いた。
「アンタ、見ない顔だな。誰だ? 」
ティナを取り囲む真ん中の男、腰に剣を携えている。
「俺はまお……」
魔王と名乗りかけて、俺はそこで口を閉ざした。森にいた冒険者には殺すこと前提であったが故に正体を晒したが、ここは町だ。下手に魔王と名乗り、この男をボコボコにでもしてみろ。面倒な事になるのは目に見えている。
仕方がない……。
「なんだ? 」
「俺はアレミス、しがない商人だ」
「荷物も無しに商人を騙るのか。もう少しましな嘘をつけ」
ケラケラと笑いながら言う男。いつの間にかティナを掴んでいる残りの男も、クスクスと笑っていた。
だがまあ、その通りなんだよな……。仕方がない、兵士と同じように言っておこう。
「森の中で盗賊に襲われたんだ。それで、荷物を全て持っていかれてしまってな」
「ナハハッ! ただのマヌケじゃねえか! 」
「ああ、本当にやられたよ……。それで、いつまでその女を掴んでいるつもりだ? 」
俺は薄らと覇気――相手が認識していない力の差による恐怖心を魔力で具現化させたもの――を纏わせた視線を後ろの男達に送る。
「その手、離せ」
僅かでしかない覇気にほんの一瞬だけ身震いしたようで、だがしかしその余波は大きく、未だに手が震えている。
「な、何んだこれは! 震えがっ、止まらねえ」
やはり、少し強すぎたようだな。さっきのAランク冒険者を基準にしてみたが、この程度で震え続けるとなると、こいつらはかなり弱い。
「ティナ、こっちへ来い」
震えた手を抑える為に、男達は既にティナから手を離していた。身動きが取れるようになったティナに、こちらへ来るように声をかけた。
「アレミスさん……。な、何をしたの? 」
「何でもない。俺にもよく分からん」
「そう。あ、ありがとね! じゃあ、行こっか! 」
「そうだな、まずは宿に行こう」
そそろ日も暮れる時間だ。まずは寝床を確保するべく、宿屋へと向かった。
取り残された冒険者達は、足が震えて腰を抜かしたようで、その場から追いかけてくることは無かった。
◇
<集いの宿 オリーブ>
ティナに連れられてやってきたのは、少し古びているけれどもどうやら大きいらしい宿だ。
1階部分は酒場になっており、食事目的の客も多いそう。そして、この宿最大の特徴は、人を選ばない事にある。
宿の店主がエルフと人のハーフと言うこともあってか、この街では珍しい種族を選ばない宿だとティナが言っていた。
「この宿いい所だから、アレミスさんもきっと喜ぶと思うよ! 」
「そうか、飯が美味いと良いのだけどな」
「うん、じゃあ期待してもいいね! この宿の料理は絶品だよ〜! ほら、早く入ろう」
ティナに手を引かれ、俺は逆らうこと無く宿屋――オリーブへと足を踏み入れた。




